萬華鏡-まんげきょう-

新春名作狂言の会 2006

新春名作狂言の会
於:新宿文化センター(大ホール)

平成18年1月13日(金)午後7時00分開演



番組表(敬称略)
解説&トーク 茂山千三郎 野村萬斎

大蔵流狂言「末広かり」
果報者 茂山千作/都の者 茂山千三郎/太郎冠者 茂山千五郎
後見 島田洋海

和泉流狂言「業平餅」
在原業平 野村萬斎/餅屋 野村万之介/布衣 深田博治/稚児 野村裕基/随身 高野和憲/沓持 月崎晴夫/傘持 野村万作/乙 石田幸雄
後見 竹山悠樹



まず最初に千三郎さんの登場です。

毎年この新宿文化センターで行われる新春名作狂言の会は茂山家代表の千三郎さんと、万作家代表の萬斎さんのトークが目玉です。

舞台に正座した千三郎さん。
(以下台詞前記載は「千三郎さん=千」または「萬斎さん=萬」)

千「今年は素襖落(すおうおとし)…」

( ̄□ ̄;)!!えっ!(パンフを慌ててめくる)予習しとらんぞ~・・と思ったら

千「…ではなくて(笑)、末広かり(末広がり)です」

急遽変更かと思いました。

千「千作も12月28日で誕生日を迎えまして、ちょうど良いかと思います」

千作さん、米寿(88歳)でまさに末広がりなんですね。
新年明けての茂山家の様子を語ってくださいます。

千「うち(茂山家は)お正月は元旦からは奉納があり、立て続けに公演がありましてね、お正月までは、まさに師も走る《師走》のような忙しさです。私は日曜に京都のFMラジオで朝9時からDJをしておりますが、今年の元旦は日曜日にあたってしまったんですね(困った顔の千三郎さん・笑)…」
そして新年3日には、千三郎さんは八坂神社での奉納で三番三を勤められたそうですが

千「今年は物凄い寒さでした(>_<)」「三番三を勤め終えてから、気合いが入っていましたね、と言われましたが寒かったから厳しい顔をしていただけなんですね。(笑)」
千「京都では《おけら参り》というものをしましてね、八坂神社から「おけら火」を頂いて、火縄をぐるぐる回しながら持ち帰り、その火でお雑煮などを作って食べたりするんですが、あちらではタクシーだろうが、電車だろうが火縄をぐるぐる回して持ち歩いてるんですねぇ(笑)だから仄かに車内がきな臭いんです(笑)」
「我が家も一応持ち帰ってきたんですが、ガスコンロではなく電気コンロなので、妻とどうしようかと悩みました(⌒-⌒;)」


一応、お雑煮の鍋に火を照らして召し上がったそうです。
どんなに忙しくても、ちゃんと、こういう風習を重んじるんですね。

上記に記載したように元旦の朝9時からラジオがあったために、家族にも朝早く起きねばならないことを告げたところ、反対を受け(笑)夜中にお雑煮を召し上がったとか。

また「芋頭」(いもがしら)と書くのかな?を食べる風習があり、それも食べたようですが

千「これがまた美味しくないんですね(苦笑)しかも汁を吸って膨れるので減らない、餅やそんなものを食べたのが深夜の2時ですよ、眠れなくなりましてね…」

会場は笑いの渦。

千三郎さんは何を話されても、観客の心を捕らえますね(・▽・)
続いて末広かりの解説です。

前に、和泉流の末広かりを鑑賞したときに作った"あらすじ"ですが・・・
末広かり(末広がり) へジャンプ


大名物には3タイプ、果報者物、遠国大名物、在地大名物があります。

千「末広かりなどに出てきます果報者、これが一番のお金持ちですね。」
「大果報の者でござる…いきなり出てきて、私は大金持ちでぇーす・・・と言ってるようなものですね(笑)」



他に、遠国大名物の代表としては「萩大名」で、「遠国の隠れもない大名~…」
在地大名物では「昆布売」では「この辺りの隠れもない大名~…」などと名乗り、

どちらも「私はみんなが知る有名人でぇーす」と言ってるようなものですが、誰も知りません(笑)
…などと面白く大名物に関する説明をしてくださいました。

この「末広かりに出てくる都の者」は田舎から出てきた太郎冠者を騙しますが、 「すっぱ」 と呼ばれるものです。

千「すっぱ…詐欺師というと最近は手口も巧妙になってましてね、ちょっと違いますかね、現代に言い換えますと新宿の駅前あたりにいるようなオジイサン…いやいや、オジイサンじゃなくオニイサンがですね、キャッチセールスをしてる人がいますよね。呼び止めては何かの割引券や掃除機を売り付けるようなそんな人と同じ…( ̄∀ ̄;)あ…掃除機はあまり売ってませんね(笑)」←一人ボケツッコミ?

さて「すっぱ」という語源は実は現代にも生きているといいます。

「すっぱ」はスポーツ紙などで「すっぱ抜く」と言う言葉が使われますが、これは狂言で使われる「すっぱ」から来ているそうです。
へぇ~ヽ(´ー`)ノな千三郎さんのトリビア。

一通り、千三郎さんのお話が終わると、

千「さて、次はお待ちかね、萬斎くんの登場です(拍手)」

相変わらずスリムな黒紋付姿の萬斎さんでした。
お聞きした話ではお風邪を召していたのでは、ということでしたが、少しはお元気になられたのでしょうか。

お二人でトークが始まり、毎年この会ではその年の干支をここで実演したりしていたんですよね。
去年は鶏をやりましたね。

私は去年拝見しました。その前は申年だから「きゃぁきゃぁきゃぁ~」が観られたのかしら(⌒◇⌒)

何の話の流れからか忘れましたが

萬「それは びょう な話ですね( な話ですね)」


(会場反応がやや遅れる)

千「皆さん!ココ笑うところですよ(苦笑)」

萬斎さん、新年から ハズし ました(笑)でも、千三郎さんの機転で救われましたねヽ( ´ー`)ノ
私的には爆笑でしたが

ここからお正月の話などをして、茂山家はいかに大忙しか、万作家では1年のうち、唯一ゆっくりと出来る時期だということで、両家の対照的なお正月の話でした。

そして、毎年恒例の千三郎さんと萬斎さん(大蔵流VS和泉流)の同時に舞うというイベント(←それってイベント?)

今年は狂言「千鳥」より"宇治の晒"でした。
千鳥といえば、「♪ちりちり~や、ち~りちり~♪」ですね。

大蔵流と和泉流で謡の詞章は全く同じなのだそうで、これを選んだのだそうです。
ただし、微妙に間合いというか、発声の伸びがお互いに違うので、同時に舞うと「気持ちが悪い」のだそうです。

千「観ている皆さんはもっと気持ち悪いと思いますが(笑)」

大蔵流と和泉流の型の違いが同時で観られますが、どちらを観ていいものやら目が泳ぎます。
お互いにつられそうになるのか、普段は凛とした表情で舞われるお二人でしょうが、今回は薄ら笑いを浮かべておいででした(笑)
いや、苦笑いとでもいうのでしょうか。

会場からも同時に笑いが。
このような小舞を拝見しながら、笑ってしまうというのは、不思議なものですね。
お祭り的な発想で、たまにはいいものです。

萬「大蔵さんのほうは、動きが大きいですね~。いつも私よりも前方でされている(舞っている)んですよね。私もこうやって(扇を持って前進しようと実演)前に出ることもあるのですが、結局また戻って行って後ろのほうでゴチャゴチャやっている、というか(笑)」

千「そうですね~。私から見ても、なんだか萬斎くんの姿を後方のほうでよくお見かけします(笑)」

和泉流のほうは、動きが少し地味ですが少し重々しい雰囲気がして、大蔵流のほうは、ダイナミックで派手、そんな感じを受けました。

それなのに「最後は不思議と合う(一緒に終わる)んですよね~」と仰ってました。

今年もまた面白くて良いものを拝見できたかな。

次には「型の違い」について少し話題になりました。
今年は「戌年」という話題から、狐はイヌ科。

千「萬斎くんは狐(釣狐)はいつ披きましたか」

萬「私は22歳のときでしたねぇ」

和泉流は常に獣足(けものあし)といって、摺り足なのだけれども 爪先を上げない、特殊な歩行を行う のだそうですが、大蔵流は直角に曲がる時だけ大仰に足を上げる型なのだそうです。

両家の釣狐とも、拝見したことはないので、ちょっと文章で説明するのも難しいですが、少しだけ千三郎さんが実演してました。
萬斎さんもされるかな?と期待していましたが口頭での説明で終わっちゃいました(残念)

千「あと、ムカデ足というのがありますが」

萬「???・・・100本の足ですか?」

これは大蔵流の専有曲で「毘沙門」などで使われる摺り足だそうで、「うにょうにょうにょ~」っと小刻みな摺り足・・・うーん、言葉では説明できませんが、千三郎さんがこれもまた実演してくださいました。
あとは、大黒足・・とか仰っていたかな。

話は尽きませんが、そろそろ千三郎さんのお支度の時間となり、先に舞台を降りられました。
ここから、萬斎さんの「業平餅」曲解説です。
今年は「業平餅」ということですが、昨年は「首引」をやりました。
普通、狂言は「この辺りの者でござる」など特定の人が登場することは少ないのですが、去年と共通するところは歴史上の実在した人物が出てくる、というところでしょうか。

「首引」では鎮西八郎為朝(ちんぜいはちろうたもとも)という源氏の武将、今年の「業平餅」では歌人 在原業平をモデルにしています。

業平はよく今で言うプレーボーイとも言われた人で、つまり「好色」。
しかし私どもの家の狂言台本などには 「高職」(高い身分) と書かれています。
これは、お詫びか遠慮をしてこう書かれたものではないでしょうか、とのことでした。


まぁ、俗に男性を出世させる女性を、「あげまん」とか言いますが…業平と関係した女性も運が上がるということで、あげまんの逆バージョン…

あ…あげ…( ̄∀ ̄;)汗

そんな俗語が萬斎さんのお言葉として出るとドッキリハラハラですから(笑)

この業平餅は、高貴な身分の業平が餅の誘惑に負け、餅屋の居ぬ間に盗み食いをしてしまい、次にはプレイボーイらしく餅屋の娘を妻にしようとします。

萬「これは、家の石田幸雄が解説で話しているのをなるほど、と聞いていたのですが、人間には 三大欲求 というものがあるそうで、「食欲、性欲、睡眠欲」。この業平餅はいわばこの、人間の三大欲を取り上げたといっても良いのではないか」 ということでした。

萬「私はよく好きでこの業平餅をやるんですが、いつもこういうことを考えながら演じています」

何の話のつながりか忘れましたが、今夜は「夜王-YAO-」というドラマが始まりますね、と萬斎さん。
新作のドラマの題名などご存知なのだと、ヘンなところに感心してしまったりして(笑)お忙しいからご覧になれないのでしょうけれどね。

萬「さて、私の演じる業平は水も滴る良い男かどうか、どうぞお楽しみください( ̄∀ ̄)ニヤり・・・」 と仰りながら退場されました・・・

って・・・萬斎さんトークの部分が前半の千三郎さんのトーク部分より記載が少ないぞーーー!!・・・というツッコミは・・ご容赦遊ばしください(苦笑)

業平餅のあらすじ(下記リンクより)に、餅をなぜ「カチン」と言ったか、など、萬斎さんが仰っていた「業平餅に関する豆知識」なども掲載してございます。

業平餅あらすじ



【末広かり 感想】

和泉流の末広かりは一度、万作さんのシテ(果報者)、高野さんアド(太郎冠者)で拝見したことがありました。
万作さんの果報者を見ていると、最後に囃子に浮かれているところは、身のこなしも軽く、とてもリズミカルに跳んでいて、お歳なのに結構な体力を必要としそうだ、などと思っていました。
だから、果報者を千作さんが勤められると聞いて、足腰を痛められては・・・( ̄▽ ̄:) などと・・ちょっと心配でした←ごめんなさい(汗)

基本的にストーリーは同じ(台詞部分は違うようですが)、最後に囃され浮かれる果報者@千作さんは、表情も豊か。
万作さんは気難しくちょっと怖い果報者、という感じですが、千作さんはすごーく怒っていても、どこか愛嬌のある、可愛らしい主人です。
古傘を間違って買ってきた太郎冠者に愛想を尽かし、
「ふんっ!!!(〃*`Д´)」 とばかりに、床に座ってしまうのですが、飛び上がって正座で着地。
「ガン!!」と大きな音が出ましたが、びっくりしました。
千作さん、、、すごい!!

最後も楽しそうに、浮かれて一緒に太郎冠者と舞う様は、両足でピョコピョコ跳んでとてもお元気そうでした。
88歳を迎えられたとは思えません。

和泉流と違い、繊細さ、様式美というより、話を面白く展開させて魅せる。とにかく千作さんの発する大らかで、微笑が溢れてしまうその舞台に釘付けでした。

扇(オレンジ)



【業平餅 感想】

業平餅は、一度テレビで放送していた「ござる乃座」で拝見していました。
このときの業平餅とは、舞台演出(というべきか?)が異なっていて、短縮バージョン・・・(ちと残念)
どこがどう違うかという細かい部分は割愛してしまいますが、裕基くん@稚児の出番が少なかった、ということが一番残念でしたかね・・・。
あーっという間に舞台裾に退場してしまいましたから・・・

装束は業平が貴族なだけあり、随身たちも皆華やかです。
萬斎さんは、テレビをご覧になった人ならばお分かりのように追掛(おいかけ)をつけていますが、やはりお似合いですね。

某雑誌の表紙を飾っていた業平のお姿は写真写りのせいか、あまり好きではなかったのですが←こらこら(苦笑)

とにかく金子というものを持っていない、お金がなければ餅さえも食べられない、ひもじい貴族・・・というのが笑いを誘います。
ここまで、かの在原業平を貶めてよいものか?と心配になっちゃいますが、狂言パワーで、全くいやらしく感じません。

餅屋が戻ってくる前に、かっこむ、かっこむ餅の数・・・8個←数えるな

ああ、美味しそうだなぁ~と思ったものです(≧∀≦)
この狂言「業平餅」に出てくるプレイボーイ在原業平は、男前よりも少し「ブ男」くらいの人が演じたほうが面白い、とか。

萬斎さんは地で言っても「男前」の部類に入ってしまいますけれど、そんな「男前」な業平@萬斎さんが餅を喉に詰まらせる三枚目っぷりを見せてくださるのですから、この作品の面白さったらないですね。

万作さんは、お供の者の中でも一番身分の低い傘持ちですが、最後の最後に、主である業平に恩着せがましく、乙(餅屋の娘)を押し付けられそうになりますが、そのちょっとブサイクな娘の顔を観た瞬間、腰を抜かしてへたり込んでしまいます。

そのお姿がまた、可愛いというか、面白い~。
万之介さんも良いですが、万作さんのこういった役もいいですね。

今回は、千作さんの「末広かり」、萬斎さんの「業平餅」両方ともとても楽しめました。




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