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2003.03.09
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カテゴリ: カテゴリ未分類
それは稀有な経験だったと思う。

辛くて苦しんでいるのを見ても、僕には何もして
あげられない。せいぜい言葉をかけたり、体をさすって
やったり、ただそれだけ。しかもその苦しみは治まるべき
ではなくて、ゴールにいたるまで継続しなければならないのだ。
だから、あえてその辛さに同情したりすることもなく、
むしろ笑顔で励ましてあげるべきだ。

3月9日午前3時。妻の実家に滞在している僕のところに
病院から電話が入る。妻は2日前に入院し、軽い陣痛促進の

際にはベットでうんうんとうなりながらも、なんとか痛みに
耐えていた。病院の看護婦や先生には、「まだまだですね~」
なんて軽く一笑に附されていた。

深夜からはじまったのは本当の陣痛で、むしろ昨日の治療が
功を奏したと言えるので、いよいよだな、と思うと緊張とともに
喜びも感じる。妻はベッドの上で痛みに耐えながら、冷や汗を
うかべていた。深夜の病院に人は少なく、看護婦も数人。偶然、
その直前に外から陣痛のはじまった女性患者が運ばれていた
らしく、隣の治療室からもうめき声が聞こえる。

「あちらは二人目だから、おそらくすぐに産まれるけどね」
なんて、助産婦の看護婦が教えてくれる。1時間後にお先に


妻の陣痛はますます激しくなり、母親から「帝王切開の方が
痛みもなくて、いいんじゃないか」と言われていたこともあり、
途中から、「もういいから、帝王切開にして」と痛みに耐えかねて
つぶやきはじめた。そのたびに看護婦から「がんばれ、がんばれ」と
何度も励まされる。全身に響く痛みをやわらげるため、ただひたすら

体を押し下げる痛みだということで、それをうまい方向に支えるように
力をこめると痛みが多少やわらぐようだ。そのマッサージをしてやるのと
やらないのでは、相当に痛みの感じ方が違うらしい。

まずは「朝まで」と言われ、午前8時頃の診察まで一緒に耐える。
時間の経過がもどかしい。お腹につけた機械の電針がハリの具合を伝えて
くれるので、「来る」という合図とともにマッサージを開始する。
「まだまだ」と先生に言われ、今度は昼頃まで耐えつづけることに。

最初は、「もういやだ」、あるいは痛みのあまり「切るなら切れ!」と
男言葉でまくしたてていた妻だったが、その逃げたい気持ちが看護婦の
「子供も頑張っている。お母さんも頑張らないと」という励ましで
変化していくと、次第に顔つきもぐっと強くなっていく。

それにしても今回、何よりも感動したのは、これら病院のスタッフのみなさんの
献身的な努力。本当に彼らの言葉や身振り手振りの様には感謝のしようがないほどに
救われ、仕事なのだとは言えど、みなさんの暖かい心や愛情を感じた。
病院によって違うのかどうかは分からないけれど、環境的にはかなり恵まれた
と思う(若い看護婦さんも素晴らしかったけれど、ベテラン看護婦の
技や励ましはこの上もなく貴重です。病院選びには一番大事な要素かも)。

さらに耐えつづけるも、午後2時頃、陣痛の勢いが確かではなく、かつ
子供の体が相当に大きく、しかも方向が良くないということで、最終的には
帝王切開を試みることになる。それでもこれまで支えてくれた看護婦さんは
「これまで耐えた痛みは決して無駄にはならない。その分、元気な赤ちゃんが生まれる」
と言ってくれた。

午後3時頃、手術室に入り、僕と妻の両親は廊下で終わるのを待つ。
間違いはないと思ってはいても、やはりその雰囲気が緊張を強める。
時計を何度も何度も確かめてしまう。

2003年3月9日 午後3時39分
まるで約束されていたかのような日時に、娘は誕生した。

3676g。予想の通りの大きな子供で、生まれた瞬間からひたすら
泣きつづけていた。その後もずっとずっと手足をゆすって泣いていた。
看護婦さんの予言通り、とても元気な子だった。顔がぽちゃぽちゃとふっくらしていて、
「でぶな子だな~」と先生に言われてしまうほどだった。うん、確かに
(今は)太ってるかも。でも何よりも元気なことは大きな安心だ。

誕生は感動より安堵の方が強かった。自分の子だ、という実感もなかなか
沸かない。まだまだこれから、むしろこれからずっと。

その日は妻を病院に残し、焼肉店でお祝い。深夜からほとんど
飲まず食わずだったので、本当においしかった。


次の日、ぐっすりと寝てから面会に向かう。
はじめて我が子を抱いてみる。軽いのだけれど、重いという実感。
泣きはらしてはれぼったい顔もやや落ち着いてきている。
病室にいる間は全く泣いたりもせず、とてもおだやかだった。
フラッシュで写真をとると、まぶしそうに目をまばたきさせた。
手術直後のため動けない、母親となった妻はうれしそうに枕もとに
置いた我が子をなでた。

子供の成長はとても早いらしい。
その歩みをしっかりと記憶に焼き付けることができるかどうかが
これからの課題である。





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最終更新日  2006.04.29 15:22:43
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