のんびり生きる。

のんびり生きる。

あたし、ただ幸せになりたかっただけなのに


 そのとき、きっかけになったのは何だろう。どんな内的な要因があったのだろう。
 おそらく、それは一度に来るものではあるまい。また、上司に叱られたから面白くなくて、あるいは失恋して自棄になって、やたらに買物をする―というような日常的なものでもないはずだ。それならまだ本人のコントロールできる範囲内にあるものだから。
 そんなものじゃない。そんな普通の感情論では割切れないものだ。
 ノーマルに穏やかに走っていた機関車を、徐々に、徐々に、危険な坂道へ、その先には朽ちかかった橋がのびているだけの崖っぷちへと誘導していく、小さな転轍機。ひとつ、またひとつ、音もたてずに切り替わり、進路を変えてゆく―
                        「火車」P256



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