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2010.01.12
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森本英夫訳編『フランス中世処世譚』
~教養文庫、1985年~

 以前紹介した 『フランス中世艶笑譚』 の続編です。
 12世紀から14世紀にかけて、ファブリオというジャンルの作品がさかんに作られました。本書解説による定義は、「現実的主題を扱い、愚かしい行為や出来事を笑いの種にした笑い話」です。本書は、中世フランスで作られたファブリオのうち、処世術を読み取れる話を集めています。
 本書の構成は、以下のとおりです(部やそれぞれの話の連番は、便宜的に付しました)。

ーーー
第1部 悪妻ならし
 1.玉を抜かれた奥方の話

 3.にわか医者
 4.はさみで刈り込まれた牧場の話
第2部 浮気と貞淑
 1.女衒婆さんオブレの話
 2.お天道様に溶かされた子供の話
 3.良識の詰まった財布の話
 4.長い夜の話
第3部 盗みと騙し
 1.三人の泥棒の話
 2.頭巾をかぶった役人の話
 3.山うずらの話

 5.司祭の牝牛のブリュナンの話
 6.ブリフォの話
第4部 教訓話
 1.溺れた仲間を救ってやった男の話
 2.外套の話

 4.オントの袋の話

解説
ーーー

 本書も楽しく、そして興味深く読みました。


 特に嬉しかった(?)のは、第1部の第4話です。というのが、私が専門に勉強してきている説教例話(説教を分かりやすくするために説教の中で語られた短い物語)の中に、同じモチーフの話があるからです。こんな話です。 夫が、牧場が鎌で刈られているなぁというと、妻は、いいや、はさみで刈られたんだ、と反論して聞きません。ファブリオの方では、夫が妻を60発殴って、妻は倒れて言葉も聞けなくなりますが、それでも指でもって、はさみで草を刈るジェスチャーをするのです。私が読んだジャック・ド・ヴィトリという説教師(1240年没)の例話では、妻は舌を切られたことになっていますが、その後もジェスチャーをして夫に反対するのは共通しています。
(ジャック・ド・ヴィトリの例話の編纂者クレインも、この邦訳のもとになっているファブリオ集に言及しています)

 第2部の第4話は、浮気しようとした司祭が殺されて、その死体がえんえんと人々の手を渡っていく話です。自分が殺したと思われたくないから、どんどん人のところに置いていくのです。干し豚と死体を入れ替える話は、『フランス中世艶笑譚』にも見られたと思います。

 先に例話の話を少し書きましたが、基本的には説教の中で語られるということで、教訓色があります。そういうわけで、第4部も興味深く読みました。物語の最後に、この話にはこういう教訓がある、という言葉が付け加えられているのです。

 楽しく、自分の勉強にも結びつく、有意義な読書でした。

参考)記事の中で紹介したジャック・ド・ヴィトリの例話は、
The Exempla or Illustrative Stories from the Sermones Vulgares of Jacques de Vitry , London, 1890 (reprint., BiblioLife, 2009)
の222番です。

(2010/01/07読了)





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Last updated  2010.01.15 07:03:12
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