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2007.02.11
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島田荘司『龍臥亭事件(下)』


 殺人事件が相次ぐにもかかわらず、いっこうに解決の糸口が見えない石岡たち。御手洗から、なぞめいた内容の電報と、石岡を励ます内容の手紙が届くものの、石岡は御手洗からの連絡に不満を感じた。この事件を自分で解決するなんて、できるはずがない、と。
 しかし、彼の態度に変化が見え始める。ミッちゃんとユキちゃん母子と関わっていく中で、不意にユキちゃんが石岡に伝える言葉。「石岡のおじちゃん、ママを救けてね」そして、犬坊里美との会話。次第に、石岡は事件を解決するための気力を奮い起こしていく。
 繰り返される凄惨な事件を考えているうちに、それらが過去の事件の模倣ではないか、と気付く。調べごとを進め、村の知識人との話を進めるうちに、石岡は都井睦雄の事件が、今回の事件の解決の鍵だと悟る。
「津山三十人殺し」の真相は、噂が伝える事情とは、ずいぶん様相を異にしていた。

 上巻であらかたの謎が提示され、下巻の最初の方でも(いや、解決間際まで)謎めいた出来事は続くのですが、本書の主題は「津山三十人殺し」の裏にある人間の病理とでもいいましょうか。
 『八つ墓村』(特に映画)で、この事件のスプラッタな側面、一人の「鬼」の恐ろしさなどが強調されると思いますが、たとえ睦雄さんを「鬼」と形容するにしても、「鬼」は勝手に生まれたわけではなく、彼を「鬼」にしたのは時代背景や、なににもまして彼のまわりにいた人々だということが痛感されます。
 大量殺人を重ねる中でも、彼が示した優しさにふれたりすると、涙も出てきました(私が涙もろいのはもちろんですが…)。本書のうち、三章分が都井睦雄の生涯と「津山三十人殺し」事件に割かれているのですが、その中で感じたのは、「鬼」は誰なのだろう、ということです。自分を正当化するために誰かをスケープゴートにすることは、現在でもしばしば認められることでしょう。悲観的な気分になっていきます…。

 「津山三十人殺し」について、本書を読んだ後なので、私は睦雄さんについて肯定的な(あるいは擁護的な)見方をしています。しかし、重要なことは、彼を擁護的に見ることも、「鬼」と見ることも、一面的な見方でしかないということ。彼が凶行に至る過程に同情的な要素を見つけたり、凶行の最中にあっても優しさというか、ある種の分別を失っていないことは、肯定的に見る要因になりますが、被害者の感情はやりきれないでしょう。先にも書きましたが、やはり、「鬼」って誰なのだろう、なぜ「鬼」が生み出されてしまうのだろうと思っています。自分自身にも、いつでも「鬼」になりうる要素を認めつつ…。
 良い読書体験でした。面白かったです。
   *
 ミッちゃんの正体に驚きました。なるほど…。その他の作品を読むのも、さらに楽しみになります。





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Last updated  2007.02.11 15:16:21
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Comments

のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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