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2007.10.17
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島田荘司『リベルタスの寓話』
~講談社、2007年~

 御手洗シリーズの中編が2編収録された最新刊です。では、内容紹介と感想を。

「リベルタスの寓話」 2006年5月、スウェーデンの私、ハインリッヒ・レーンドルフ・シュタインオルトのもとに、ボスニア・ヘルツェゴビナ共和国の一都市モルタルで怪事件が起こったという連絡が、NATO(北大西洋条約機構)からよせられた。古びたアパートで、三人のセルビア人と、一人のモスリム人が殺害されていた。そのうち三人は首を切断され、四人とも男性器を切除されていた。そして、モスリム人は、腹部を切開され、全て取り出した内臓のかわりに、機械などをつめこまれていた。ただし、心臓のみは体内に、別の容器に入れ直した状態で、残されていた。
 現場近くの大学裏の広場には、4つのガラス瓶が整然と並べられており、その中には、それぞれ男性器が入れられていた。モスリム人の腸を除く内臓は、大学のプールに廃棄されていたという。
 重要容疑者は、あるクロアチア人。しかし彼は、ガン治療のため、病院に入院していた。

「クロアチア人の手」 2006年2月。俳句の国際コンクールで優秀賞をとった二人のクロアチア人、イヴァン・イヴァンチャンと、ドラガン・ボジョビッチは、日本の俳句振興会に招待され、来日、松尾芭蕉記念館のVIPルームに宿泊していた。
 来日後、はじめて二人だけで近くの酒屋に飲みに行き、記念館に戻って館員や学芸員の手を焼かしたその翌日。二人の日本人が記念館に勤務にくると、しめたはずの玄関が開いている。しかし、ドラガンの部屋は内側から施錠され、イヴァンの部屋はもぬけのからとなっていた。記念館近くでは事故があり、犠牲者はクロアチア人だという。非常時ということで、内側から施錠できない金属製のドアをガス切断機を用いてあけると、部屋に設置された水槽に上半身をつけた状態で被害者が見つかった。奇妙なことに、ホールの水槽に入れていたはずの5匹のピラニアがその水槽におり、また、被害者は右腕と顔の一部を食べられてしまったようだった。さらに、奇妙なのは、密室状態のドラガンの部屋で死んでいたのは、隣室で寝ていたはずのイヴァンだった…。
 事件を担当する捜査一課の寄居は、石岡に連絡をよこす。



「リベルタスの寓話」は、21世紀の切り裂きジャックともいうべき陰惨な事件、持ち去られた内蔵の謎、現場に残された犯人のものとおぼしい血液型と、重要容疑者のそれとの不一致、そしてオンラインゲームが、ミステリとしての核ですね。ただ、犯人と目されている人物ははっきりしているので、残りは、「なぜ?」の部分の解明となります。御手洗さんは大学で相当忙しくしているらしく、電話のみでの「参戦」です。
 こちらは、途中で挿入される「リベルタスの寓話」(創作だそうです)が興味深く、国のあり方、宗教のあり方についても考えさせられました。
 なにより、上でもふれた民族間の憎悪が、物語になんともいえない後味の悪さと余韻を残します。

「クロアチア人の手」は…(以下反転) 従来のミステリからいえば、そんな!と思わずにいられない解決でした。御手洗さんも真相を石岡さんに伝えることはなく、ヒントを与えるだけ、それでいて、『龍臥亭事件』でのように、石岡さんが真相を語ってくれることもありません。今回も、犯人ははっきりしていて、この場合は、「いかに?」の部分が焦点となりますが、それは犯人の視点から描かれることになります。
(ここまで)。
 上と同じく、民族感情が背景にあり、なんともいえない気分になります。

ーーー

 本書は、先日福山で開催された島田荘司さんの講演会の会場で購入してきました。はじめて買ったサイン本です。嬉しいですね。

*御手洗潔シリーズ略年表、更新しました。 こちら





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Last updated  2007.10.17 17:33:13
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