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冷たい雨が窓を濡らす、静かな広い教室。
少年が大学ノートに書き込みながら、講師の古市さんの話しを聞いている。
ふと目に入ったノートの文字。
一言も漏らすまいとするように、びっしりと書き込まれている。
紺色のジャケットを着た、丸刈りの少年達。
野球少年の集まる私立の学校のようにも見えるけれど・・・
ここは、少年院。。。
中学生から高校生の年齢の少年達。
事件を起こした関東近県の少年達が、親元を離れ、ここで数ヶ月を過ごしている。
どんな少年達がいるのだろう?
ナイフのように尖った目、ふてくされたような表情の不良少年?
その先入観は見事に外れた。
丸刈りの頭、穏やかで真剣な眼差しは修行僧のようだ。
育ち盛りの少年達。
制服のズボンが短くなったのだろうか?
長い足が裾からはみ出している。
後列に座っている私からは、彼らの表情はよく見えないけれど・・・
幼さの残る、細いうなじを見ていたら、、、
胸が痛くなった。。。
「ここにいる少年達は単なる、窃盗の罪だけではないのです・・・」
講演の始まる前、通された理事室でお茶をいただきながら、聞いた言葉が心をよぎる。
あの細いうなじで重い罪を犯したのだろうか?
ここには中学生もいると聞いたけれど・・・
人生のこんな早い時期に背負った罪。
自分の思春期と、この少年達の母親の思いの二つが心に重なる。
古市さんが、バイク炎上事故で瀕死の大火傷を負ったのは17歳。
まさに、ここにいる少年達と同じ年齢の頃のこと。
無免許、ノーヘルメット、3人乗りで起こした自損事故!
暴走族のようにバイクで夜を駆け抜けていた17歳。
「もしかすると、僕もこっちにいたかも知れないと思いますよ。」と言っていたけれど・・・
確かにそういう気がする。
だからこそ、古市さんの言葉の一つ一つが少年達の心に沁みたのではないかと思う。
講演の後半、古市さんが質問をした。
「今、自分を好きだと思う人、手をあげてくれますか?」
ほんの数人が手をあげた。
「じゃ、嫌いな人は?」
好きな人よりも多い人数が手をあげた。
その他のたくさんの少年達はどちらでもないということなのだろうか・・・
考えてみれば、罪を犯して少年院にいる今の自分を好きだと思えないのは当たり前かも
知れない。自分がやったこととは言え、自暴自棄になることもあるだろう。
古市さんは質問を続けた。
「今、自分のことを心配してくれている人が一人でもいいから、いる!と思う人は?」
いっせいにほとんどの少年が手をあげた。
私は少しほっとした。少し心に陽が射した。
後で古市さんに聞いたら、手をあげなかった少年が2~3人いて、気になったと言う。
親がいないのだろうか?
親に見捨てられたのだろうか・・・?
それとも、彼らがその思いに気付かないのかも知れない。
古市さんの講演は何回も聞いているけれど、少年院という特殊な環境で聞くのは初めて
のことで、もちろん、当の古市さんも初めてだと言う。
「普通、未来は変えられても、過去の自分は変えられないと言うけれど・・・」
「僕は変えられると思います。」
「僕は事故を起こしたこと、ず~っと後悔していました。」
「もし、あの時、もし、あの事故が・・・と悔やんでばかりいました。」
「でも、事故から何年もたって、その間に色々な人と出遭い、色々な経験をして・・・」
「今は、あの事故のおかげで、今、自分はこうしているのだからよかった!って・・・」
「綺麗事じゃなく、そう思うんです。」
「今、辛いこと、大変なことがあっても、良かったと思える日は必ずきます!」
何回も聞いた言葉なのに、ハッとさせられた私。
古市さんの心からの言葉に、前に座っていた少年が背筋を伸ばしたように見えた。
たくさんの少年の細いうなじの後姿・・・
その一人一人を抱きしめたい思いで、教室を後にしました。
帰りに、少年達の手作りの、切絵版画カレンダーをいただきました。
そこには少年達の短歌もあって、帰りの車中で読んでいたら涙が溢れました。
親に反抗的だった子供達が多いそうですが、ここに来て初めて親、家族の愛を感じ、その
想いが綴られた短歌の数々に胸を打たれました。
鉄格子 冷たく月に照らされて 母に会いたい 父に会いたい
青空に 洗濯物を干すときは 母の鼻歌 聞こえるような気がする