おるはの缶詰工場

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正月「二年参り」

「二年参り」



「亮にぃ、早く~!!」

 玄関で奏が地団駄を踏んで亮を急かしていた。

「そんなに早く行っても仕方ないだろ」

「そんなことないもん。早く行かないと人がいっぱいになるよ」

「初詣はいっぱいって知ってるけど、二年参りもそんなに人が多いのかな?」

 亮が上着を片手に玄関に出てくると、奏が不満そうな顔をして大きく頷いていた。

「友達から聞いたよ、すっっっごい人らしいよ」

「……やめるか?」

 怖気づいた亮がそう提案したが、「い・や」と即答されてしまった。

 人ごみがあまり得意じゃない亮は、今から疲れた顔になる。しかし、一方の奏はすごく嬉しそうに「だって」と亮の腕を取って外へと連れ出した。

「去年までは、一緒に行きたいって言っても、『夜遅いから子供はダメ。二年参りじゃなくて、初詣なら一緒に行ってあげるから』って断られてたでしょ。だから、今年は二人きりの二年参りを楽しみにしてたんだ」

 去年まではただの仲のいいお隣さんという関係。でも、今年は、はっきりとした言葉をもらった恋人の関係。

 奏はほんの少しの進歩だけど、それでも嬉しかった。

「ね、早く行こう」

「あぁ、そうだな」

 可愛い恋人のおねだりに、亮は口元を緩ませて頷いた。


 神社に向かう途中の商店街。

 いつもならもう閉店している店が多いのに、この日ばかりは煌々と明かりがついていた。

「あ、あそこで甘酒配ってる~」

 初めての二人だけの夜のお出かけにはしゃいでいる奏は、パタパタと走っていってしまう。

 少し前のお店で無料サービスのとん汁を食べたばかりなのに。

「奏、お酒はダメだよ」

「え~、ただの甘酒だよ?」

「それでもダメ」

 今だ保護者気分が抜けない亮に止められて、奏は後ろを向いて「ケチ」と呟いた。

「ぅわっ!!」

 そのまま後ろ向きに歩いてしまった奏は、何かにぶつかって転んでしまった。

 振り仰ぐと、化粧をバッチリ決めた女性が立っていた。

 奏は慌てて立ち上がると、ぺこんと頭を下げた。

「ご、ごめんなさい」

「……ガキがウロウロしてんじゃないわよ」

 突然呪い殺しそうなほどに睨まれて、奏はへびに睨まれたカエルのように固まってしまった。

「無害そうな顔しやがって、まるでアイツみたいだわっ」

「すみません、何かこの子が失礼なことでも?」

 奏をその視線から庇いつつ、亮は「やんのかテメェ」と負けじと睨み返す。すると、女は顔を歪ませて視線を逸らした。

「ぶつかってしまってすみませんでした。では、これで」

 いつもなら奏に聞かせることのない冷たい声。

 怒り狂った亮はそんなことに気を配っている余裕もなかったのだ。しかし、当の奏は女のことなどもう眼中にない。

(亮にぃ、カッコイイ~)

 と亮の怒る姿に惚れ直していた。

「何よ、嫌な感じっ」

 ふんっと、女は八つ当たりに側にあった甘酒の紙コップを奪い取って立ち去った。

「奏、大丈夫か?」

「あ、うん」

 そう言って言葉少なに、俯いてしまった。

 やっぱりショックだったのかと、亮が心配して顔を覗き込むと、奏はほんのりと頬を染めていた。

「亮にぃ…やっぱり、カッコイイ」

 小さく告げられて、亮にもその頬の赤さがうつってしまった。


 神社に来るとやっぱりすごい人だった。

 いつもはそれほど人が来るところじゃないのに、今は石段が見えないくらいの人の多さだった。

「奏は今年何をお願いするか決めてる?」

「うん、もちろん! でも、今年は『亮にぃのお嫁さんにしてください』じゃないよ」

「違うのか?」

 少し残念そうな亮に、奏は「だって叶えてくれないんだもん」と唇を尖らせて神様の不満を口にする。

「去年はお賽銭も少し多めに入れたのに、ちっとも叶えてくれないんだもん。でも、結婚は18歳にならないとダメだってわかったから。今年は、『亮にぃに早く大人にしてもらえますように』ってお願いするんだ」

 にっこり笑ってそう言う奏に、亮は絶句する。

 それはまるで―――。

 立ち止まってしまった亮の所為で、人の流れが少し滞る。

「亮にぃ。ダメだよ、立ち止まっちゃ。ね、早くお参りしておみくじ引こうよ」

 無邪気で可愛いい奏。

 少し前まではそれだけだったのに、今は亮を見るその瞳の奥に愛されている自信がみなぎっていた。そして、それが奏をより美しく色っぽく見せる。

 その危うい色香に亮はクラリときてしまう。

(……いつまで我慢できるかな。神様、どうか俺に理性を―――)

 どちらの願いが聞き入れられたかは、正に神のみぞ知る。




2人のこれからは、神様じゃなくて私が知ってるんです!
…といっても、まだ具体的には考えてないんですけどね。
しかし、今回亮にぃはかっこよかった。   2005/12/31


関連作 →   「年越し、バイト」
「浮気男!」


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