読書の部屋からこんにちは!

読書の部屋からこんにちは!

2008.04.27
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カテゴリ: エッセイ
この本は、松本清張が作家として世に立つまでの、回想の記録です。

定職を持たない親の一人息子に生まれた清張は、進学をあきらめて家族の生活を支えるために辛い仕事につきます。が、その生活にはお金も喜びも、希望すらもありませんでした。
その壮絶なまでの貧しい暮らしぶりは、後年の作家としての彼を知る私たちには、ほんとうに驚きの一言です。
好きな遺跡めぐりも、勉強したい気持ちではなく、辛い現実から少しでも逃避するための気晴らしでしかなく、虚しさを募らせる結果にしかなりません。
文学に親しんだ時期もあったけれど、それが創作につながることもありませんでした。

「一家の生活だけは確立したかった」
「早く生活を安定させなければ」
「家族の生活が心配だった」

「前途に望みを失った気持ち」
「針の筵に座らされているような気持ち」
「行き場所がないという閉塞感」
「真っ暗な気持ち」
「絶望的な運命」
「砂を噛むような気持ちとか、灰色の境遇だとか、使い馴らされた形容詞はあるが、このような自分を、そんな言葉では言い表せない。絶えずいらいらしながら、それでいて、この泥砂の中で好んで窒息したい絶望的な爽快さ、そんな身を苛むような気持ちが、絶えず私にあった。」

そんな言葉ばかりが繰り返されて続きます。
徴兵されて2年間は軍隊生活を経験するのですが、その間は家族の生活保障がなされたことで、「新鮮さを感じた」というのですから、毎日の生活の辛さは計り知れないものだったことでしょう。

読んでいても、私までが胸が詰まって、つらくてたまりませんでした。
こんな悲惨な生活から、なぜ逃亡しなかったんだろう。
なぜ全てを捨てて、生き直そうとしなかったんだろう。

家族が疎開している村に戻ったときから、彼はより一層辛い生活を強いられるのですから。
清張自身も、何かきっかけがあったら、きっと自殺していただろうと、書いています。

この本では、作家となるきっかけの話はまったく出てきません。ファンとしては、物足りないような気もします。(あとがきに、簡単に紹介されています)
その理由もあとがきに述べられていましたが、私はこの自伝を、ハッピーエンドみたいな終り方をさせたくなかったんだろう、というような気がしました。
みんなが、ハッピーエンドを知って「あーよかった」って安堵するのが、いやだったんじゃないのかな。そんなに軽い物語にしたくなかったんじゃないでしょうか…  





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Last updated  2008.04.27 12:18:04
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