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『かわいそうだね?』併録作品。うん。亜美ちゃんは美人。その通り。これ以上ないくらいに内容を的確に表したタイトルといえるでしょう。「さかきちゃんは美人。でも亜美ちゃんはもっと美人。」これまた的確に内容を表している書き出しです。さかきちゃんと亜美ちゃんの出会いは高校の入学式。「可愛いは権力。ださいは死刑」という、厳然と学校に存在するカースト制度を一瞬で見抜いたさかきちゃんは、その頂点に立つことになるであろう完璧な美貌を持つ亜美ちゃんに懐かれたことで我が身の安泰を確信します。さかきちゃんの読みは当たり、ずば抜けて可愛い亜美ちゃんは女同士の妬み嫉みの対象にもならず、クラスは勿論学校中で最も影響力のある子となり、そんな亜美ちゃんの「一番の友達」の地位を確保したさかきちゃんも一目置かれることとなります。でも、亜美ちゃんをAとするなら、さかきちゃんはAダッシュ。亜美ちゃんの傍にいなければ「美人」で通るさかきちゃんなのに、無神経な周囲の人間によって勝手に「亜美ちゃんのマネージャー」的な位置づけをされてしまいます。亜美ちゃんに魅了された男たちは、隣にいるさかきちゃんをイジり、威張ることによって、場を盛り上げ、男としての威厳を保とうとします。「アンタは亜美ちゃんのマネージャー?」「亜美ちゃんを守ってやれよ!マネージャー!」「うるせーマネージャー」「亜美ちゃんはネコ?うさぎかな?可愛いからイルカ?・・・で隣の人は蝉?」「くそマネージャー!」・・・・・・・・・。・・・アホか。こんなんで盛り上がる場ってどんな糞現場や。こんなんで保てる威厳ってどんな威厳やねん。己の格下げるだけってわからんのか阿呆が。ここで紳士的な態度をとれば一気に株が上がるものを。こういう奴に限って「アンタは人を莫迦に出来るほど顔面の状態がよろしいんですか?」と訊きたくなるような容姿だったりする。逆の立場になったらどうするんだろ。周囲の女の子がイケメンばかりをチヤホヤして、自分に対して「下がれ下郎」的な態度をとってきたらどう思うんだろ。きっと「女ってなんで男を顔で差別するんだろ。残酷だなぁ」と嘆くに違いない。その言葉そのまま返してやるよこの野郎。「もっと男の内面を見て欲しいよ」とか何とか言ったらシバいてやる。その内面に問題があるんだってば。こういう男たちをまとめて放り込むゴミ箱があればいいのに。←どうも男に厳しい。散々な目に遭って、亜美ちゃんのせいじゃない、亜美ちゃんは悪くないと思いながらも彼女に嫉妬し、無邪気と紙一重の残酷さ、他者への無関心を憎まずにはいられないけれど、亜美ちゃんを突き放せないさかきちゃんが愛しいです。彼女に幸せはくるのか、と心配になりますが、さかきちゃんが出会うのは阿呆男ばかりではありません。悩んだ挙句入った大学のサークルの幹事長の長野さんは、亜美ちゃんが傍にいるにも関わらず、さかきちゃんに告白してきます。さかきちゃんの聡明さや一所懸命さ真面目さ、そして勿論可愛さにも惹かれたようです。彼との付き合いは続き、二人はやがて結婚しますが、長野さんの良い所は亜美ちゃんを美人、みんなのマドンナとちゃんと認識していながら距離を置き、さかきちゃんを召使扱いせず対等に扱っているところ。これが「亜美ちゃんには全く関心ありません」なんて態度をとっていたら逆に胡散臭い。一方の亜美ちゃんは、次から次へと寄ってくるカッコいい男の子たちとなんとなく付き合い続け、その中でも最高の男を選ぶのかと思いきや、とんでもない男を好きになってしまいます。愛されるだけで愛したことのない亜美ちゃんが初めて愛したのは、よりによって、怪しげな仕事をしていて尊大で自己顕示欲の塊で「信じられないくらい失礼」で「亜美を愛していない」男。亜美ちゃんの信者達はこぞって反対しようとしますが・・・。いままで散々亜美の引き立て役として隣に立ってきた。この引き立て役の最後の役目は、優しくてかっこよくてお金持ちの王子様みたいな人に彼女を引き渡すところで終わると思っていたのに。(抜粋)このさかきちゃんの心情が切ない。並み外れた美少女に出逢うと、つい人は期待してしまう。彼女がお姫様のような人生を歩み、白馬の王子様と末永く幸せに暮らすことを。自分には手が届かない輝くような夢を叶えてくれることを。そんな夢想をする時、期待される側の気持ちはあまり考えない。そもそも彼女の自我についてもあまり考えないのかもしれない。勝手な夢の押し付け・・・。わかっちゃいるけど、あんまりアレな男を選ばれたりするともったいなくて涙が出る。自分の心と向き合い、亜美ちゃんの気持ちを考え、悩み、亜美が男を選んだ理由を悟り、誰も知らなかった亜美の「孤独」を知り、亜美なりに幸せなんだと納得し、信者に「冷たい」と責められながらも彼女を見守ろうとするさかきちゃんが素敵。完全な崇拝でも嫉妬でもない亜美ちゃんへの愛憎入り混じった友情が素敵。明るいんだか暗いんだかわからない未来の暗示で終わるラストが素敵。清涼剤というほど澄んではいないけれどドロドロでもない、妙にリアルで余韻の残る話でした。ところで『亜美ちゃんは美人』には、さかきちゃんの恋人の他にもう一人、非常に魅力的な男性が出てきます。さかきちゃんと同じ大学に在籍する、サークル「亜美研究会」のただ一人の部員、小池くん。亜美ちゃんを遠くから眺め、決して傍には近寄らず目も合わせず、ただひたすらその美しさを愛で、つ/け/回/し/や/盗/撮/などのストーカー行為は一切せず、冷静に分析している彼は、亜美の友達を務めるさかきちゃんの大変さや複雑な心理もきっちり読んでいました。何故亜美ちゃんがさかきちゃんだけに気を許し、信じているのかも。彼の亜美ちゃんへのファン心理が非常にストイックで聡明で皮肉で自虐的で美しく、共感できます。いいなぁ、こういうの。美少女への愛はこうでなければ。彼は「シューベルトをもうちょっと太らせて日を当てずに育てた外見の男の子」らしいけど外見などどうでもいい。前述の「女の子の立ち位置を決めたがる」ゴミ箱行きの男たちは彼を見習うべきだと思う。御自身も充分美しい綿矢さんが「女の劣等感」をこんなに緻密に書けるのは、お人柄なのか才能なのか・・・どちらにしろ稀有な人だと陳腐な感想を書いて締めようと思います。あー、面白かったー。
2012.09.08
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『おとぎのかけら』、ラストです(^^)『ハ―メルンの笛吹き』をモチーフにした『白梅虫』。まず、白梅の盆栽にびっしりとたかった虫のイメージに「イ―ッ!」ってなりました^^;梅の枝に鈴をかけると、その音色を嫌って虫は逃げ出します。あー、だからハ―メルンの笛吹きか(^^)さて。その鈴の音は、虫だけでなく人にも影響を及ぼすようで、少しずつ精神を蝕んでゆき、ついには・・・。男って身勝手、女って怖い、としみじみ思わせる話で、不気味な余韻が残りました。ラストは、「え?これってどういう事?」と暫く考えてしまいました。作品中、一番わかり辛い結末でした。私には。元々の話は、読む度に気になっていました。笛吹きに連れて行かれた子供達はどうなったんだろうって。どなたの作品か忘れましたが、子供達を連れ去ったものの、そのわがままに振り回されて音を上げる笛吹きのパロディを読んだ事があります。生半可な気持ちで子供を連れ回したら後でエラい目に遭うよ?って教訓ですかね^^;『いばら姫』をモチーフにした『アマリリス』。認知性が進み、一日のほとんどを眠って過ごすヒロインの祖母をいばら姫に譬えているのかと思って読む内に、都合の悪い事、自分で決める事、自分が何を望んでいるのか考える事から逃げてきたヒロイン自身も「いばら姫」だったという事実を知る事になります。逃げずに自分の気持ちと向き合い、決断したヒロインは幸せになれるでしょうか。自分を縛っていた荊からは解放されたようです。作品中、最も現実的な話だったように思います。どれも面白かったです(^^)個人的には『みにくいアヒルの子』をモチーフにした『鵺の森』が一番印象に残りました。主人公の魅力という点では、『白雪姫』をモチーフにした『カドミウム・レッド』が頭ひとつ抜けていた感じでしょうか。ここからはヲタ話なので隠します。『おおきく振りかぶって』『ダイヤのA』『A-BouT!』ネタなので、パスな方は反転なさいませんよう。良かった、今日は隠せる(^^)〈よろしければ反転どうぞです〉ペーパー作成の為に『おおきく振りかぶって』を読み返してたら・・・すっかり読み耽ってしまいましたf^_^;お約束。う~ん、やっぱり第6回から第8回までの、ハルアベ前提のミハべは萌えるわ~~。阿部君が可哀想だけど・・・。その陰で微妙にアキアベに萌えてみたり。「阿部君にはオレが投げる」「オレはタカヤに感謝する」は何回読んでもいいです(^^)秋丸君、タカヤを理解し過ぎ!なっ、なんていい奴なんだ!伊達に榛名の幼馴染やってないな!世間様の萌えとはかけ離れたところにいる私はアキアベ派でございます。阿部は総受!って、改めてタカヤ萌えしてる場合じゃないってば!これを『ダイヤのA』と絡めないといかんのに。御幸さんと阿部君だと、私にとっては両方「受」以外あり得ないのでカプにしにくいのですが、榛名さん相手だと榛名×御幸で何の問題もなくて、ある意味ラクです(^^)vあるお方のお蔭で、榛名×御幸絶賛ハマり中です(^^)いいかも、この二人。勿論本命は榛名×阿部ですが(^^;何のこっちゃ。さて。『A-BouT!』ネタです。パスな方はスル―なさって下さいね。こっちもペーパー製作でそれどころではないのですが、気になってしまったので実にくっだらない事をやってみました。1~4巻の中で、砂原×柾木が呼んだ人の名前を数えてみましたf^_^;なにぶんいい加減な性格なので数は違っているかもですが、そこら辺は「阿呆が何かしょうもない事やってるわ」と適当に流して下さると助かります。まず、柾木編です。砂原・・・29、朝桐・・・22、樋口・北条・・・5、仁宮・・・4、瀬下・・・3、皆藤・・・2、でした。やはり砂原と朝桐が競っています。やたらと「朝桐」を連呼した時もあってハラハラしましたが、例の仁宮戦以降の「砂原」呼びが半端ではなく、砂原の逆転勝利とあいなりました(^^)b一匹狼だけあって、名を呼ぶ人はかなり限られているようです。そして、砂原編です。軍団を束ねていただけあって、柾木よりは名を呼ぶ事が多いです。でも、ちょっと意外な結果になりました。朝桐・・・23、柾木・・・18、東郷・・・9、瀬下・・・8、北条・・・7、樋口・・・6、桑村・・・5、松下・甲斐(センパイ)・・・2、大門寺・・・1、でした。「朝桐」呼びの方が多いんかい!尤も、「柾木絡みの朝桐呼び」が多いようですが。「お前をそこまでさせる朝桐」とか、「なぜ朝桐にそこまでこだわる?」とか。無表情を装っていますが、かなりキてるんだろうなぁ、砂原君ってば。この台詞も意味深っちゃ意味深なんですが、それはまたいずれ。砂原→柾木編を書くかラブラブ編を書くか悩むところです。←どっ、どうでもいい悩み・・・!明日5巻を読んでから考えるかー。←どうでもいい。すみません、ちょっと控えないといけませんね。出来るかどうかはともかく。「うへぇ・・・」となられた方はスル―願います。また長くなってしまい失礼しましたm(__)m終わります。明日はマガジンコミックスがいっぱい出ますね。楽しみです(^^)アバウト5巻早く読みたいー。ダイヤ24巻の表紙が気になるー。
2010.12.16
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待っていた甲斐があって綿矢さんの新刊が図書館から届きました(^^)この方の御本は素通り出来ません。綿矢さん作品は話も勿論いいけれど何といっても文章が素晴らしい。純文学なのに難解ではなくもってまわった言い回しもなく大変読みやすいけれど素っ気なくはない。よく読むと一語一語が深い。比喩的表現も押し付けがましくなく見せつけるでなくさりげなく散りばめられていて、随所随所でどきんとさせられる。いいなぁ、こういうの。中井英夫氏の息を呑むように美しい文章もいいけれど、こういう、さらさらと流れる水のような、簡単に書けそうで書けない文章って・・・理想だ。そんな文章だから、つっかえることなくこれまたさらさらと読めてしまう。かつて中井英夫氏作品は澁澤龍彦氏に「中井英夫の話はジャンル分けするなら純文学の域にあてはまるのだろうが、純文学と言うには面白過ぎる」と評されていましたが、私も綿矢さん作品をそう申し上げたいです。「純文学というには面白過ぎる」と。結構ネタバレしているので、これから読もうと思っていらっしゃる方はスルー願います。『かわいそうだね?』のヒロインは、百貨店内のブランドショップの主任を務める、仕事をきちんとこなし気配りも出来、後輩にも頼りにされている28歳の樹理恵。仕事柄かなりお洒落。一人称なのではっきりとは描写されていないけれど、多分美人。突如地震が起こっても(この話は東日本大震災の前に描かれたらしい。大地震=阪神大震災として描かれている)きゃあと叫んではいけない種類の女、「か弱い」女が優先されて守られている間に自力で何とかしなければいけない種類の女と自分で認識している。いいなぁ、こういう女性。ちゃんと自分を客観視出来る人。「自分だったらどうだろう」と相手の立場や心情を推しはかることの出来る人。やみくもに被害者面せず冷静になろうと思える人。憧れる。理想だ。どちらかといえば脇役に感情移入する性質の私だけれど、綿矢さんの描かれるヒロインにはどの作品でも共感でき、感情移入出来る。お人柄なんだろうなぁ。でも、得てしてこういう女性は「可愛げがない」と言われたり「君は強い人だから一人でも生きていけるよね」と勝手に決めつけられたりする。こんな女性の魅力に気付かず、バッタを見てもきゃあと叫ぶような女を可愛いと思う男は、「強い幻想の自分」と「本当の自分」とのギャップに気付かず―――もしくは気付かないふりをしながら、おんぶオバケと化した「か弱い女」に一生のしかかられて苦労すればいいと思う。(どうも男に厳しい)話が逸れました。樹理恵には彼氏がいます。アメリカ暮らしが長いせいか大らかでさばさばしてて、女の子に媚を売るようなチャラさはなく、静かな強さを持っていて男らしく、責任感が強い―――だろうと思われる男・隆大。その彼の長所かと思われた男らしさや責任感の強さがとんでもない形となって樹理恵に降りかかってきます。隆大は、元カノのアキヨが就職が決まらずアパートの家賃を滞納して追い出されて途方に暮れているので、仕事が決まるまで自分の家で同居させたいと言いだします。←事後報告。意志を曲げる気はない。元カノといっても恋愛感情はもう無いし愛しているのは樹理恵だけ、樹理恵には申し訳ないと思うけれど樹理恵がこの同居を反対するなら別れるしかない、と苦渋の表情で云います。勿論樹理恵は納得いきません。でも隆大とは別れたくないし彼の苦しそうな顔を見ていると辛い、彼は困ってる人を見棄てられないだけ・・・と苦しみながらも何とか理解しようと努力しますが・・・。うぅむ。これってどうなんだろ。困ってる人を助けるのは間違っていない、というか美しいことだと思う。これが男友達だったら樹理恵も読者も「隆大って友達思いなんだなぁ」で済んだだろうに、女友達、しかも元カノだとやっぱり引っ掛かる。うーーむ。もう恋愛感情は無い、と言われても勘繰ってしまうのは致し方ないことだと思うけど、闇雲に反対すると心が狭いみたいだし・・・。難しい。でもねぇ。やっぱり隆大は卑怯だと思う。まず「正直」に打ち明けてから元カノが困っている状況を訴えて、助けることに反対するのは血も涙も無い人非人であるかのような印象を植え付けて外堀を埋め、俺が悪い、申し訳ないと言いながら、許せないなら別れたくないけど別れると半ば脅しのように言う。で、ここで文句の一つでも言おうものなら「俺だって苦しいんだ。お前ならわかってくれるよな」みたいなことを言ったりする。あー、うー。悪いが苦手なタイプだ。優しい人なんだろうけど、その優しさには「?」がつく。いっそ併録の『亜美ちゃんは美人』に出てくる自己愛と自己顕示欲の塊みたいな徹底したエゴ男の方がまだマシと言えるかもしれない。(私は絶対関わりたくないが)結局、わっかりやすい「か弱い」女を「俺が守ってやる」って自己陶酔して、ヒロインみたいに理性的でワガママをぐっと呑み込む女には人情論を持ち出して優しくかつ強引に自分のやり方押し付けてるだけなんじゃなかろうかって思ってしまう。挙句に相手がキレて反撃に出たら「なんでわかってくれないんだ」と頭を抱える。おいおいおいおい、アンタだってヒロインの追いつめられたギリギリの気持ちわかってやらんかったやろうが。恋人や妻はオカンじゃありやせんぜダンナぁ、と言いたくなる。とりあえず、この手の男はまとめて男塾にでも放り込んだらいいと思う。(やっぱり男に厳しい)よく「三角関係になったら女は浮気男ではなく相手の女を恨む」ときくけれど、それは違うんじゃないかと思ってた。あくまでも元凶は優柔不断二股男の方だろう、と。シバくならこっちをシバけよ、と。なんか男ではなく相手の女を恨んだら「負け」な気がする。そんな勝ち負けの問題じゃないんだろうけど。私が樹理恵みたいな立場になったら面倒臭くなって「イチ抜けた」したくなるけど「なんで私が引き下がらなアカンのや」って思うかなぁ。理想は、恋敵同士が結託して浮気男を「せーの」で同時にシバいて終わらすパターン。もしくは女同士意気投合して仲良くなっちゃって男なんてどうでもよくなるパターン。共通するのは「男そっちのけ」。そんな風に上手くいった例は聞いたことがないが。とにかく悪いのは間に挟まった男。そう思ってたけど、駄目だ。隆大もどうかと思うけど、ヒロインの恋敵の元カノ・アキヨは駄目だ。生理的に受け付けない。こんなのがいたら隆大そっちのけでアキヨをシバきたくなるかもしれない。樹理恵が家を訪ねてくると「ごめんなさいね。でもホント間借りしてるだけだから」なんて態度をとっておいて、陰で「りゅうくうぅぅん、さびしいよぉ」と連日メールを送っていたアキヨ。30歳にもなって、という言い方はしたくない。私だって年相応の落ち着きや分別など持っていない。でも。1億歩譲ってヒロインを出し抜いていたのはまぁ戦略として仕方ないとしよう。でも10代でもどうかと思うのに30女の「りゅうくうぅぅん・絵文字絵文字」はマズくなかろうか。いや理屈抜きで駄目だ。三角関係話の場合、大抵「恋敵の方にも言い分はあるんじゃないかなぁ」と思うことが多いけど、『かわいそうだね?』に関してはどんどんアキヨが憎たらしくなってくる。けれど、話のラスト近くの自問でもあるように、「自分が本命で相手が浮気、自分にはそれを裏切りだと責める権利がある」と決め付けるのも傲慢なのかもしれない。「正規の彼女」であろうと「妻」であろうと本命とは限らないんだし。こうしてみると「絆」って何なんだろう、と考えさせられる。綿矢さん作品はどれもそうだけど、「え?これで終わり?」と、「まだ続くんじゃないの?」とページを探りたくなるような終わり方をする。拍子抜けのような気がしないでもないが、考えたら現実世界は(死ぬ時以外)「劇的なラスト」なんてないし、全ての問題がはっきり解決するわけでもないし、わかりやすいオチがあるわけでもない。こういったフェイドアウト的な終わり方の方がリアリティがあっていいのかもしれない。少なくとも余韻はバッチリ。ラストのひとことが実に効いている。イカす。タイトルの『かわいそうだね?』は初め浪花節っぽい話で無理矢理言いくるめられて彼氏と元カノの同居に同意する羽目になったヒロインが「かわいそう」なのかと思ったけれど、それだけではなかったようで。ヒロインが行く所も働く場所もない元カノに同情して、傲慢だろうかと悩みつつ「かわいそうって感情は上から目線とは限らないんじゃないか」と一所懸命考えたり、二人の女の間で悩む彼をかわいそうだと思ったりして、でもやっぱりヒロインが一番かわいそうなんじゃないかって読者が思ってみたり、「かわいそう」なのは一人のことじゃない、二重三重の意味があるんだろうなと勝手に推測してみました。いかん、かなりネタバレしてしまった。ホントはアキヨの本性なんかは書くべくではなかったのかもしれないけど、書かないとこの嫌悪感は伝わらない、とつい書き過ぎてしまいました(>_
2012.09.07
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週チャンが読めなかった・・・orzうー。『バチバチBURST』の続きが気になるのにーっ。それは置いといて。『工場』・・・タイトルを見た時は一瞬プロレタリア文学の一種かと思い、躊躇致しました。有名な『蟹工船』等プロレタリア文学は悲惨な話が多いので苦手で。書評にも「何を作っているのかわからない工場」であまり意味のない労働をさせられている男女の話、とあったので、得体の知れない工場で、保障もろくにされずに働かされる人々の話なのかなと。『工場』の舞台の「工場」(ややこしいな)は、そんな陰気な所ではありませんでした。「何を作っているのかわからない」工場は、広大で、清潔で、大抵のものは揃っていて、一つの街のようなところです。県内のみならず全国規模で有名な、街中の人が無関心ではいられない憧れの工場のようです。それなのに、そこがそんなに魅力的な仕事場には見えないのは、作中の三人の語り手の置かれている境遇故でしょうか。正社員採用面接に来た筈なのに、碌な説明もなくちゃんとした面接もしないまま、いつの間にか契約社員として雇われる破目になった牛山桂子は、来る日も来る日も書類をシュレッダーにかける仕事だけをさせられることとなり、疑問を感じるものの、職場の仲間に訊いてみても要領を得ない答ともつかぬ答が返ってくるばかり。その桂子の兄もまた、リストラによってシステムエンジニアの仕事を失い、恋人の紹介で同じ「工場」の派遣社員として、何に使われるのかよくわからない、さして重要でもなさそうな原稿を毎日毎日赤ペンで校正するという、これまたあまり意味が無さそうな仕事をしていました。そしてもう一人、大学で苔の研究に身を捧げる充実した日々を送っていた古笛は、唐突に所属する研究室の教授の推薦という形で「工場」に雇われ、「屋上緑化計画」を担当することとなります。屋上緑化計画、といっても、担当者は古笛一人。研修があるわけでもなく、誰かから指導を受けるわけでもなく、業者と契約しているわけでもなく、ただ古笛の好きなようにしていい、何十年かかってもいいと言われて放り出される始末。上司に尋ねてみてもはぐらかされるばかり。そんな無意味な仕事に結構な賃金が支払われ、研究室兼住宅も与えられる。桂子と古笛の質問をのらりくらりかわす薄気味悪い上司の名が両方とも「後藤」というのは・・・やはり同一人物なのか。何かの企みがあるのか。何となく三人の工場勤務は同じ時期に始まったように思っていたのですが、読むうちに、どうやら古笛の方がずっと以前から働いていて、桂子とその兄が入社する頃になっても「屋上緑化計画」はほとんど進んでいないらしい、ということがわかってきます。正当な仕事とは思えない、悪い言い方をすれば「飼い殺し」のような仕事を、三人の男女に安くはない賃金を払ってやらせる工場の目的は何なのか?ほとんど意味を為さない、役に立っているのかどうかも不明な彼等の「役割」が、ラスト数行でいきなり明かされて「え?こういうことだったの?」と呆然すること暫し。最初の一行「工場は灰色で、ドアの開けると鳥の匂いがした」とは、この為の伏線だったのか?う・・・。でも解説が無いしレビューにもそれらしいこと書かれてないし、解釈が合ってるのかどうかわかりません・・・。えーと、この考えで合ってるのかな。工場のみに生息する謎の生物、「灰色ヌートリア」「洗濯機トカゲ」「工場ウ」。これらの生態についてのレポートが作中に出てくるのですが、白目以外は全て真っ黒な、カワウともウミウとも違う「工場ウ」なる鳥は、巣も卵も雛も存在せず、死骸も発見されない。どこからやって来てどこへ行くのかわからない、たまに職員に捕獲されて「搾りかす」が捨てられたりしてるようですが、暫くすると元に戻るらしい。「何か」に利用されているらしいけどそれが何なのかわからない。その「工場ウ」と「何の役に立っているかわからない三人の従業員」、そしてラストの唐突な「変身」。それらを結びつけるのは、早計に過ぎるのだろうか・・・。そういえばあの三人は、目立たず誰かと密な人間関係を保っているわけでもなく、「ある日いきなりいなくなっても周囲に影響しない人間」なのではないか・・・。そう考えると、ゾッとするような、ぬるっとするような、何とも奇妙な心地が致します。後味はそんなに悪くは無いのですが。不気味な話ではあるのですが、妙に乾いた面白味のようなものがありまして。改行がほとんど無く、たまに改行したと思ったらいきなり場面が変わっていて、時間も前後していて、「アレ?さっきまでの意味深な伏線は?」「オチはー?オチはどこだー」とツッコむこと数回。と思っていたら、思いもよらないところでオチが顔を出したりして、「えーと、これの伏線どこにあったっけ」と何度もページを戻さないといけません。改行ナシの会話文の間に挟まれた語り手の心のツッコミ、校正を担当する牛島兄のところに持ち込まれた誤植原稿の無茶苦茶さに、何度も噴いてしまいました。書評にもレビューにも「笑った」という表現は見当たらなかったので、私の感じ方がおかしいのかもしれませんが、笑ってしまうものは笑ってしまう。古笛が手にしていた筈の「謎の生物」に関するレポートが、何故か牛島兄の校正原稿に混じってたり、散歩中に偶然出会った古笛と牛島妹が、いきなり蕎麦屋に入って一緒に食事しだしたかと思ったら何故か食事する前の場面に戻って、その後おもむろに同じことを始めたりと、時間や空間の軸が時々捻じれるというかズレているような気がして、その辺りの解明は出来ませんでした。シュール文学というと、まずは何といってもフランツ・カフカ氏。日本では、安部公房氏、倉橋由美子氏等が思い浮かびますが、『工場』も、それらとはかなり味わいは違うものの、やはりシュールだと云わざるを得ません。(他の方がどう思われてるかは存じませんが)全編に漂うブラックユーモアの香りも、シュールとは無関係ではない気がしますし。最初はとっつきにくいかと思ったけど、面白かったです。併録の『ディスカス忌』『いこぼれのむし』も、紹介する時間はありませんが、どちらも背筋がゾクっとするような不気味さとブラックユーモア漂う話でした。特に『いこぼれのむし』は、虫が苦手な方は読まれない方が良いのではないかと・・・。『いこぼれのむし』は、スクールカースト制度ならぬオフィスカースト制度らしきものがテーマの一つとなっています。大人達の「格差」が子供達にも影響を与えていて、スクールカースト制度やいじめを生んでいるのなら・・・大人がどんなに「いじめはやめよう」と声をあげたとて、子供の心には届くまい。えーと、『ディスカス忌』で出てきた‘20歳の細君’とは、貧困故に飢えて熱帯魚屋の倉庫に忍び込んで「餌」を貪り喰っていた小学生の少女が成長した姿、と見ていいのかな。これまた作中の情報が少なくて、ちゃんと読みとれているか自信は無いです。『工場』『いこぼれのむし』が、ほとんど改行の無い、ある企業の話であるのに比べて、この『ディスカス忌』は、熱帯魚をテーマにしたシュールな話で、改行も会話文も他の小説と同じような形式で書かれています。この違いは何らかの計算が働いているのかな。いるんだろうな・・・。小山田さんはこれが初の著書らしいですが(それでこの完成度!)、他の作品も書かれたら拝読したいものです。全然違う作風のものを出されるかもしれないなぁ・・・。
2013.06.27
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今週のジャンプは、銀魂とかソーマとかハイキューとかあれもこれも面白くて感想書きまくりたいけど、今日は何を置いても暗殺教室。驚愕の展開\(◎o◎)/!松井先生の巻末コメントに「ここからが『暗殺教室』です」とあるけど…まさに。パソさんの御機嫌がよろしくないですが、書けるところまで書こうと思います。隠しませんが、パスな方はスルー願います。その前に。119話で理事長が「お小遣い」を渡して「ギャンブルにしか生きる喜びを感じられぬように教育」した、ホームレスらしき男性。あれって・・・回想にあった「私の生徒を殺した男」だったんだ!今頃気づいた^_^;てっきりホームレスの男性を自分の「実験」か何かの為に利用してるんだと思ってたけど・・・生徒の復讐だったんだ。誤解してました。E組に対する彼の教育方針が正しかったとは1mgも思わないけど、この件については謝らなければ。ごめんなさい。『暗殺教室』シロさんが初めてE組の教室に入った時に驚いたという「怪物」。何故怪物と思ったかというと「普通に教室にいた」から。あー…確かに。「死神」の時もそうだったけど、「いかにも」な殺し屋よりも、虫も殺さぬ顔して冷酷なことをさらっと出来る人の方が遥に怖ろしい。かの鷹岡も最初は気さくな好人物を装っていたし。E組に「希代の殺し屋」がいるんだ…しかも、最も普通に近い子なんだ。つまり、カルマ君のような優秀でイっちゃった眼をした子でも、寺坂みたいなクソガキでもない、ごく普通の子。嫌だなぁE組にそんな子がいるなんて寂しいなぁと思いつつ…シロさんが話をしている相手は誰?・・・まさかとは思うけど、殺せんせーの思い出の中のあの女性じゃないよね・・・。スーツっぽい服装とチラッと見えるショートカットの後ろ姿がそれっぽいんだけど・・・考え過ぎだよね・・・。息子は早い時期から「あの女の人がラスボスなんちゃうん?」って言ってたけど・・・いくらなんでもと思いつつ、暗殺教室の世界は何でもありだからなぁと思い直してみたり。一方、いつもの平和なE組の教室。劇での熱演を褒められた杉野君、「神崎さんと共演できるから力入りすぎてよー」「あんな顔したら嫌われるぜ逆によ」と凹み気味。でも憧れの神崎さんに「演技力がある人ってカッコいいなってすごく思った」と優しく言われて、「野球辞めて役者の道進もっかな~」とデレデレ。綺羅々ちゃんにニヤニヤされ、寺坂に「ちょれーなコイツ」と呆れられてるけど、こういう直球な子って見ててホッとするな(^^)「共演できるから」「嫌われる」と神崎さんへの気持ち、全然隠してないのね。神崎さんもこのタイミングでフォローするってことは、杉野君の気持ちに気づいてるってこと・・・?暗殺教室にはカプ予備軍(渚×茅野・渚×莉桜・杉野×神崎・前原×ひなた・磯貝×メグ・千葉×凛香・カルマ×奥田等)が色々いるけど、杉野君が一番上手くいって欲しいな~~(^o^)と云っていたら、息子が「まぁまず無理やろうけど、そうやね」と、応援してるんだかしてないんだかようわからんことを言ってましたな^_^;頑張れ杉野!負けるな杉野!そんな中、茅野ちゃんがこっそり渚を呼んで教室を出て行き、殺せんせーはそれに目敏く気づきます。皆はというと、中学での行事が全て終わって、冬休みの暗殺に向けて張り切っています。そんな皆に目配せされて「好きな場所好きな道具を使うといい!」と微笑んで頷く烏間さんに痺れつつ・・・また場面変わって渚と茅野ちゃん。小道具のビーズをぶちまけてしまったので片付ける手伝いをして欲しいと言う茅野ちゃんと快諾する渚君。皆が暗殺の計画立ててる邪魔はしたくないと渚一人を呼び出した茅野ちゃん。この娘は派手に目立ちはしないけど、常に細やかな気配りが出来る娘で・・・だから渚とも気が合うんだろうな、と思ってた。・・・が。二人の感心な行いを見ていた殺せんせーも手伝うことになり、渚君と茅野ちゃんは殺せんせーと出逢ってからの思い出を語り合います。せっせと片付けする渚君と、岡島君の隠していたエ●本を見つけてホクホクと読みつつ片付けする殺せんせーを見ながら、にこにこと思い出に浸る茅野ちゃんのうなじから・・・触手が!!???以前ここで理事長の私物を壊した奴がいたそいつは問答無用でE組送りになったらしいよそうと決めたら一直線になっちゃうんだ・・・私本当の刃は親しい友達にも見せないものよ多分・・・この教室で殺る事殺れたら初めて答えが見つかる人もいると思うよまた殺るよぷるんぷるんの刃だったら他にも色々持ってるから・・・これ、全部伏線だったんだ。細かな伏線が張られていたんだ。理事長の私物壊したのって茅野ちゃんだったの?何壊したんだろ・・・まさか理事長が最初の生徒さんから貰ったタイピン、じゃないよな・・・。タイピン、今も普通につけてるし。修理したのかもしれないけど。触手はどんどん伸びて・・・この触手、イトナ君が移植したものと一緒だよね・・・?異変に気づいて呆然とする渚を「気づかなかったね・・・最期まで」と横目で見る茅野ちゃんの表情が・・・ゾクゾクするくらいに綺麗で妖しくて純真無垢で邪悪。怪しい気配に振り返る殺せんせーですが・・・茅野ちゃんの触手が一瞬で床に穴を開け・・・深い深い「落とし穴」に落ちてしまいました。落ちゆく殺せんせーと共に落ちる茅野ちゃん。「大好きだよ殺せんせー」「死んで」そう云う眼はこれまでの茅野ちゃんと同じ人だとは思えないくらいに狂気に満ち、残酷で美しく。そういえば茅野ちゃんは、主要キャラなのに家庭の事情や心象風景など、具体的な描写がほとんど無かった。こんないい子がE組に落ちたのは何故なのかなー、やっぱ成積が悪かったのかなーと思いつつ、明かされる日がくるのを待っていた。「殺せんせー」と名付けたのも茅野ちゃんだったなぁ。E組の子はみんな素敵にいい子だけど、特に渚君と茅野ちゃんのいい子っぷりは群を抜いていて、いい子過ぎる子を見ていると感心するより先に哀しくなる身としては、何か背景にあるんじゃないかとあれこれ想像していた。すると、渚の場合は家庭環境に問題があることがわかって。母親の支配下で己を抑え過ぎてこうなっちゃったんだな・・・と不憫に思ったものだけど、じゃあ茅野ちゃんは?と気になっていた。家庭の事情なのか、学校で何かあったのか・・・なかなか明かされない彼女の事情が気になっていた。そうしたら・・・まさかこんな罠が隠されていたとは!思いもしなかったよ・・・見事に騙された。漫画や小説は、こうでないと、と心底思う。綾辻行人さんの小説を読んで、ラスト近くのどんでん返しに驚愕したような心地良さ。こんな風に完全に騙される快感こそ本を読む醍醐味というもの。騙されました。お見事です松井先生。茅野ちゃんは・・・。シロさんに洗脳されたわけではなさそうだな・・・元々素質があったということなのかな。自分の意志で触手植え付けられたんだよな・・・‘殺し屋’になったきっかけは何だったんだろう。渚君はどう出るのかな。このままでは終わらないと思うんだけど・・・渚が何とか彼女を「救う」と思うんだけど・・・。気になります。うー来週が遠いよー(>_
2015.02.23
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明日、というか今日から、5日のウイニングショット参戦の為関東入り致します。ということで、図書館の返却期限が迫っている故、久々の読書感想です。第14回『このミステリーがすごい!』大賞作品とのこと。新聞の書評欄を見て「読みたい」と思ったのは、「どんでん返しにつぐどんでん返し」「スクールカースト制度」等の惹句につられたからだろうなぁ。読みたいと思って図書館に予約して手元に届くまで時間がかかるもんだから毎回その辺の事情忘れてしまうんだけど(^_^;)「大人=汚い」「子供=純粋」と信じて疑わない人は多いし、間違っちゃいないけど、こういう人たちって自分が子供の頃のことを綺麗さっぱり忘れちゃってるのかな。それとも思い出ってやつを異様に美化してるのか、都合の悪いことは全部なかったことにしてるのか、はてさて。子供って結構小狡いし姑息だしドロドロした部分いっぱい持ってるもんだけどね。そもそも「純粋=善」ってのはちょい違う気がする。確かに子供は純粋だ。でも、純粋だからこそ自分の欲望には正直だし、建前とかあまり考えないから「他者」「弱い者」に対する攻撃は容赦ない。そういう所も踏まえて、「純粋故に残酷だからこそ美しい」とか言うならまだわからんでもないけど、「みんな純粋でいい子!」なんて都合のいい思い込みで理解ある大人のつもりでいたら、本書に出てくる子供たちみたいな少年少女に足元を掬われることになりまっせ。と長い前置きをして。『女王はかえらない』とある田舎の小学校のあるクラスは、「マキ」という「女王」によって支配されていて。全て彼女の思惑でクラスでの立ち位置が決まってしまうので、女子はマキのご機嫌とりに必死。見事彼女の「お気に入り」になれば立場は安泰、でもひとたびご機嫌を損ねてしまえば一気に奈落の底へ。ということで、クラスは「女王様」とその取り巻き連中、いじめられっこに傍観者、存在を無視されている者などできっちりカーストが分けられて。担任は全て見て見ぬふり、昨日の友は今日の敵、いつもピリピリしたムードに覆われておりました。そこへ、美しい転校生「エリカ」がやってきて。都会の風を運んできた彼女は「マキ」の立場を脅かし、マキに冷遇されていた女子はエリカにすり寄って。クラスはマキ派とエリカ派に真っ二つに分かれ、2つのグループは相手を貶め自らが優位に立とうと戦々恐々。この辺りのやりとりが実にリアルで、自分も同じ教室にいてそのヒリヒリした空気を感じているような錯覚を覚えます。大人の一部は「そんなくだらない」とか「大したことない」と笑うかもしれないけど、当事者にとってはまさに生きるか死ぬかの問題なんだよなぁ。このサバイバルレースを生き抜かねば!って、それぞれのやり方でそりゃあ必死に。語り手である「オッサン」は、いちいち揉め事に首を突っ込んで止めようとする幼馴染の「メグ」を守ろうと必死になりますが・・・。画策・裏切り・・・次々と「事件」が起こり、そのたびに「マキ」と「エリカ」の立場はめまぐるしく変わり・・・ある日、大きすぎる「悲劇」がクラスを襲います。そこで場面は変わり、「教師」の視点の物語に。ある少女の失踪事件、それについて何度も学校を訪れる刑事、クラスメートの傷に触れてくれるなと彼らを追い返そうとする担任・・・。ここで、その前の子供たちの話を読んでいた読者(私)は、違和感を覚えます。そして、やたらと「子供たちの為」を連発する「担任」に反感を覚えます。ちょっと待てや、あんたずっと見て見ぬふりしてたんちゃうんかいな。今頃何が子供の為やっつーねん。子供達にもイライラを覚えます。なに友達思いの顔してんねん、と。そう思うことが既に「作者様の罠」にかかっているということを知りもしないで。全てが巧妙に仕掛けられた罠だったのだと知ることとなる最終章。驚愕の真相に戦慄します。・・・そうだったのか・・・!と最後まで読んで、これは映像化は絶対不可能なことに気付きます。これを映像化出来たら監督さんは凄い・・・!映像化不可能というと、まず綾辻行人さん作品を思い浮かべます。湊かなえさん作品にもあったかな。『十角館の殺人』『迷路館の殺人』・・・この辺りなら才能ある監督さんだったら映像化出来るかもしれないけど、『黄昏の囁き』『どんどん橋、落ちた』・・・これを出来たら天才では済まんでしょ。映像化不可能と言われた『サイコ』を見事映像化したヒッチコックなんてレベルではありません。『女王はかえらない』も、映像化出来たら監督さん、凄いを通り越して人としてヤバいわ(^_^;)『十角館の殺人』『どんどん橋、落ちた』は、関係者が全てあだ名で呼ばれていたことが最大の鍵になっていたけど、『女王はかえらない』もそう。第一章で登場人物の本名は全く出てこない。そこがミソ。あと語り手の一人称が使われていることも。まーた騙されちゃったよ、「並行して語られている世界が同じ時系列とは限らない」ということを忘れちゃってた。あと、「一人称の語り手が全て本当のことを言っているとは限らない」こととか。評にもあるように、いささかご都合主義なところが無くもないけど、息もつかせぬ展開にページをめくる手が止まらなくなったし、気持ちよく騙されたしで、楽しめました。残念ながら読後感は良くないですが。しかし、大人も怖いですが子供も怖いですね・・・。そういや『恐るべき子供たち』って小説があったような。読んでないけど。
2015.07.02
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