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2009.10.26
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タブーの謎を解く

~ちくま新書、1996年~

 読みやすい文体でつづられた、タブーを中心に扱った文化人類学の入門書、といったところでしょうか。副題のとおり、タブーの中心となり、またそれぞれが通じ合っている食と性に焦点があてられています。
 本書の構成はつぎのとおりです。

ーーー
プロローグ
第1章 奇妙奇天烈な文化装置
 一 ヒト、この雑食動物(オムニヴォラ)
 二 ヒト、この好色動物(エロトマニア)

 一 宗教のせいか
 二 功利のためか
 三 親愛のゆえか
第3章 その人とセックスするな
 一 生物学的説明
 二 心理学的解明
 三 社会学的究明
第4章 タブーの文化象徴論
 一 カオスとコスモス
 二 リーチの文化記号論
第5章 タブーの暗号解読(デコード)

 二 世にも珍妙な日本のタブー
第6章 タブーの弁証法
 一 外食制と外婚制
 二 タブーの侵犯
 三 ユートピア幻想

ーーー

 こうしてあらためて構成を見てみると、見出しの付け方が凝っていますね。第2章では「せいか」「ためか」「ゆえか」と3通りの言い方を使い分け、第3章も「説明」「解明」「究明」となっています。こういうところも勉強になりますね。
 さて、内容の方ですが、第1章で、人間は本来なんでも食べるし、誰とでも性交渉できることを挙げ、しかし、実際には多くのタブーが設けられていることを示すことで、これを問題提起とします。なぜ多くのタブーが設けられているのか? この章では、人間に近いサルやチンパンジーの生態を、人間との比較のために描いています。サルなどにも禁忌は見られますが、しかし人間のそれは、サルのものとは違っているようで…。
 本書で挙げられるタブーを全て示すことはできませんが、特に大きく扱われているのが、食の領域ではなぜペット(とされている動物、犬や猫など)を食べないのか、性の領域ではなぜ近親者とはセックスしないのか、ということです。
 第2章と第3章と、食と性それぞれの領域のタブーについて、旧来の説明のあり方を紹介し、しかしそれらが不十分であることを示します。これらの問題を解決する答えがあることを示唆しながら、それぞれに割合説得的な部分がある諸説を批判していく過程で、次章以降への期待は高まります。
 さて、私は文化人類学には疎いですが、第4章が、本書のひとつの山場になるのかな、と思います。食と性と、その領域は違えど、タブーには共通する性格がある、というのですね。それを示す説として著者が強調するのが、ターナーが提起したリーメン(境界)論、そしてリーチによる文化記号論です。私たちは、内と外、上と下などなど、世界を二分法的に見る傾向がありますが、しかしそれぞれ二つに分けられるもののあいだには、どちらにも属さず、同時にどちらにも属する線があります。たとえば、隣り合ったある部屋Aと別の部屋Bのあいだにある敷居がそうですね。そして、このようなどちらにも属さない領域(リーメン)によって、タブーが説明できる、というのですね。
 第5章は、第4章でみたタブーの解読格子を使って、聖書などに描かれた多くのタブーの説明を試みます。
 第6章は、第1節で交換の形態について見て、第2節で、このように多くのタブーが設けられているにもかかわらず、タブーをあえて侵犯する時期(祭り)があることについて論じます。

 境界がタブーになる、というのはとても説得的で、以前読んだことのある、同じく境界の象徴性について論じた赤松憲雄『異人論序説』を連想しました。…が、それがあらゆるタブーに適応できるのか、または境界にありながらタブーとされない事例はないのか、といったところが気になってしまいます。たとえば、ウサギはペットして飼われることもあります。本書では、ペットは、動物と人間の境界にある存在ということで、食タブーになる存在、ということになっています。ところが、現在日本でウサギを食べるのは、特にタブーではないですよね。とても細かい指摘なのですが、なぜ犬(もはやペットの定番)は食べずに、小学校でも飼っているウサギは食べて良いのか。
 食(あるいは動物)に関するタブーについては、 ミシェル・パストゥロー が展開している象徴という考え方もとても説得的で(たとえば、 豚に関する論考 )、個人的な印象としては、境界という大きな枠組み(一般論)を設けるのも重要ですが、結局は個別の事例を検討していく方が重要なのかな、と感じてしまいました。ただし、象徴の歴史という視点でいけば、近親者との性交渉がタブーとなっていることは説明しがたいとも思いますし…。

 と、ちょっとひっかかったとはいえ、上に書いたことは単なる印象論です。本書は、全体としてとても興味深く読むことができました。ひとつ面白かったのは、人類が火を使って料理をするようになったことが、動物的な人間が真に人間的な存在になるきっかけだった、という説です。火を通さないかたい食べ物を食べていると、顎や咀嚼筋が重要なウェイトをもちますので、その分脳が発達する余裕がありません。ところが、火を通した柔らかい食べ物を食べるようになって、顎などの筋力を低下させ、脳の発達や咽喉部の発声器官を発達させることができた、というのですね。
 このような興味深い指摘や説の紹介も多々あり、面白い1冊でした。

(2009/10/22読了)





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Last updated  2009.10.26 06:45:22
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