おるはの缶詰工場

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正月「年越し、バイト」

「年越し、バイト」



「ありがとうございました~」

 元気な声で秀は挨拶をして客を見送った。

 もうあと2時間くらいで年が開ける。そんな大晦日の夜に、圭司はバイトに励んでいた。例に漏れず芳郎と一緒だ。

 しかし、暇だからと和哉からちょっかいをかけられることはなかった。

 というのも、客はこの時間になっても減らず、暇じゃないから。

 二年参りの客で商売繁盛。

 しかし、圭司の隣に立つ芳郎の機嫌は下がる一方だ。

「もうちょっと愛想振り撒けよ」

「愛想なんて振り撒いても一円の得にもならない。それに、俺は今不機嫌なんだ。そんなことする気分じゃない」

 圭司の注意はきっぱりはっきり断られた。

 つい癖で、圭司はぷくっと軽く頬を膨らませてしまう。するとすかさず横から伸びてきた手が頬をつつく。

「プシュ」

 圭司は、子供じみたいたずらをする芳郎を睨みつける。自分の子供っぽい仕草は棚に上げていた。

「だって、いつもはもっと暇でイロイロ遊べるのに」

 心底残念という声で告げられて、圭司はもう脱力する他なかった。

 ウィーンと自動ドアの開く音に「いらっしゃいませ」と反射的に返事をして、視線を送った。

「あれ? 先輩、どうしたんですか?」

 片手を上げて挨拶をしてくるのは、圭司が『TOP』のバイトを手伝ったあの先輩だった。

「いや、ちょっと散歩にね」

 そう言うが、誰の目から見ても不自然だった。

 こんな日に散歩? 一人で? しかも、どことなく元気がなく、更に言えば目の辺りが腫れていた。

「圭司がいつも言ってる先輩?」

「うん、そう。お菓子作りにかけてはすごい椎名先輩」

 小声で二人が話している間に、椎名はフラフラとチョコレートの陳列の棚へと歩いていく。

 危なっかしい足取りに、圭司が声をかけるべきかどうか迷っていると、また自動ドアが開いた。

「ただいま」と我が物顔の店長の娘 香奈の帰宅。しかも右手には紙コップが握られていた。

「香奈さん、飲食物の持ち込みはやめてください。それから、こっちから入らないようにと店長から…」

 本当ならこっちの店からじゃなくて、裏の自宅の玄関から入るべきなのに。

 圭司の注意も気にした様子もなく、カ香奈はウンターの中にいる芳郎に見つめる。

「あら、今日も深夜シフトなの?お父さんに言って変えてもらおうか?」

「いえ、別にいいです」

 珍しく切り捨てるように芳郎が言い放つ。

 隣にいる圭司が顔を引きつらせるような冷たい声だったのに、香奈は諦めず「どうしてよ~」と食い下がっている。

 芳郎の機嫌は下降の一途を辿る。

 それに耐えられなくなった圭司は、カウンターを出て椎名の元へと避難した。それがまた芳郎の機嫌を損ねることだとも知らずに…。

「先輩~」

「あはは、大変そうじゃん。何アレ?」

「笑い事じゃないですよ。店長の娘さんなんですけど……」

「まったく相手にされてないよな。セクハラで訴える?」

 面白そうに笑う椎名の声は潜められていたにもかかわらず、香奈に聞こえてしまったようだ。

 カウンターに張り付いていた香奈は、鋭い目で振り返る。

「なによ、アンタ」

「え? 客だけど?」

 椎名も虫の居所が悪いのか、いつもなら「すみません~」と笑って誤魔化すところを、わざわざ香奈を煽るように言い放つ。

「アンタに売るものなんて何もないわよっ」

 突然のことで、誰も動けなかった。

「先輩!」

 持っていた紙コップを椎名に向けてぶちまけた。

 ドロっと白い液体は、甘い匂いを放っていた。

「……甘酒?」

「あ~、いい気味。あはは……」

 甘酒まみれになりながら呆然と呟く椎名を見て、香奈は勝ち誇ったように笑った。

 その騒ぎにようやく気付いた店長が慌てて飛び出してきた。香奈を奥へと連行し、そして椎名をスタッフルームへと連れて行った。

「片付けるぞ」

「あ……うん」

 圭司と芳郎は被害にあった商品の入れ替えと、床の掃除をすることに。

「この忙しいのに、あの女」

 ボソリと呪いを吐く芳郎に、圭司は震え上がるばかりだった。その苛立ちが結局自分に降りかかることを知っているから。

「今日、そっちに泊まっていいか?」

「……あんま激しくするなよ。正月休みとっているけど、初詣とか初売りとか行きたいとこイロイロあるんだからな」

 赤くなりながら、そこだけは譲れないと主張する。

 しかし、そんな些細な主張が通るはずもなく、フンっと芳郎が鼻で笑って終わってしまう。

「恨むならあの女を恨めよ。大丈夫、壊さない程度にしとくから」

 そう言いつつ、芳郎の手は圭司の尻を撫で、するりと割れ目をなぞる。

 ジーパン越しに与えられる感触に、その先の大きな快感を予感して圭司は身体を震わせた。

 いくらカウンターに隠れて見えないからといっても、すぐそばには客がいるのに……。

 そうためらいつつも、触れられると我慢ができない。それに、ここで拒絶すれば、きっと明日一日ベッドの中で泣かされることになると、経験上圭司はわかっていた。

「バイト終わったら、泊まりにきて……」

 そう吐息混じりに囁く他に、圭司の選択肢はなかった。



相変わらずでございます、この2人は。
でも、きっと年越しでバイトしてそうだな~と思いました。
実はコタツエッチでも書きたいなぁと思ったんですが、この続きでは無理そう。
またの機会ですね。              2006/1/2



関連作 →  「二年参り」
「浮気男!」


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