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2009.12.29

若竹七海『依頼人は死んだ』

テーマ：最近、読んだ本を教えて！(24303)

カテゴリ：本の感想（や・ら・わ行の作家）

～文春文庫、2003年～

　フリーの女探偵、葉村晶さんが主人公の連作短編集です。
　それでは、内容紹介と感想を。

ーーー
「冬の物語　濃紺の悪魔」
　葉村晶は、退職した長谷川探偵事務所の所長から、ふたたび探偵の仕事をしないかと持ちかけられた。最初の仕事は、有名人の松島詩織の警護だった。連日のように送り届けられる脅迫のＦＡＸ、郵便物、外に出れば車が突っ込んでくる…。心当たりについてなかなか口にしない詩織だが、ついに首筋にあざのある男が浮かび上がる。

「春の物語　詩人の死」
　葉村晶は、婚約者を亡くした相場みのりから、彼と住む予定だったマンションの一室に住まわせてもらうようになる。今回は、そのみのりからの依頼だった。婚約者の西村孝は、公務員で、夢だった詩集の発売と、その完売という幸せも感じているところだった。そんな彼が、なぜ自殺したのか。

「夏の物語　たぶん、暑かったから」
　市藤という女が、葉村のもとに依頼に訪れる。市藤の娘が、職場の上司を刺し殺してしまった。しかし、事件の直前、娘と上司は穏やかに話をしていたという。娘はなぜ、上司を刺したのか。

「秋の物語　鉄格子の女」
　葉村は、大学生からの依頼で、書誌学のレポートの手伝いをすることになる。ところが調査対象の森川早順という画家に、彼女は強い興味を引かれていく。３１歳で自殺した彼の画風は、ある時期を境にがらりと変わってしまう。それは、なぜなのか。

「ふたたび冬の物語　アヴェ・マリア」

「ふたたび春の物語　依頼人は死んだ」
　強烈な個性をもつ書道家・幸田カエデを共通の友人とする佐藤まどかと知り合った葉村は、さっそく彼女から相談を受ける。市役所から、彼女のガンを通知する書類が届いたという。その通知は偽者だろうという話に落ち着いたが、数日後、まどかは命を落とす。酒と睡眠薬を飲んで自殺したと考えられたが、葉村はその死に疑問を抱く。

「ふたたび夏の物語　女探偵の夏休み」
　葉村は、みのりに誘われて、豪華なホテルを訪れる。ただの休暇だけのはずがない、なにか事件が起こるのでは…と葉村は危惧するが、時間は穏やかに過ぎていき…。

「ふたたび秋の物語　わたしの調査に手加減はない」
　みのりの母を通じて葉村に依頼にきた女は、１０年前に起こった、仲の良かった友人の自殺の真相を突き止めてほしいという。政略結婚の後、夫にも両親にも疎まれた彼女は離婚を決意する。そして新しい道を歩み始めようとした矢先に、自殺してしまったらしいのだった。

「三度目の冬の物語　都合のいい地獄」
　霧の深い日。葉村の命を救った男は、あの男だった。友人の死の理由が分からないままになっていた葉村に、男は究極の選択を立て続けに迫ってくる。
事件の真相か、大切な人の命か。
ーーー

　単純な謎解き物語ではありません。あるいは、謎は謎のままに残されている部分もあります。その物語の示し方は、事件の真相をとことん突き止めようとする葉村さんの姿とは、どこか対照的なものがあります。
　また、裏表紙の内容紹介にもありますが、これらの物語の真相は、こわいです。どちらかといえば、ミステリ風に描かれたホラー、という印象さえあります。
　まだそう多く読んでいるわけではありませんが、今まで読んできた若竹さんの作品は、割とかわいい表紙に読みやすい文体、けれども読み進めるとどこか重たくて嫌な気持ちにさせられる、という印象があります（『心のなかの冷たい何か』は名作だと思いますが、こちらは重さを前面に押し出しているような印象でした）。本書もかわいい表紙ですが、どの物語でもずきずきとした痛みを感じました。
　けれども、その嫌な人間模様や人々の心理も含めて、面白かったです。

(2009/12/26読了)

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