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2007.09.16
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人面瘡

~角川文庫、1996年初版~

 金田一耕助シリーズの5編の短編が収録された短編集です。この<金田一耕助ファイル>のシリーズは、基本的には旧版の改訂版なのですが、本書には、従来の旧版のいくつかの作品の中から選ばれた五つの短編が収録された、オリジナルの(?)短編集ということになります。

 まずは、本書所収の作品が、旧版ではどの本に収録されているか、示しておきます。
「睡れる花嫁」…旧版『華やかな野獣』所収
「湖泥」…旧版『貸しボート十三号』所収
「蜃気楼島の情熱」…旧版『びっくり箱殺人事件』
「蝙蝠と蛞蝓」…旧版『死神の矢』所収
「人面瘡」…旧版『不死蝶』所収



「睡れる花嫁」 昭和27年(1952年)11月。S警察署管内の交番勤務、山内巡査が夜のパトロールに出たところ、つねづね不気味に思っていたアトリエのそばで、アトリエの主という男に殺された。アトリエの主の樋口という画家は、以前、病死した妻の死体をめでていたという。ところで、そのアトリエの中から、今度は、病院から盗まれていた女の死体が発見されたのだった。

「湖泥」 岡山県に足をのばし、磯川警部に会いに行った金田一耕助だが、磯川警部は、事件の捜査にあたっているところだった。北神家と西神家の対立する村で、北神家の長男の嫁になる予定だった由紀子という女が殺されたのだった。由紀子はもともと西神家で手伝いをしていたこともあり、彼女をめぐり、また北神家と西神家はぶつかっていたのだったが、その矢先に起こった事件だった。

「蜃気楼島の情熱」 年に一度、パトロンの久保銀三のもとを訪れる金田一耕助は、アメリカから帰ってきたという銀三の友人、志賀氏と知り合うことになる。志賀は、沖の小島に竜宮城のような家をたてており、二人はそこに招待された。ところが、志賀はアメリカ在住中に溺愛していた妻を殺されており、刑期を終えて出てきたその犯人が、沖の小島の志賀邸に住んでいると聞いて、金田一耕助は胸騒ぎを覚えることになる。
 その頃、本土では、志賀氏と交流のある村松家では、次男の通夜が行われていた。その席で、出席した志賀に、主人である村松医師は、死亡した次男の驚くべき遺言を告げる。亡き次男は、志賀の現在の妻と、二人が結婚してからも通じていたというのだった。
 その夜。志賀の妻は殺され、志賀はひどく取り乱した。

「蝙蝠と蛞蝓」 おれ―湯浅順平は、アパートの隣にこしてきた、まるで蝙蝠のような金田一耕助が気にくわなかった。うさを晴らすため、向かいのアパートで死にたい死にたいと書き置きを書いている蛞蝓女史ことお繁が殺され、その罪が蝙蝠たる金田一耕助になすりつけられるという小説「蝙蝠と蛞蝓」を書き始めた。小説への熱意はすぐに冷めたものの、お繁が殺され、現場の金魚鉢に彼の指紋が残っていたこと、そして、彼が書いていた小説のために、湯浅は犯人と疑われてしまう。

「人面瘡」 岡山県を訪れ、磯川警部とともに、警部なじみの旅館にとまった金田一耕助だが、またも事件が起こる。女中の松代が服毒自殺をはかった。一命はとりとめたものの、彼女の妹の由紀子は行方不明になっていた。捜索の末、地元の人々が危険だとして泳がないようにしている稚児が淵で、全裸で死亡しているのが発見された。不審なのは、彼女の衣服が近辺に見あたらないことだった。さらに事件を彩る奇妙な要素は、松代が、妹を二度殺してしまったと書き置きを残していること、夢遊病の発作を起こしたこと、そして、松代の腋に現れた、人面瘡だった…。

ーーー

 何度目かの再読です。
 「睡れる花嫁」は、なんとも陰惨な、いやな感じの事件です。「湖泥」も、どこか読後感の悪さがあります。事件の謎は魅力的なのですが、なんとも…。「湖泥」は特に、<一応反転><ここまで>くだりで、感情をゆさぶられるような気分になりました。

「蝙蝠と蛞蝓」は、テンション高めの湯浅さんの一人称で進みます。私は軟体動物がとても、どうしようもなく苦手で、このタイトルに出てくるものには嫌悪や忌み嫌うといった感情ではすまないような感情を抱いているのですが、あのもの自体が登場するわけではないので安心です(笑) こちらは読後感も良いです。やっぱり湯浅さんの一人称のせいでしょうか、どこかユーモラスな雰囲気を感じます。
 表題作の「人面瘡」も、印象的です。特に、事件の真相を金田一さんが語るシーンでは、思わず涙ぐんでしまいます。

 旧版を古本屋で集め、横溝さんのいろんな作品を読んでいるいまとなっては、<金田一耕助ファイル>での改版にともない多くの作品が絶版となってしまっていることが残念なのですが、それでも、中学生の頃に横溝作品にはまったときに読んでいたのはこの<金田一耕助ファイル>のシリーズ。再読したり、あるいは表紙を眺めるだけでも、当時のわくわくした気分を思い出します。

*表紙画像は横溝正史エンサイクロペディアさまからいただきました。





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Last updated  2007.09.18 06:54:07
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