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2007.03.13
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加納朋子『ななつのこ』
~創元推理文庫、1999年~

 加納朋子さんのデビュー作です。七つの物語からなる連作短編集です。
 作中作に、佐伯綾乃さんの作品『ななつのこ』が登場します。こちらも七つの短編が収録された短編集なのですが、本作の一編ごとに、作中作の『ななつのこ』に収録された物語が一編ずつ紹介され、それに関連するような、ちょっと不思議な出来事が語られていく、という構成になっています。なお、作中作の『ななつのこ』が、絵本として出版されています。その絵本『ななつのこものがたり』の内容と感想は こちら をどうぞ。今回の内容紹介には、作中作の『ななつのこ』のエピソードは割愛することにします。
 主人公は、短大に通う入江駒子さん。素敵な装丁の本『ななつのこ』を読んだ彼女は、生まれてはじめてのファンレターを、作者の佐伯さんに出します。そのとき、彼女は自分が体験した不思議な出来事についても報告するのでした。

 第一話 「スイカジュースの涙」 。ある朝家を出た駒子さんが、道路に点々と落ちている血痕に気付きます。駒子さんに限らず、その血痕はニュースでも取り上げられます。しかし、駒子さんには引っかかることがありました。その血痕を、当時流行っていたスイカジュースだと一笑に付す女の子がいたのです。駒子さんが、ファンレターにこの出来事についても書いた上で佐伯さんに送ると、返事が届きます。そこには、事件の謎解きが展開されているのでした。
 第二話 「モヤイの鼠」
 第三話 「一枚の写真」 。駒子さんの自室のアルバムに、一枚だけ写真がとれたページがあります。なんの写真だったか思い出せない駒子さんですが、解答はふいにもたらされます。小学校の頃に少しの間同級生だった子から、その写真が届けられたのでした。なぜ彼女が写真を持っていたのか。なぜ今、写真を駒子さんに送ってきたのか。駒子さんは、佐伯さんへの手紙に疑問をつづります。
 第四話 「バス・ストップで」 。バス停近くのある広場に、おばあさんとお孫さんがときどきやって来ます。彼女たちは、つつじの藪の中に入っていってなにやらしているのですが、落とし物を捜しているには様子がおかしいのです。
 第五話 「一万二千年後のヴェガ」 。プラネタリウムに入った駒子さんは、前回知り合った瀬尾さんと再会することになります。翌日、町にはちょっとしたニュースがありました。プラネタリウムはデパートの屋上にあるのですが、同じく屋上にあった恐竜の置物が、幼稚園の庭にあったのです。
 第六話 「白いたんぽぽ」 。駒子さんは、友達のふみさんに誘われ、小学校のキャンプにボランティアで参加します。そこで、彼女は、人間関係が苦手だという少女に付きそうことになります。少女は、色塗りプリントで、水仙やチューリップの花だけでなく、タンポポの花まで白くしてしまったというのです。
 第七話 「ななつのこ」 ここで、いくつかの物語がつながります。

   *   *   *


 なにはともあれ、とても好きな本です。普段、色々な本を読んでいて忘れてしまっていますが、今回あらためて、私はこの作品が大好きなんだと感じました。
 特に好きなのが、第六話「白いたんぽぽ」です。(以下、ネタバレになるので、文字色を変えます) 「常識」で、人の価値観をせばめ、矯正する。それは、ときには、状況によっては必要なことかもしれません。私も、もしも、ミステリを読み終わるや、そのネタをばらしてまわるような方がもしいるとすれば、その方には考えをあらためていただきたいと思います。しかし、相手が、子供で、そして本作の場合、大人が「常識」で矯正しようとしたのは、現実なのです。現実を否定された少女は、たまらないでしょう。その大人に―先生に心を開かないのも無理はありません。本作の場合は、先生の文字通りの「無知」が原因の一つですが、私も小学生の頃に同様の悔しい思いをしたので、本作を読むたびに、あるいは思い出す度に、その小学生の頃のことを思い出します。本作ほど美しい物語にはなりませんのでここでは割愛しますが…。
 現在も、私はどうも人とずれた考え方をしているそうです。そのようによく言われます。この年になるとそのことであまり不便は感じませんが、小学生中学生は、すぐに廃れてしまうような流行に飛び乗り、それを知らない人間を馬鹿にします。逆に、馬鹿にされるのが怖いから馬鹿みたいに流行に飛び乗り、流行を知り、集団を作り、そこに入らない人間を排斥するのでしょう。実に滑稽な姿だと思いますし、年齢的には大人になっても、「みんなやっているから」と不正なこと、馬鹿なことを正当化する人間は多々いますね。不正であれ馬鹿であれ多数派さえ形成できれば彼らの勝ちですから、少数の者がその矛盾を指摘したところで彼らは動じません。正直者は馬鹿を見ることをご存じの大人たちは、子供たちに正直さを教育します。私はされ、そのように育ったつもりです。いま、馬鹿を見ています。それが悪いとは思いませんが、いったい大人たちは、子供をどうさせたいのでしょう?嘘で塗り固めた大人たちが、子供に正直に生きるよう説くのは、きわめて滑稽です。自分は、あるいは自分の世代はなれなかったから、子供が、子供たちの世代が正直者になって、世界が少しでもよくなるようにという期待を子供にかけているのでしょうか。
 私は、子供、教育、家族が関わる主題には、特に敏感に反応する傾向があります。またつらつらと書いてしまいました
(以上、横道にそれてからが大半ですが、反転を終えます)。
 第七話「ななつのこ」も、とても素敵で印象的です。

※本作の感想は、フリーページに書いていましたが、今回再読して、あらためて記事を書きました。





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Last updated  2007.10.30 21:22:34
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のぽねこ @ シモンさんへ コメントありがとうございます。 久々の再…
シモン@ Re:石田かおり『化粧せずには生きられない人間の歴史』(12/23) 年の瀬に、興味深い新書のご紹介有難うご…
のぽねこ @ corpusさんへ ご丁寧にコメントありがとうございました…

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