読書の部屋からこんにちは!

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2007.02.26
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カテゴリ: 小説
桐野夏生さん、なんでこういう本を書きたくなったんだろう。
それが、この本を読んで、一番感じたことです。

この本にはいろいろな人がたくさん出てきますが、なにしろ普通の人が出てこないんです。
のっけから、妻の方が夫より25歳年上の夫婦が登場、この夫婦がどうにかなるのかと思っていたら、いきなり一人の女に放火され殺される。
その葬式に来るおじいさんは、寝たきりの妻の喪服で女装してくる。
しょっぱなから、にぎやかな幕開けです。
いったいここからどういう展開になるんだろうと、いやでも興味津々。
他にも、作家の娘を自称する老婆や娼婦の置屋の母さん、元娼婦たち、ホームレス、
ネオシティホテルグループの経営巫女に、溺愛しているこまっしゃくれた幼児。


かわいそうな生い立ちのアイ子だけど、これが同情の余地もないほど悪徳の塊みたいな女。
放火、殺人、泥棒、次々に犯罪をおかすものの、何の反省も後悔もない、どうしようもない奴です。
ただ、母親の形見と思って大切にしている白い靴をママと呼んで、話し合うときだけ、人間らしいところが残っているのが哀れでした。

桐野夏生さんは、筆を尽くしてアイ子の醜さを書いています。
その容赦のない描き方が、アイ子の性格まで現していて、ほんとうにうまい!と思う。
と同時に、容貌を表しただけでここまで内面が書けるものかと、あきれるくらい感心してしまいました。
最後の章で、アイ子の出生の秘密が明らかにされるのですが、それはもう、誰だってまっとうな人間として生きていく気持ちを捨てたくなるというくらい、悲痛なものでした。
アイ子が人間らしい心のかけらも持たないのは、こういうことだったのかと納得させられるのですが、
アイ子は母親にめぐりあい、そして殺害し、
ほんのわずかにこれまでの悪行を後悔する気持ちを持ったところで、この物語は終わります。

よくここまで、最低の人間を最高に醜く描けたよなあ。

ただ唯一、クリーニング店の奥さんだけは、普通の感覚を持った普通の人みたいで、
この人の幸せだけを祈りました。







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Last updated  2007.02.26 16:03:16
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こんばんは  
うーーーん、今回は,なぜか、
ぱぐらさんの文章を読んで、辛くなってしまいました。どうしてかな。

あまりにもアイコっていう人を醜く書いていて、
その出生の秘密を知れば、そうなるのもしかたないな、、とあって、恐いもの見たさより、
怖い物を封じ込めてしまいたいという気分。
怖くはありませんでしたか?


(2007.02.26 23:11:14)

Re:こんばんは(02/26)  
ぱぐら2  さん
ぽよぽよsykkyさん
>うーーーん、今回は,なぜか、
>ぱぐらさんの文章を読んで、辛くなってしまいました。どうしてかな。

あ、ほんと?それは悪いことしましたね。
でも、そうなる気持ちもわかりますよ。
私はいつも本を読むときに感じる、主人公を応援する気持ちや期待する気持ちが、まったく感じられませんでした。
人間は自分がどこの誰ってはっきりわからないと、正しく生きることができないのかなあ。
それがアイデンティティーっていうものなのか。
桐野夏生さんは、これが言いたかったのか・・・
などと、読み終わってから感じましたけど。 (2007.02.27 08:40:16)

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