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2007.03.18
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~講談社文庫、1995年~

 法月さんの第一短編集です。七つの短編が収録されています。

「死刑囚パズル」死刑囚・有明省二に、刑が執行される日。所長は、たばこを吸わない彼のために、特例的に、饅頭とお茶を出すことにした。そして、刑が執行される直前、有明は苦しみはじめ、死刑に処される直前に殺された。
「黒衣の家」資産家、当麻規介が死亡した。やがて、実の子供とも強く対立している気が強い未亡人が毒殺される。しかし、状況からみて、彼女を殺せるのは小学生の少年しかいないのだった。
「カニバリズム小論」法月綸太郎の知人が、同居していた女性を殺害し、その死体を食べていた。彼はなぜ死体を食べたのか。法月が、そのことを話に「私」のもとへやって来た。
「切り裂き魔」法月は、親しくなった図書館司書・沢田穂波から相談を持ちかけられた。蔵書のミステリの多くが、その最初の方のページを切り裂かれているというのだった。
「緑の扉は危険」多量の蔵書をもつ資産家・菅田邦明が、密室状態で首を吊って死んだ。沢田のつとめる図書館は、彼の蔵書をもらい受ける約束になっていたが、未亡人が本を渡すことをしぶりはじめた。彼女がしぶるのはなぜか、法月も沢田とともに彼女を訪れる。
「土曜日の本」ある男が、毎週土曜日に、本屋に、50円玉20枚を千円札に両替しにやってくる。それはなぜか。競作のために考えていた法月のもとを、彼の知人の知人が訪れる。彼女がつとめる本屋に、毎週土曜日、50円玉20枚を両替しにくる男がいるというのだった。


 数年ぶりの再読です。
 本作は、前半三作と後半四作に大別できます。後者は、いわゆる図書館シリーズですね。
「死刑囚パズル」は、注もついていて、死刑制度について勉強になります。本当に勉強するならもっと本を読まなくてはいけないのでしょうけれど。死刑執行の直前に殺害した理由はなぜか。面白い話でした。物語自体は、動機よりも犯人を特定する、フーダニットの趣向です。
「カニバリズム小論」は、本当に一つのネタを生かすための物語という感じです。古今東西、文化人類学的な観点からより近代の犯罪についてまで、いろんなカニバリズムの事例が紹介されていて、「小論」として面白いです。ネタには、暗鬱な気分になります…。
 さて、図書館シリーズは、「土曜日の本」以外は、とてもインパクトのあるネタなので、今回もほとんど覚えていました。
 逆に、「土曜日の本」は、若竹七海さんが出題した50円玉20枚の謎に関する競作の一編というのに、すっかり忘れていました。あとがきにもありますが、楽屋落ちが多くて、両替の理由自体についてはすっきりしません。本当に、若竹さんが実際に体験したという両替事件(?)の真相はなんだったのでしょうか…。ただ、楽屋落ちの性格のせいか、法月さんの作品にしては(?)とてもユーモアがあります。出題者の名前は股掛七海さんで、東京創伝社の編集長は凸川さんで、『元寇ゲーム』でデビューしたのは蟻塚ヴァリスさん、などなど、現実の作家さんのパロディも面白いし、最近大好きな筒井康隆さんのパロディもあります(そこにはテンション上がりました)。というんで、ネタとしてはとても面白かったです。謎解きとしてはものたりませんが、そこは他の三作がカバーしていると考えたいです。
 文庫版に付記された図書館の自由をめぐるエッセイも興味深く読みました。

*そう、面白かったセリフを引用。「わかったよ。森羅万象一切有為、何であれ、全面的かつア・プリオリに、君が正しいんだ(以下略)」(272頁)。法月さん、沢田さんの尻に引かれてますね…。





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Last updated  2007.03.18 10:01:40
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