2005.11.24
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
海の見える場所に行きたかった。

だから、ここからの景色があまりにも私の思ったとおりで。

ホテルのテラスから、全部の青を身体に受け止めるように、

手を広げて伸びをした。





予定より2ヶ月遅れで。

私と杉村は式を挙げた。

杉村、いや夫は『発病』してからも、何も変わらなかった。

正直、今でも私は戸惑いを感じている。

運命、って言葉があるなら、多分、私は運命が好きじゃない。



それでも、幸せを感じないことは無い。

小さな、ささやかな挙式を、あまり多過ぎない人たちが祝ってくれて。

それから、こうして夫と二人で青の美しい国にいる。

しばしの滞在の間、私は湧き上がってくる全ての悪い思いを、

思い出さずに忘れていようと思った。

夫の『病』のことも、それから私の母の『病』。

これからの私の、私たちの運命。

やもすると、一瞬でこの目の前の青さえ真っ黒に染めてしまいそうな思い。



「気持ちいいよなぁ」



後ろから夫がやって来て、私の横に来る。

寄り添って。



この、青を。





ちょっと、贅沢をした。

「一生に一度だから」って夫が言い、見たことも無いディナーを食べた。

お酒も進んで、私は普段飲まない癖にたくさんのワインを飲んだ。

夫も。



どれだけ飲んでも身体を壊すことは無い、って医者が苦笑いをしながら言ってた。

私と夫は随分とその夜は酔った。

シャワーだけ浴びて、ベッドに潜り込み。

深く、口付けをして指が身体を辿ってくるのを感じた。

酔ってるせいにしたくも無いけれど。

まるで身体が溶けてしまうような感覚がして、

今までに感じたことも無いくらいに強く甘く、その行為を感じた。





「なぁ」

夢も現実も区別がつかない私の耳に、夫の声が聞こえる。

「ホントに、俺、幸せだと思うよ」

何も言わずに私は夫の身体に手を回す。

ベッドが、夫の感触が心地良すぎて、今にも沈んでしまいそう。

「望みが叶ったんだからなぁ」

独り言みたいに夫が言う。

私は、望みすらしなかった大きな幸せを手に入れられたよ。

そう思う。



「永遠にさ、愛する人と生きていけるんだ」



永遠?

私はそこで、小さな違和感を感じる。

そういえば。

プロポーズの時も、彼は言った。

『永遠』って言葉。

ねぇ、それってどういう…?

言葉にしようとしても言葉にならず。

私は眠りの中に落ちていった。





目を醒ましてからも、私の中から昨日の夜の違和感が消えない。

けれど、どう聞いていいものか。

夫は変わらず笑っていて、残りの滞在を目一杯楽しもうとしている。

私も、行く前から思ってたみたいに、悪いことはこの滞在の間だけは

考えないでおきたかった。

けれど、どうしたって頭から離れない。

離れてくれない。

『永遠』って。それが『望み』って。





あなたは、知ってたの?『病』になることを。

そして、それを『望んだ』?




結局、帰りの飛行機の中まで、その思いは消えなかった。

隣で寝入ってる彼を見ながら、私は全身の疲れを感じながらも

眠ることが出来ないままでいた。





どうしても、確かめなくてはいけない。





成田に着くときになって、私の中で、そう、心が決まった。

こうして私たちのハネムーンは終わった。

















そして、全てを知るまで。

それから、時間はそんなにかからなかった。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2005.11.25 00:55:35


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

PR

Calendar

Archives

2025.11
2025.10
2025.09
2025.08
2025.07

Keyword Search

▼キーワード検索


© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: