"One of the best novels, and most important to understanding of the nature of our world, is Ursula Le Guin's The Lathe of Heaven, in which the dream universe is articulated in such a striking and compelling way that I hesitate to add any further explanation to it; it requires none."(最高の小説の一つであり、わたしたちの世界の自然を理解するために最も重要な作品は、アーシュラ・K・ル=グウィンの『天のろくろ』です。この小説では、夢の宇宙が、思わず引き込まれそうな手法で描かれているために、この作品について改めて説明を加えることに、ためらいをおぼえます。そんな必要など全くないのですが・・・)
『天のろくろ』とPKDの作品で対比しやすいもの言うと、『トータル・リコール』の原作、『追憶売ります(We Can Remember It for You Wholesale 1966)』が挙げられます。『トータル・リコール』の場合は夢の中で記憶を書き換えるものですが、『天のろくろ』は、夢が現実を作り上げるという小説で、インプットとアウトプットが、ちょうど合わせ鏡になっています。
≪「なあ、おれは火星に行ったのか?教えてくれないか、おまえなら知っているだろう」クウェールはそうたずねた。 「行くもんですか。行けるはずがないじゃない。それぐらいあんただって分かってるはずでしょ?いつだって行きたい行きたいって泣き言並べてるんだから。」 「それがなあ、じつは行ったような気がするんだ」一呼吸して、つけたした。「一方でまた、実は行かなかったような気もする」 「どっちかに決めたら?」 「決められるものか」彼は頭を指さした。「この頭の中には、二通りの記憶が刻みつけられているんだ。一方は現実、一方は非現実。だがおれにはどっちがどっちだか分からん。」(以上フィリップ・K・ディック著『追憶売ります(We Can Remember It for You Wholesale 1966)』 浅倉久志訳 より)≫