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2014.01.11
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~日本エディタースクール出版部、1987年~


 阿部謹也先生(1935-2006)が1986年にNHK市民大学「よみがえる中世ヨーロッパ」と題してテレビ放映した講座のテキストをもとにした一冊です。
 もとが講座ということもあってか、ですます体ですし、読みやすい語り口となっています。
 本書の構成は次のとおりです。

ーーー
序 ヨーロッパ中世史認識の二つの方法
第1章 謎にみちた中世
第2章 二つの宇宙
第3章 中世建築の怪物たち
第4章 中世都市の時間と空間

第6章 富める者と貧しき者
第7章 若き騎士の遍歴
第8章 手仕事と学問
第9章 子どもの発見
第10章 二つの宇宙の狭間で
第11章 中世の音の世界
第12章 絵画にみる中世社会

あとがき
ーーー

 本書のなかで特に面白かったのは、序と第1章の問題意識です。森博嗣さんが、問題を解くことよりも問題をたてる方が難しいとしばしば指摘されていますが、あらためてそれを感じました。

 たとえば、序では、このようにあります。「ヨーロッパ風の制度をとり入れてなりたっている会社や大学…などを現実に運営していく段になると、おもての顔ではうまく動きませんので、日本古来の伝統的な生活慣習、あるいは人間と人間とのつきあい方の原理がそこで働くことになるわけです。そこには血縁関係や、同族意識、同窓会あるいは派閥といったような、さまざまな関係があります。私たちの生活はいわば二つの層の上になりたっているのです」(3頁)。



 一方、ヨーロッパも、当然ずっと今のようであったわけではありません。そこで、中世史を見るにあたって、(1)現在の制度が生まれるいきさつを見ていくこと、(2)現代とは異なる人間関係のあり方を見ていくこと、という手続きが必要になる、といいます。現代の日本のあり方とからめて、この問題意識をたてることが、とても面白かったです。

 続く第1章では、大きく4つの問題をたてます。それは、怪物(教会の入り口などを彩る数多くの怪物たちの意味は?)、時間(意識)、空間(墓所、教会など、聖なる場所として公権力も介入することができない避難場所であるアジールはなぜ近代に消滅したのか?)、死生観(死を意識することは、生を意識することにもつながります)の4つです。

 第2章は、これらの問題を解決するにあたってのキーワードである、「二つの宇宙」観を論じます。これは本書全体に通じるキーワードとなります。人間の理解の及ぶ範囲である小宇宙(ミクロコスモス。家、共同体…)と、人間の理解の及ばない大宇宙(森などの自然、天体…)の二つの観念があったと論じられます。ここで面白いのは、家のなかで使うかまどの火や、くんできた水と、山火事の火や大洪水の水は異なるものとして意識されていた、という指摘です。

 第3章以下のメモは省略しますが、第1章までの問題関心と、第2章のキーワードでつらぬかれたその議論は、どれも非常に興味深いです。

 ただ、少し気になったのは、ざっくり「中世では…」という議論がされている部分があること。中世といっても、西暦500年頃から1500年頃と1000年ほども続きますし、そのなかで変化もあります。一点、特に気になったのは、12世紀頃に都市共同体が成立し、時間意識が変化していくという議論のなかで、次のようにあります。「都市共同体の中で、機械時計が発明されているのです。商業は常に計算可能な仕事でなければなりませんから、必ず合理的な経営を営まなければならないのです。ちょうどその頃にキリスト教が入ってきますから、円環的な時間意識から直線的な時間意識へと時間意識の転換が始まってくるわけです」(106頁)。「ちょうどその頃にキリスト教が入って」きたわけではないですから、都市共同体のなかでの時間意識の変化には、また別の説明が求められると思います。



 10年ほど前に本書に出会ったときも、わくわくしながら読んだのを覚えています。アジールという概念や二つの宇宙など、当時非常に勉強になりました。ということで、個人的にも印象深い一冊です。





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Last updated  2014.01.11 20:46:24
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