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2008.11.09
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~角川文庫、2008年改版初版~

 きわめて入手困難となっていた(そうな)文庫の復刊です。不意の嬉しいニュースでした。
 なお、本書の背表紙の著者名のところには小林信彦編とありますが、番号は(よ5-200)となっているので、この記事の著者名には横溝正史さんの名前も掲げておきました。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
序にかえて(横溝正史)

横溝正史の秘密(横溝正史/小林信彦)
 第一部 「新青年」編集長時代から喀血まで

 第三部 同時代作家の回想
 第四部 クリスティーの死と英米の作家たち

資料1 探偵茶話<エッセイ>

資料2 作品評
 『本陣殺人事件』を評す(江戸川乱歩)
 『蝶々殺人事件』について(「推理小説論」)(坂口安吾)
 『獄門島』について(高木彬光)

年譜(島崎博/浜田和明)
あとがきにかえて(小林信彦)
解説(権田萬治)
ーーー


「横溝正史の世界」は、横溝さんと小林さんの対談です。横溝さんの奥様も参加しておられて、ほのぼのしながら読みました。

 この中で特に興味深かったのは、第三部と第四部です。第三部では、森下雨森さんから鮎川哲也さんまで、横溝さんが活躍した前後の作家たちについて語られます。読んだことがない作家さんも多いのですが、詳しい方がこのあたりを読むとより興味深く読めるのでは、と思います。私は、ここで紹介されている作家さんたちにあらためて興味をもちました(なかなか試せないと思いますが…)。

 第四部は、ちょうどアガサ・クリスティーが亡くなられた翌日に行われた対談ということで、クリスティーに関する話題が多いです。私はクリスティーは1冊も読んだことがないのですが、横溝さんは彼女の作風に近いそうですね。また、クリスティーが高齢になっても長編を書き続けていたことにならって、横溝さんも闘志を燃やしておられるところなど、他のエッセイでも読んだことがありましたが、あらためて横溝さんが素敵だなぁと思いました。
 そして、『Xの悲劇』などを書いたバーナビー・ロスが、実はエラリー・クイーンだったということ。いまはもう悲劇三部作も『…最後の事件』もエラリー・クイーン名義で書店にならんでいたかどうか、とにかく二人が同一人物ということは有名(というか、ロスの名前もほとんど覚えていませんでした)ですが、覆面作家としてロスが出てきて、実はクイーンと同一人物だと知ったときは驚きだったでしょう。こう考えると、先入観や予備知識なしで新しくなにかを知ることがどれだけわくわくすることかということがよく分かります。
 ふっと思ったのですが、たとえば『我が輩は猫である』なんか、教科書で読むのではなくていろんな小説を読んでからはじめてふれると、なんと猫の一人称かと、かなり衝撃的なのではないか、と考えたり…。先人の偉業が当たり前のようになってくるのは、どこか寂しいような気もした次第です(このニュアンスがうまく伝わりますかどうか…)。

『獄門島』 の犯人について、奥様の一言が大きな役割を果たしたエピソードなど、こちらもどこかで読んだか聞いたかした覚えがありましたが、奥様もまじえての対談ということで、あらためて楽しく読みました。

 さて、これらの対談は1975年、1976年に行われていますが、資料1として紹介されるエッセイは、1947年に執筆されています。
 こちらのエッセイもとても面白いです。探偵小説の内容から離れますが、最初の「困ったこと」というエッセイのなかでものすごくプラス思考をされているのが楽しかったです。がんばって畑仕事をしたのに失敗したということで、三度豆の種が土の中で腐ってしまったり、ということが書かれています。でもこんなことも健康なら違ったように考えられるのではないか、ということで、たとえば、「 三度豆が半分腐ったおかげで、忘れていたささげの播き場所が出来て却って好都合であった 」(200頁)とあります。横溝さんのユーモアあふれる人柄が伝わってきて素敵でした。私も最近、たとえばはじめて出かける場所に向かう途中で道に迷ったり、あるいは日常の中で起こりそうな残念なことを予想しては、そんなことがあっても広い心でいようと考えたり、なにかあってもプラス思考にもっていこうとするようになってきているので、このエッセイはとても参考にもなりました。
 それから、クリスティーの名作が『 みんないなくなったとさ 』というタイトルで書かれているのですが、昔はこんな邦題で出ていたのか、横溝さんの試訳か…。なんだか良かったです。
 対談の方でも書かれていますが、横溝さんは戦前・戦時中と、ばりばり外国の探偵小説を原著で読んでおられます。あこがれます。

 資料2の作品評は、私が大好きな 『本陣殺人事件』 を坂口安吾さんがぼろくそに言っていたり、江戸川さんもその良さを認めながらいろいろ難点を挙げたりと、ちょっと悔しく思いながら読みました。論理的に書いているようで、結局は好みですから、この手の批評は難しいなぁと思った次第です。私もブログで好き勝手書いていますが…(良いところを紹介するように心がけてはいます)。
 なお、本書の中では、エラリー・クイーンやクリスティーのいくつかの作品について、割と重要なネタが割られてしまっています。私は数年(数ヶ月!?)で忘れられるでしょうし、すぐに海外の古典ミステリを読む予定もないので大丈夫(?)ですが、いままさに海外の古典ミステリをばりばり読んでいこうとされている方は、ご注意ください。

 冒頭にも書きましたとおり、本書はきわめて入手困難な状態にありました(ようです)が、このたび改版ということで、年譜が2008年の記事まで補足されていて、こちらも興味深いと思います(しっかりとは見ていないですが…)。

 横溝さんの対談を読むことができて、幸せな読書体験でした。
(2008/11/06読了)





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Last updated  2008.11.09 10:56:45
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