のぽねこミステリ館

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2005.06.05
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切れない糸

~東京創元社~

 俺、新井和也は、就職先がなかなか見つからずに、焦りを感じていた。
 実家は、クリーニング屋。両親、アイロン師のシゲさん、三人のおばちゃん(松竹梅トリオ)が中心に、店を切り盛りしていた。店を継ぐ気はなかった和也だが…。
 父親が、突然倒れた。脳溢血だか、なんだかと聞かされた。そしてそのまま、死んでしまった。
 臨時休業のまま、一か月が過ぎる。シゲさんは、放心状態にあった母や俺に檄を飛ばす。店を継ぐ気などなかった俺だが、そのとき、店を手伝うと言ったのだった。
 それから。いろんな失敗をしたり、注意されたり、いやな気分になることもあるが、俺は仕事を続けていった。そんな中で、俺はいくつかの「事件」に関わることになる。
 しばらく前からこの町に住んでいるのに、スーパーの中の売り物コーナーのことを知らず、和也に、そういう細かいことから、近所の店の位置、料理の仕方などを、とつぜん聞いてくるようになった、一児の父。
 幼い頃から学校が一緒だったがあまり交流のなかった女友達。まじめで、目立たないかっこうをしていた彼女が、髪を短くし、染め、服装も変わっていった。彼女の母親は、そんな彼女の心配をする。

 商店街で目撃されるようになった「幽霊」。声をかけると、「幽霊」はすっと角を曲がり、すぐ後を追っても、いなくなってしまうという。
 和也は、これらの「謎」に、関わってしまう。そこで彼が相談に行くのが、彼の友人、沢田直之。彼は、事件の謎を解きほぐし、そしてその後のことにまで気をかけている、そんな男だった。

 坂木司さんの最新作。『青空の卵』にはじまる坂木&鳥井シリーズにかわる、新シリーズ(なのだと思う)である。
 一人称の「俺」には、困ったこと、悩み事を抱えた生き物や人々がやってくる。悩みなどを抱えた人たちを、ひきつけてしまう体質のようだ、と思っている。いろんな動物をひろってあげたり。
 彼の相棒となる沢田さんは、喫茶店でバイトをしている。料理がうまく、推理力がばつぐん。内容紹介にも書いたが、ただ事件の謎を解くだけではない。その後に、どうするべきか、どうするのが良いのか、そういうところまで気を回す青年。人の話を聞き、的確なアドバイスをするが、自分のことはほとんど話さない、少し他人から距離をとったスタンスをたもっている。
 この二人が、和也が関わる「謎」を解いていく。
 …という、内容紹介よりも。
 やっぱり、坂木さんは、登場人物をとても大切にする方だなぁ、と思う。前シリーズでも感じたけれど、前の短編で事件の当事者として出てきた人々が、その後の話にも、きちんと生きている。だから、坂木さんの物語は、連作短編集のようでもあり、全体で一つの物語になっているようにも読める。
 そして、優しい。もちろん、中には、つらいこと、悲しいこと、怒りたくなること、ネガティブな要素をもつことはたくさん描かれている。けれども、全体に漂うのは、優しさだと思う。
 昨日は、小路幸也さんの作品を読んだ。小路さんの作品も優しさにあふれていると思う。そして、明日からは加納朋子さんの小説を読むつもり。こうして、三作続けて優しい物語にふれる。うん、なんだか良い気分。





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Last updated  2005.06.05 13:13:30
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クリーニング+コーヒー=推理?  
Roko さん
坂木さんの本を読むのはこれが初めてなんですけど、さわやかでとっても気に入りました。
他の本も読んでみようかなって思ってます。 (2005.07.02 23:59:20)

コメントありがとうございます  
のぽねこ  さん
RokoさんのHPにもコメントさせていただきましたが、こちらにも。
坂木さんの他の本も、素敵な物語です。ぜひ、読んでみてください。 (2005.07.03 13:57:41)

推理小説大好きっス!  
つばき さん
坂木さんの本の登場人物のキャラが大好きです!
なんだか、心が洗われるような気持ちに襲われます。
ていってもまだ『青空の卵』しか読んでないのですけれども・・・だれか『青空の卵』を語ってくださる人いませんか? (2006.03.06 20:44:13)

つばきさんへ  
のぽねこ  さん
コメントありがとうございます。
私も、『青空の卵』で感動して、坂木さんの作品も読んでいくようになりました。登場人物の一人一人が、丁寧に、そして大切に描かれているように思います。
『青空の卵』の感想も書いているのですが、おおまかにしか書いておらず、語れるほどには覚えていません…。
一度出てきた登場人物が、次の作品からも活躍するところが(坂木さんの作品には共通した性格ですが)印象に残っています。 (2006.03.07 10:08:43)

Re:坂木司『切れない糸』(06/05)  
真理子 さん
私も坂木司さんのほんを読んだ後は加納朋子さんのほんをよみたくなります!!! (2006.07.07 12:03:59)

真理子さんへ  
のぽねこ  さん
コメントありがとうございます。
坂木さんの作品も加納さんの作品も、優しい物語ですよね。いろいろ辛い出来事も描かれますが、ほのぼのした気分になれます。新刊が楽しみです。 (2006.07.07 20:35:33)

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