のんびり生きる。

のんびり生きる。

僕は約束する。



「約束して。もしそうすることが必要になったら、私に付けられた生命維持装置のプラグをちゃんと抜いてくれるって。もしそういうことになったらってこと。私の言ってることちゃんと聞いてる? これすごく真剣に言ってるのよ、ジャック。もしそういう状況になったら私のプラグをちゃんと抜いて欲しいの。そう約束してくれる?」

「あなたの方はどうなのよ?」
「僕の何がどうなんだよ?」
「あなたはもし自分がそういう立場に置かれたらプラグを抜いてほしいと思う? ・・・・(略)」

彼女はまじまじと僕の顔を見つめ、僕の答えを待っている。彼女はいざというときのための言質のようなものを僕に求めているのだ。オーケー、いいとも。簡単なことだ。
「いいよ、君がそうするのがいちばんいいと思うならプラグを抜いてくれればいい」と言えばいいのだ。

でも僕としてはその問題についてはもうすこしじっくりと考えてみたい。だいたい僕は自分が彼女のプラグを抜くか抜かないかという問いにさえまだ答えてはいないのだ。それなのにもう逆の立場のことまで考えなくてはならない。(略)

彼女はずっと身動きひとつしない。彼女はまだ僕の回答を待ちつづけている。そして僕にはわかっている。僕がきちんと答えないかぎり、僕らは二人ともこのままずっとここでこうしているだろうということが。

僕はもうひとしきり考えてみる。そして思ったとおりを言う。
「いや、僕のプラグは抜かないでくれ。僕はプラグを抜いてほしくない。可能な限りその機械に繋いでおいてくれ。
それで誰が迷惑する? 君は迷惑かい? 僕はそうすることで誰かを傷つけているかい? みんなが僕の姿に耐えられなくなるまで、みんなが大声でわめきだすまで、僕のプラグは一本たりとも抜かないでくれ。そのままゆっくり生かしておいてくれ。わかった? 最後の最後までだよ。僕の友達連中を別れの挨拶に招待してくれ。急いではやまったことをしないでくれよな」

「ねえ、真面目に答えてよ」と彼女は言う。「これはすごく大事な話なのよ」
「真面目だよ、僕は。プラグは抜かないで。実に簡単じゃないか」
彼女は肯く。「オーケー、わかったわ。抜かない。約束する」
(略)


妻に会うと、僕は言う。(略)それから、僕はずっと心にかかっていたことを口にする。さっぱりとけりをつけるのだ、いうなれば。

「オーケー、君が答えを聞きたいというのなら答えよう。
僕は君のプラグを抜いてやるよ。もしそれが君の望みなら、望みどおりにしてやるよ。もし今ここで僕がそう言うことで君が幸せになれるのなら、僕は約束する。ちゃんとそうしてあげる。プラグは抜いてやる。繋がせない。もし僕がそうすることが必要だと思ったとしたらね。でも僕が自分のプラグにつして言ったことは変わらないよ。(略)」


  「誰かは知らないが、このベッドに寝ていた人が」205頁



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