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2006.02.28
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島田荘司『天に昇った男』
~光文社文庫~

 昭和51年、九州O県の星里という街で、事件が起こった。
 星里は、星が美しいことで有名で、観光客でにぎわう街であった。その街の、伝説とも実話ともつかない言い伝えにより、昇天神社の境内に、桜の季節に高い櫓(やぐら)を建てる。そこで繰り広げられる昇天祭は、有名な祭りとなっていく。
 古くからあった街だが、洋風の建物が増えてきた。昔ながらの、街一番であった旅館「ほしのや」の経営は火の車となる。その経営者三人が殺された。櫓に、ロープでつるされていたのだった。
 容疑者は、「ほしのや」近くの料亭の板前であった、門脇春男。彼には、異例の速さで死刑が宣告された。
 それから、17年の歳月が経った。10時10分前。拘置所の死刑囚棟に、看守の足音が響く。門脇の死刑が執行されるときがきた。

 上の内容紹介では最後に書いた、死刑囚棟のシーンから、物語ははじまります。門脇さんに死刑が執行されるのは、平成5年(1993年)。日本に、死刑がそぐわなくなってきた-そういう様子が描写されます。法務大臣の署名により、死刑が執行される。大臣は、自分の手で殺人を犯す苦痛から逃れる。殺す側は、大臣の署名によって処刑されるんだからね、と、責任から逃れようとする。
 ちょっとナイーヴな話題になりますが、中世ヨーロッパでは死刑執行人は蔑視されていました。そんなことを連想します。すすんでしたい人はいない、けれども、遺族のため、秩序のため、その存在が必要とされているのでしょう。

 主人公の門脇さんは、しかし冤罪を主張しています。物語を読んでいくと、本当に苦しい人生で。といって、それは私が生まれてからの社会と、周囲の環境、それによって形成された私の考え方から「苦しい」と言っているのであって、当時を生き抜いた方々から見れば、本当に私などあまちゃんだと思うのですが…。こんなことを言っていると話がすすまないのでいきますが、覚せい剤の使用の件など、あきれてしまったというか…(門脇さんは覚せい剤もしていないようですが)。人の考え方を、いかに社会が規定しているか、というのをあらためて思います。そしてその社会を都合のいいように変えていくお上。…島田さんの作品からは、どうしても権力、お上への批判をはらんでいるようなので、こういう感想が出てくるという面も考慮しておきましょう。
 ともあれ、門脇さんはやっと星里で落ち着けたかと思ったのですが、そこで出会い、彼を慕ってくれた女性が、また不幸な境遇で。そして事件が起こり、十七年の歳月が流れるのです。
 ラストはへこみました。途中感動させられて例によって涙していたので。あっ、まさにラストで書かれているようなことを、私も体験させられたことになってしまいます。胸が痛むエピソードが多いです。高圧的な警察官。読んでいていらいらします。
 そんな中、星里に伝わる話は、面白い(笑えるという意味ではないです)オチもあって、印象に残っています。天に昇るために、大きな櫓を建てる男の話です。





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Last updated  2006.02.28 20:46:59
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