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2005.12.31
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ハリウッド・サーティフィケイト
島田荘司『ハリウッド・サーティフィケイト』
~角川書店~

 ハリウッド女優レオナ・マツザキの親友で、同じく女優であるパトリシア・クローガーが殺された。
 あるヴィデオが、LAPD(重要犯罪課)に届けられた。パトリシア殺害の犯人が自ら、その殺害の過程を写したスナッフ(殺人を写したヴィデオ)だった。犯人はパトリシアの両手を手錠をかけ、彼女が成功する過程で関係した男たちのことを白状させる。そして、銃殺。その後のことはヴィデオに写されていなかったが、犯人はパトリシアの腹部をのこぎりで切り、子宮などを奪っていた。
 この事件に対して、レオナは怒りを表明した。犯人を決して許せない、と。そして彼女は、事件の捜査に深く関わることになる。
 同じ頃、レオナの知人が、彼女にジョアンと名乗る女優志願者を紹介する。ジョアンは、記憶を失い、しばらくホームレス生活をしていたという。また、腹部に手術の跡があり、腎臓と子宮がとられている、と言う。ジョアンはイギリスで一緒だったというイアンのおかげで、ケルトの神話に詳しく、いろんな話をレオナにしてくれた。
 パトリシア事件からしばらくして、再びLAPDにヴィデオが送られてくる。次のヴィデオの被害者はしかし、殺されず、世間の注目を浴びることになる。
 レオナはLAPDのエドの強力をえながら、事件の解決に乗り出していく。

 すごいです。やっぱり島田荘司さんはすごい。2005年最後に読む小説となるでしょうが(今日はもう寝るまで小説は読まないことにしようと思うので)、本当に良い読書体験でした。本書を買ったのは、たぶん4年前。ハードカバーで760ページ、最初に読んだとき、第一章あたりであまり楽しめず挫折、そのまま眠らせてしまっていました。その間に文庫版も出てしまったわけですが…。で、私は横になって読書をしているので、途中、本を支える腕がしびれたりしてびっくりする、なんて体験もしながら読み進めたのですが、しつこいですが面白かったです。

 ケルト民族のリーダー的女性が、ローマの兵士にとらえられます。彼女はケルトの伝説を語り、ケルトの民を元気付けていたのでした。ローマ人は彼女に、物語をさせます。そして、それを称えます。やがて、彼女に台本が渡されます。いつも通りの彼女のように、ケルトの伝説を語ることが中心。しかし最後は、その劇の中で、彼女自身が処刑されるという話です。殺される前に、牛に犯されて。
 以下、いささかネタバレも含むので、文字色を変えることにします。
こういった話が、ただ物語の紹介に終わらないわけです。全体の中で、重要な役割を果たすことになります。
 ハリウッドの女優たちがもつ、名誉への執着、傲慢さ、裏の姿、友人が同時に恨めしい人間でもありえるという世界。本書の中で、こうしたハリウッド女優たちの裏にある暗い部分が果たしている役割ももちろん大きいのですが、国家規模の裏組織の存在、臓器移植にまつわる問題、クローン問題、こういった先端医学の問題が大きくとりあげられており、考えさせられました。クローンは、倫理的に許されがたいものである。一方、クローン技術によって、免疫の問題も克服し、自分が望む臓器移植がうけられるかもしれないという、理想がある。もちろん、私は医学に詳しくないので、クローンの話については、本書で得た知識くらいしかなく、その知識をもとにこれを書いているわけですが、倫理的な規範を犯してまで、人は生きていいのか、人を生かしていいのか、ということを考えました。もちろん、私もそういう状況におちいったら、こんなところでのんきに思索している以上に、もっと深刻に、全力で、その問題について考えることになるのでしょう。所詮、いまの自分はのんきに生きているという現実。けれど、そういうことも含めて、問題を知り、問題意識を抱き、考えさせてもらえた、ということで、この読書体験は貴重だったと思うのです。これさえも奇麗事でしかありませんが…。
 作品の性格上、『アトポス』を思い出さずにいられませんでした。あの作品も細かいところまでは覚えていないのですが、レオナさんが中心ですしね。
(反転ここまで)
 さて、本書の主人公はレオナさんです。最後の方は、どうしようもない気分になる事態になってしまいますが…。私は正直、あまりレオナさんに好感を持っていないのですが(そのあたりも、本書を長いこと未読の状態にしておいた原因かもしれません)、それでもかっこいい、と思いました。いたたまれない気持ちにもなりましたが…。御手洗さんも、少しですが(そして電話ですが)、登場します。やっぱりかっこいいですね、御手洗さん。警察のエドさんも活躍します。本書の中で、一番まともな人間というか、「一般」の人に近い人で、彼のおかげでなにかしら安心して読める部分もありました。レオナさんも、彼のおかげでずいぶん安心していますし。
(追記)
読書中に腕がしびれた、と書きましたが、考えてみれば読了に8時間くらいかかっているわけでして…。その後も、多少ひじが痛いです…。





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Last updated  2008.10.08 19:07:07
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Re:島田荘司『ハリウッド・サーティフィケイト』(12/31)  
王道名なし  さん
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

これはアレですね。私は、時間的には「すでに死んでいたはずのお医者さん」との対面・会話という「大トリック」にのけぞった記憶があります。

私も寝そべって読むことが多いので分厚い本には手こずっています(今はキングの「ザ・スタンド」)。
寝そべって読むのにスタンド?
(2006.01.02 11:38:00)

王道名なしさんへ  
のぽねこ  さん
あけましておめでとうございます。
コメントありがとうございました。

>すでに死んでいたはずのお医者さん」との対面・会話
そうですね、感想に書き忘れていましたが、こちらも衝撃のトリックでした。他の話が大規模すぎてそちらに目が奪われがちになりましたが、そんな中でもミステリの醍醐味を感じさせてくれますね。

本年もよろしくお願いします。 (2006.01.02 12:18:21)

Re:島田荘司『ハリウッド・サーティフィケイト』(12/31)  
torezu  さん
TBのご連絡ありがとうございます。w
のぽねこさんも消してしまうことがあるんですね。
私もしょっちゅう消しそうになって困ります。w
本作品はレオナさんが格好良くて、それに相棒の刑事さんもすごく頼りになって、銃で撃って殺してしまった場面ではレオナさんの悲しみが伝わってくるようでした。
最後のどんでん返しには、やられたと思いました。
まさかあそこでイアンが出てくるとは…(笑)
また時間があれば、島田さんの小説は読んでみたいです。母も島田さんの小説を読んで、すごい作家だねとファンになったようです。
こちらこそ返信が遅れて申し訳ないです。
また遊びに来ます。w (2008.10.30 21:31:03)

torezuさんへ  
のぽねこ  さん
コメント&TBありがとうございます。
どうも、いわゆる迷惑コメントや迷惑TB対策のため、ある方のところで読んだことを参考に、禁止ワードに「http://」を入れていたことが原因と思われます。これを禁止ワードに設定すればたしかに迷惑コメントはこなくなりましたが、まさかTBも届かなくなるとは…。今回は無事にTBもいただけて良かったです。

お母様も島田荘司さんのファンになられたのですね。自分の好きな作家を身近な方も好きになってくれるのは嬉しいですよね。 (2008.10.31 06:37:19)

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