ところで、何度か記事の中でも言及している中世の有名な説教師ジャック・ド・ヴィトリ(1170頃-1240)が、説教を分かりやすくするために説教の中に挿入した例話の中に、気になる例話があります。その中では、ユダヤ人とキリスト教徒が賭けをしていて、負けたキリスト教徒が神を罵り、ユダヤ人はその罵りにショックを受けたり、諭したりするという役回りを演じているのです。 Thomas Frederick Crane, The Exempla or Illustrative Stories from the Sermones Vulgares of Jacques de Vitry London, 1890 (reprint., BiblioLife, 2009) 例話番号218番、296番。 本書でも論じられているように、ユダヤ人は決して否定的にのみ見られていたわけではありませんが、なんとなく中世のユダヤ人に抱くイメージとは異なるユダヤ人像が描かれているように感じます。この例話の意義も、もう少しつめて考えてみたいと思っています(思いながらもう何年も経っていますが…)。 ※ちなみに、例話に描かれたユダヤ人については、ロシアの歴史家グレーヴィチによる『同時代人の見た中世ヨーロッパ―十三世紀の例話―』(平凡社、1995年)の中でも少し論じられています。