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2010.11.27
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~講談社現代新書、1986年~

「高利貸し」として中世ヨーロッパでは非難され、伝染病が起こればその犯人とみなされたユダヤ人たち。彼らへの批判的なまなざしは、中世ヨーロッパの人々によるものだけではありません。一方、ユダヤ人はアインシュタインのように優秀な人物も輩出しています。このように、いろんなまなざしが注がれるユダヤ人たちの歴史を、旧約聖書の時代から現代までたどる一冊です。
 著者の上田和夫先生は、現在、福岡大学人文学部教授(本書執筆時は高知大学人文学部教授)。ドイツ文学、そして10-11世紀頃に東欧ユダヤ人のあいだで形成されたイディッシュ語の専門家でいらっしゃいます。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
プロローグ
第一章 古代のユダヤ人
第二章 イスラム・スペインのユダヤ人

第四章 東欧ユダヤ人
第五章 ヨーロッパ近代のユダヤ人
第六章 シオニズムへの道
エピローグ

参考文献
ーーー

 ユダヤ人の歴史をコンパクトにまとめた、便利な一冊です。
 上田先生は何度かイスラエルに留学していらっしゃるようで、そのときの思い出などの実体験を踏まえたエピソードもいくつか紹介されていて、面白かったです。特に、イスラエル滞在中に不愉快なことがあったとき、「日本語で」怒鳴りつけたこともあるというのですが、日本語で怒鳴ることが案外効果的だと書かれているのが面白かったです。私は外国には一度しか(しかも数日のみ)行ったことがありませんし、まして怒鳴ったことなどありませんが、いざという時の参考にしてみたいと思います(笑)

 ネタはこのくらいにして、ごく基本的な事項をメモしておきます。

・セファルディーム…スペイン系ユダヤ人
・アシュケナージーム…東欧系ユダヤ人

(61, 98-100, 199-200頁参照)

・ジブラルタルという地名の由来
 これは、「タリクの岩」を意味する「ジャバル・アル・タリク」という言葉が語源だそうです。
 711年、イスラームの軍隊が、北アフリカを占領した後、スペインへと侵入します。そのときの指揮官の名前が、タリク・イブン・ジヤード。彼が巨大な岩山(ジャバル)の側に軍隊を上陸させたというエピソードが由来になっているようです。
(40頁参照)


 池上彰『そうだったのか!現代史』の記事でもふれましたが、現在の中東問題の原因の一つに、イギリスの二枚舌があります。
 ユダヤ人化学者ハイム・ヴァイツマンが新しい爆薬を発明したお礼と言われている、「バルフォア宣言」と呼ばれる1917年の手紙の中で、イギリスの外務大臣バルフォアは、次のように書いています。
「パレスチナの地において、ユダヤ民族の母国を建設することが望ましく思い、また、この目的の成就を容易にするべく彼らに最大の努力を払ってもらうであろう」と。
 一方、1915年、イギリスのアーサー・マクマホンは、アラブ人がトルコ帝国に反抗するなら、中近東の領土をアラブ人に与えると約束していました(フサイン・マクマホン協定)。
 このような背景の中で、アラブ人とユダヤ人の争いは激化。両方の板挟みにあって、 1947年、イギリスは委任統治してきたパレスチナを国際連盟に委ねます(要は丸投げしたのですね…)。
(191-194頁参照)
 中東問題の原因が、イギリスの二枚舌だけにあるとは思いませんが、適当な発言はかくも大きな問題に発展しうるということを、どうも最近口が軽いように思われる政治家の皆さんは肝に銘じておいてほしいです。というかそれ以前に、自分の利権のことばかり考えている政治家が(まさかそんな人間がいるはずがありませんが)もしもいるなら、即刻消えていただきたいものです。

 ところで、何度か記事の中でも言及している中世の有名な説教師ジャック・ド・ヴィトリ(1170頃-1240)が、説教を分かりやすくするために説教の中に挿入した例話の中に、気になる例話があります。その中では、ユダヤ人とキリスト教徒が賭けをしていて、負けたキリスト教徒が神を罵り、ユダヤ人はその罵りにショックを受けたり、諭したりするという役回りを演じているのです。
Thomas Frederick Crane, The Exempla or Illustrative Stories from the Sermones Vulgares of Jacques de Vitry
London, 1890 (reprint., BiblioLife, 2009)
例話番号218番、296番。
 本書でも論じられているように、ユダヤ人は決して否定的にのみ見られていたわけではありませんが、なんとなく中世のユダヤ人に抱くイメージとは異なるユダヤ人像が描かれているように感じます。この例話の意義も、もう少しつめて考えてみたいと思っています(思いながらもう何年も経っていますが…)。
※ちなみに、例話に描かれたユダヤ人については、ロシアの歴史家グレーヴィチによる『同時代人の見た中世ヨーロッパ―十三世紀の例話―』(平凡社、1995年)の中でも少し論じられています。

 記事ではいろいろ脱線もしてしまいましたが、勉強になる一冊でした。

(2010/10/22読了)





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Last updated  2010.11.27 08:14:14
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