番組表(敬称略)
解説&トーク 茂山千三郎 野村萬斎
大蔵流狂言「末広かり」
果報者 茂山千作/都の者 茂山千三郎/太郎冠者 茂山千五郎
後見 島田洋海
和泉流狂言「業平餅」
在原業平 野村萬斎/餅屋 野村万之介/布衣 深田博治/稚児 野村裕基/随身 高野和憲/沓持 月崎晴夫/傘持 野村万作/乙 石田幸雄
後見 竹山悠樹
まず最初に千三郎さんの登場です。
毎年この新宿文化センターで行われる新春名作狂言の会は茂山家代表の千三郎さんと、万作家代表の萬斎さんのトークが目玉です。
舞台に正座した千三郎さん。
(以下台詞前記載は「千三郎さん=千」または「萬斎さん=萬」)
千「今年は素襖落(すおうおとし)…」
( ̄□ ̄;)!!えっ!(パンフを慌ててめくる)予習しとらんぞ~・・と思ったら
千「…ではなくて(笑)、末広かり(末広がり)です」
急遽変更かと思いました。
千「千作も12月28日で誕生日を迎えまして、ちょうど良いかと思います」
千作さん、米寿(88歳)でまさに末広がりなんですね。
新年明けての茂山家の様子を語ってくださいます。
千「うち(茂山家は)お正月は元旦からは奉納があり、立て続けに公演がありましてね、お正月までは、まさに師も走る《師走》のような忙しさです。私は日曜に京都のFMラジオで朝9時からDJをしておりますが、今年の元旦は日曜日にあたってしまったんですね(困った顔の千三郎さん・笑)…」
そして新年3日には、千三郎さんは八坂神社での奉納で三番三を勤められたそうですが
千「今年は物凄い寒さでした(>_<)」「三番三を勤め終えてから、気合いが入っていましたね、と言われましたが寒かったから厳しい顔をしていただけなんですね。(笑)」
千「京都では《おけら参り》というものをしましてね、八坂神社から「おけら火」を頂いて、火縄をぐるぐる回しながら持ち帰り、その火でお雑煮などを作って食べたりするんですが、あちらではタクシーだろうが、電車だろうが火縄をぐるぐる回して持ち歩いてるんですねぇ(笑)だから仄かに車内がきな臭いんです(笑)」
「我が家も一応持ち帰ってきたんですが、ガスコンロではなく電気コンロなので、妻とどうしようかと悩みました(⌒-⌒;)」
一応、お雑煮の鍋に火を照らして召し上がったそうです。
どんなに忙しくても、ちゃんと、こういう風習を重んじるんですね。
上記に記載したように元旦の朝9時からラジオがあったために、家族にも朝早く起きねばならないことを告げたところ、反対を受け(笑)夜中にお雑煮を召し上がったとか。
また「芋頭」(いもがしら)と書くのかな?を食べる風習があり、それも食べたようですが
千「これがまた美味しくないんですね(苦笑)しかも汁を吸って膨れるので減らない、餅やそんなものを食べたのが深夜の2時ですよ、眠れなくなりましてね…」
会場は笑いの渦。
千三郎さんは何を話されても、観客の心を捕らえますね(・▽・)
続いて末広かりの解説です。
前に、和泉流の末広かりを鑑賞したときに作った"あらすじ"ですが・・・
末広かり(末広がり)
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大名物には3タイプ、果報者物、遠国大名物、在地大名物があります。
千「末広かりなどに出てきます果報者、これが一番のお金持ちですね。」
「大果報の者でござる…いきなり出てきて、私は大金持ちでぇーす・・・と言ってるようなものですね(笑)」
他に、遠国大名物の代表としては「萩大名」で、「遠国の隠れもない大名~…」
在地大名物では「昆布売」では「この辺りの隠れもない大名~…」などと名乗り、
どちらも「私はみんなが知る有名人でぇーす」と言ってるようなものですが、誰も知りません(笑)
…などと面白く大名物に関する説明をしてくださいました。
この「末広かりに出てくる都の者」は田舎から出てきた太郎冠者を騙しますが、 「すっぱ」
と呼ばれるものです。
千「すっぱ…詐欺師というと最近は手口も巧妙になってましてね、ちょっと違いますかね、現代に言い換えますと新宿の駅前あたりにいるようなオジイサン…いやいや、オジイサンじゃなくオニイサンがですね、キャッチセールスをしてる人がいますよね。呼び止めては何かの割引券や掃除機を売り付けるようなそんな人と同じ…( ̄∀ ̄;)あ…掃除機はあまり売ってませんね(笑)」←一人ボケツッコミ?
さて「すっぱ」という語源は実は現代にも生きているといいます。
「すっぱ」はスポーツ紙などで「すっぱ抜く」と言う言葉が使われますが、これは狂言で使われる「すっぱ」から来ているそうです。
へぇ~ヽ(´ー`)ノな千三郎さんのトリビア。
一通り、千三郎さんのお話が終わると、
千「さて、次はお待ちかね、萬斎くんの登場です(拍手)」
相変わらずスリムな黒紋付姿の萬斎さんでした。
お聞きした話ではお風邪を召していたのでは、ということでしたが、少しはお元気になられたのでしょうか。
お二人でトークが始まり、毎年この会ではその年の干支をここで実演したりしていたんですよね。
去年は鶏をやりましたね。
私は去年拝見しました。その前は申年だから「きゃぁきゃぁきゃぁ~」が観られたのかしら(⌒◇⌒)
何の話の流れからか忘れましたが
萬「それは びょう
な話ですね( 妙
な話ですね)」
【末広かり 感想】
和泉流の末広かりは一度、万作さんのシテ(果報者)、高野さんアド(太郎冠者)で拝見したことがありました。
万作さんの果報者を見ていると、最後に囃子に浮かれているところは、身のこなしも軽く、とてもリズミカルに跳んでいて、お歳なのに結構な体力を必要としそうだ、などと思っていました。
だから、果報者を千作さんが勤められると聞いて、足腰を痛められては・・・( ̄▽ ̄:) などと・・ちょっと心配でした←ごめんなさい(汗)
基本的にストーリーは同じ(台詞部分は違うようですが)、最後に囃され浮かれる果報者@千作さんは、表情も豊か。
万作さんは気難しくちょっと怖い果報者、という感じですが、千作さんはすごーく怒っていても、どこか愛嬌のある、可愛らしい主人です。
古傘を間違って買ってきた太郎冠者に愛想を尽かし、
「ふんっ!!!(〃*`Д´)」
とばかりに、床に座ってしまうのですが、飛び上がって正座で着地。
「ガン!!」と大きな音が出ましたが、びっくりしました。
千作さん、、、すごい!!
最後も楽しそうに、浮かれて一緒に太郎冠者と舞う様は、両足でピョコピョコ跳んでとてもお元気そうでした。
88歳を迎えられたとは思えません。
和泉流と違い、繊細さ、様式美というより、話を面白く展開させて魅せる。とにかく千作さんの発する大らかで、微笑が溢れてしまうその舞台に釘付けでした。
【業平餅 感想】
業平餅は、一度テレビで放送していた「ござる乃座」で拝見していました。
このときの業平餅とは、舞台演出(というべきか?)が異なっていて、短縮バージョン・・・(ちと残念)
どこがどう違うかという細かい部分は割愛してしまいますが、裕基くん@稚児の出番が少なかった、ということが一番残念でしたかね・・・。
あーっという間に舞台裾に退場してしまいましたから・・・
装束は業平が貴族なだけあり、随身たちも皆華やかです。
萬斎さんは、テレビをご覧になった人ならばお分かりのように追掛(おいかけ)をつけていますが、やはりお似合いですね。
某雑誌の表紙を飾っていた業平のお姿は写真写りのせいか、あまり好きではなかったのですが←こらこら(苦笑)
とにかく金子というものを持っていない、お金がなければ餅さえも食べられない、ひもじい貴族・・・というのが笑いを誘います。
ここまで、かの在原業平を貶めてよいものか?と心配になっちゃいますが、狂言パワーで、全くいやらしく感じません。
餅屋が戻ってくる前に、かっこむ、かっこむ餅の数・・・8個←数えるな
ああ、美味しそうだなぁ~と思ったものです(≧∀≦)
この狂言「業平餅」に出てくるプレイボーイ在原業平は、男前よりも少し「ブ男」くらいの人が演じたほうが面白い、とか。
萬斎さんは地で言っても「男前」の部類に入ってしまいますけれど、そんな「男前」な業平@萬斎さんが餅を喉に詰まらせる三枚目っぷりを見せてくださるのですから、この作品の面白さったらないですね。
万作さんは、お供の者の中でも一番身分の低い傘持ちですが、最後の最後に、主である業平に恩着せがましく、乙(餅屋の娘)を押し付けられそうになりますが、そのちょっとブサイクな娘の顔を観た瞬間、腰を抜かしてへたり込んでしまいます。
そのお姿がまた、可愛いというか、面白い~。
万之介さんも良いですが、万作さんのこういった役もいいですね。
今回は、千作さんの「末広かり」、萬斎さんの「業平餅」両方ともとても楽しめました。