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2008.05.21
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ジャック・ルゴフほか(二宮宏之編訳)『歴史・文化・表象―アナール派と歴史人類学―』岩波書店、1999年

 歴史学(副題の通り、歴史人類学というべきでしょうか)の方法論に関する論集です。講演をもとにした論文(?)が多いので、全体的に読みやすいです。
 本書の構成は以下のとおり。

ーーー
1. ジョルジュ・デュビー「歴史認識における座標軸の転換」
2. ジャック・ルゴフ「歴史学と民族学の現在―歴史学はどこへ行くか―」
3. E・ルロワ=ラデュリー「歴史家の領域―歴史学と人類学の交錯―」
4.「インデルメッツォ ルロワ=ラデュリーにきく」
5. アンドレ・ビュルギエール「ヨーロッパ社会の研究における人類学と歴史学」

7.ロジェ・シャルチエ「表象としての世界」
付論 鼎談「社会史を考える」(柴田三千雄・遅塚忠躬・二宮宏之)
編訳者あとがき
ーーー

 このうち、1,2,3,5については、それぞれについてメモをとったので、徐々にアップして、リンクをはろうと思います。
 ここでは、全体の印象と、個別にメモをとらなかった部分についてコメントを。

 まずは、全体の印象を。今回、通読したのは2度目くらいと思いますが、いくつかの所収論文は何度か読み返してきていますが、何度読んでも興味深いなぁと思います。
 論考の中で言及されている具体的な研究についての予備知識も、前に本書を読んだときよりは増えているので、理解が深まったり…。
 特に面白かったのは、ル・ロワ・ラデュリの論考と、付論として収録された鼎談です。ル・ゴフのも何点か興味深かったのですが(空間の分析にあたってのマクロの視点とミクロの視点など)、ル・ロワ・ラデュリは、テーマは4つに限定されるものの、多くの具体的な研究を紹介していますし、最後の鼎談は、「社会史」というあいまいな概念であり研究領域の意義を示してくれます。

 では、個別にメモをとらなかった論考については、7と付論についてコメントを。

 シャルティエの論文は、何度か繰り返し読んでいるものの、今回もよく分かりませんでした。彼が専門とするテクストと読者の関係などについては、具体的なのでなんとかついていけます。ところが、社会科学からの歴史学への挑戦と、それに対する歴史学の反応、あるいは、歴史学への三つの提言の部分は、具体的な研究への言及が少ないということもあり、どうも抽象的で難しいところがありました。


 まず、「社会史」とはどういう概念か、柴田先生がラブルースやホブズボームの説を紹介します。基本的にいえるのは、それが、従来主流であった政治史へのアンチテーゼとして生まれてきた分野であるということ。さらに二宮先生は、社会史が「もともと、自己限定的な概念ではなく、はみ出して行く概念なのだと思います」とおっしゃっています。
 以下、二宮先生のご意見を中心に書いていくと、フランス(アナール学派など)での社会史研究は、「いちばん歴史から欠落していた」日常性の領域、「生の営みをきちんと捉えなおすことから」はじまったということ。一方、その実践には大きく二つの方法があります。
 一つは、マルク・ブロックの『封建社会』などのように、地域史として、一定の時期をくぎり、その中の経済構造や生活文化、心性の相互関連を解こうとする方法。もう一つは、たとえば、「死に対する態度」を非常に長いタイム・スパン捉えなおそうというフィリップ・アリエスの研究のような方法。そしてこれら二つは、相互補完的なものではないかと指摘します。
 さらに、二宮先生は、「日常性の場」を考えるにあたって、二つの軸を置いてはどうかと提言します。それは、「からだ」と「こころ」です。「からだ」の軸により、たとえば、気候が人間に与える影響、性や死の問題など、「時系列史の形ではバラバラになっている問題」も全部からませることができます。また、「からだ」がどういう状況にあるかで、「こころ」のかたちを探る。これについては、死の観念、恐怖心の問題などが例示されています。
 もちろん、その二つの軸は密接な関係をもっています。経済の問題が議論になる際には、経済を「からだ」や「こころ」にかかわらせて考察してみる、そうすると、従来の経済の位置づけとは非常に異なった位置づけが得られるのでは、というのですね。鼎談の中で出ている例をつかえば、経済→食物(食事)→「からだ」「こころ」(経済の在り方が食べ物や食事に影響を与え、それが人間のからだやこころに関わってくる)、あるいは矢印を逆にしても良いですが、いずれにしても、経済を二つの軸と関連させて考えることはできそうです。



 専門分野の勉強ばかりしていると視野が狭くなってしまうのですが、ときどきこういった方法論や、歴史学の理論的な部分についての研究を読むと、視野が広がったり、自分の研究に生きてくる発見があったりで、興味深いです。
(2008/05/19読了)





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Last updated  2008.07.12 17:40:48
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