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2017.02.04
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Barbara A. Shailor, The Medieval Book , University of Toronto Press, 1991

 著者のバーバラ・シェイラーは、本書刊行当時はバックネル大学Bucknell Universityの古典学科に所属されていて、現在はイェール大学所属のようです(イェール大学HP閲覧)。
 本書は、イェール大学バインネック稀覯本・写本図書館の、25周年記念展覧会のカタログのような性格の本で、図版が豊富で嬉しい1冊です。
 本書には特に目次はありませんが、序文を除いて全部で16ある小見出しを自分なりに大きく分類すると、次のような構成になります。([ ]内がのぽねこ補足)

―――
序文

[第1章 書物の素材]
パピルス、羊皮紙と紙

[第2章 書物の製造過程]
穴開けと罫線引き、写字生、書体、装飾、製本


初期修道院での書物生産、聖務日課とミサのための書物、聖書、
私的な信心の書物、世俗・俗語テクスト、書籍商と大学、
備忘録commonplace book、手引書、ルネサンス人文主義
―――

 個人的に最も面白かったのは第2章です。西洋中世世界で、書物がどのように作られていたのかが、多くの書物の写真や説明用のイラストもあって、とても分かりやすいです(ちなみに数年前から、西洋中世学会でも写本の展示をしてくださっていて、そこでは羊皮紙の製造過程も実物を見ながら知ることができます)。

 簡単にメモすると、次のような過程になります。

 まず、本の大きさを決めます。ページの左右の欄外に目印となる穴をあけておき、その穴と穴のあいだに罫線をひきます(あらかじめいくつかの罫線のパターンを彫った罫線用ボードもあったようで、興味深いです)。

 そして、写字生が文字を記していきます。これが苦行だったようで、怒ってペンを壊した人もいたとか…。彼らあるいは本の制作の管理者は、装飾頭文字や絵を描くスペースを残しておいて、文字を書いていきます。関連して、字体の通史的な流れも紹介されます。

 次いで、あらかじめ残されていたスペースに、装飾頭文字などが描かれていきます。欄外に、頭文字は何を書けば良いのかという指示が残されている事例も紹介されます。

 特にこのあたり、凝った装飾頭文字をどのように書いていたのか気になっていたので、たいへん興味深く読みました。彩色写本がとても計画的に作られていたという実態にふれることができました。

 最後に、製本となります。初期中世、製本過程は、写字生や装飾家とは別の専門の人がしていたそうで、13世紀になっても、専門の製本職人がいたそうです。ばらばらする折り帖を順番に並べるためのナンバリングの方法、実際の製本過程などが紹介されます。



 本書の存在は、甚野尚志「書簡とコミュニケーション」 甚野尚志・堀越宏一編『中世ヨーロッパを生きる』 東京大学出版会、2004年、251-268頁(255頁)で知り、数年前に買っていたものの、なかなか通読できずにいました。今回、ざっとでも通読できて良かったです。

 とにかく図版が豊富で、眺めるだけでも楽しい1冊です。





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Last updated  2017.02.04 13:38:34
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