おるはの缶詰工場

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『あい らびゅー』



「12月23日」





『あい らびゅー』


 クリスマスイブの予約のケーキを作り上げた後、ケーキを片手に部屋に戻れたのは、24日に日付が変わるくらいだった。

 真っ暗な誰もいない部屋。

 テレビをつけると、クリスマスの特番がやっていた。

「いいなぁ……」

 別にクリスチャンでもないから、クリスマスなんていいんだけど。でも、一緒にいたいと思っちゃいけないのかよ。

 机の上で押し付けられたケーキを開ける。

「ホント、綺麗にデコレーションするよな」

 俺の通う料理学校でも1、2の腕を見せ付けられ、見惚れて溜め息が零れる。と、同時にこのメッセージに重い溜め息をつきたくなる。

「一人で食えってか?」

 今まで甘い匂いに包まれて作っていたので、それほど食欲がわかない。

 それでも、半分意地で食べ始めた。

 大きなスプーンをグチャリとケーキに突き立てる。

「あ~、おいしい。さすが俺!」

 パクパクと無言で食べているうちに、なんだか目の奥が熱くなってきた。

 もう、やだ……。

「バカ、大っ嫌い」

 涙で歪んだケーキの文字の上に、ブスリとスプーンを刺し、また一口食べ進める。

「あ、帰ってる」

 どんより重くなっていた部屋に、場違いな明るい声が響いた。

 顔を上げると、合鍵で玄関を開けた芳郎が「よぉ」と片手を上げた。

「おいしそうなもの食ってるな。一口くれよ」

「……なんで? クリスマスは会わないって言ったじゃん」

「何それ、そんなこと言ってないよ。圭司が『クリスマスに先輩にバイト頼まれちゃって』って言うから、約束してなかったんだから、気にしないで先輩の手伝いしてくればって言っただけじゃん。それに、一日中拘束されるわけじゃないんだから、空いた時間を俺にくれればいいし」

 その言葉にとうとう涙が零れ落ちた。一粒零れ落ちると、もう歯止めが利かなくて、ボロボロと泣き出してしまった。

「何、どうかしたの? え、ケーキがまずいとか??」

「バカ、俺が作ったもんなんだぞ」

「なんだ、じゃぁおいしいに決まってるか」

 そう言ってあーんと口を開ける。

 反射的に持っていたスプーンを差し出すと、パクリとおいしそうに食べてくれた。

「うん、おいしい。―――あれ、コレなんて書いてあったんだ?」

 芳郎が不思議そうにかけた文字を見つめる。

『あ… …びゅ…』

 穴だらけのケーキ。

 そこから正解を導き出すことは無理だ、きっと。

 恥ずかしい、アレを言えって?? 

 いつもだったらきっぱり「知らない」と言い切るけど、今日は特別。

「『あい らびゅー』」

 書いてあった文字を教えただけなのに、頬から火が出るくらい恥ずかしかった。つい俯いてしまう俺の顎を、芳郎が掴まえた。

 相変わらずの余裕顔。けど、なんだか嬉しそうで、ほんのり頬が赤い気がするのは俺の気のせいだろうか?

「ふ~ん、思いがけないプレゼントだったな、今の」

「え…、あ、今のはココに書いてあった―――」

「お礼をたっぷりしなくちゃね」

 芳郎は耳元にそんな言葉を吹き込んでくる。

 畳に押し倒されて、首筋にキスマークをつけられれば、その『お礼』が何か容易に想像できる。

 マズイ。逃げなくちゃと抵抗しようとした。しかし、それを見越した芳郎に腰を押し付けられて、俺は簡単に篭絡してしまう。

 熱く硬い感触。

 明日もバイトだなんてこと、頭の中から消えてしまう。

 ―――芳郎が欲しい。




クリスマスのお2人です。
考えてたんですけど、やっぱり圭司ってロマンチスト?乙女思考?ですよね。
あま~い夜を過ごすんでしょう、きっと。       2005/12/23


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