おるはの缶詰工場

おるはの缶詰工場

12月23日

12月23日


小さなケーキショップ『TOP』の厨房にて。

「あんの、馬鹿野郎~!!」

 ガシャガシャガシャと激しい音を立てながら、生クリームを泡立てる。

 しばらく力いっぱいかき混ぜていたけど、さすがに疲れて休んだ。

「圭司、無駄に力が入ってるぞ」

 それじゃ疲れる、と隣でチョコレートを湯煎にかけていた学校の先輩が指摘してくる。

 俺はその先輩を睨みつけた。

「……はい、俺が悪いんです。予定があった圭司に、無理にケーキ屋のバイトを頼み込んだ俺が、一番悪いんです」

 素直に認める先輩に飽きて、また泡立ての仕事に戻る。

 今度は基本をちゃんと守って、腕全体を使ってふんわりと空気を含ませる。

 次第に重くなってくる生クリームにうんざりしながら、俺は二番目に悪い芳郎の言葉を思い出していた。

『え、クリスマス? 約束してたっけ?』

 先輩に泣きつかれてクリスマスはケーキ屋の手伝いをしなければならなくなった、と伝えたときの芳郎の反応だ。

 何度思い返しても腹が立つ。

 確かにきちんと約束はしてなかったけど、クリスマスは恋人の日だろ。

 基本的に面倒くさがりでイベントごとに無頓着な芳郎に、期待する方が間違っているのかな。

「……クリスマスには腕によりをかけてディナーでも作ろうと思ってたのに。少しは残念がれよ」

 ボソリと小さく呟くと、先輩が納得顔で「なるほど、それで怒ってるのか」と頷いていた。

「無駄口たたいてないで、さっさとデコレーションしてください。明日用のがまだできてないんですから!」

「はいはい」

 先輩は慣れた手つきで生クリームをぬっていく。相変わらず鮮やかな手つきだ。

 さて、先輩もやる気になったし、俺も頑張らなきゃ。

 テーブルいっぱいに並べられたスポンジケーキを前に、気合を入れた。

 それから2時間。ようやく終わりが見えてきた。

「あと、3つ!!」

「はいはい。でももう予約分は作っちゃったから、もういいんじゃないですか?」

「あ、そう? じゃ、ちょっぴり遊ぼ」

 先輩はそう言って、生クリームとチョコレート、ココアパウダーを駆使して、綺麗にデコレーションしていく。キャンパスに書かれた絵のようだった。

「やっぱり、先輩ってすごい」

「ほら、どれがいい?」

「……なんですか、コレ」

 目の前に置かれた三つのケーキ。

 どれも見事なデコレーションがされてるのに、真ん中に異様なメッセージが…。

『あい らびゅー』

『愛してます』

『結婚してください』

 もったいない。

「これ持ってって、仲直りしなって」

「先輩……三つも無駄にして、またオーナーに叱られますよ」

「知らないよ~、こんな忙しいときに店を空ける人が悪いんだろ。さぁ、選べって」

 愚図愚図していると、三番目の異様なメッセージを押し付けられそうで、とりあえず『あい らびゅー』と書かれたものを指差した。

「じゃ、コレだね。俺が丁寧に包んでやるよ」

 そう言ってさっさと箱に詰めてしまった。

 ……生クリームで消してしまおうと思ったのに。

 まぁ、一人で食べるからいいか。

 コックコートを片付けながら、溜め息が零れ落ちる。

 ……あのメッセージのケーキを一人で食べるのか。



 クリスマスの企画物です。
 ちょっぴり趣向をこらして、3つのお話を書き上げてます。
 今日・明日・明後日。連続で~す。     2005/12/23


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