Jesus Story

サンデーヘラルド
2000年12月10日 記事
 「ダンス ヘスス・パストール」

URL → ttp://www.sundayherald.com/12484

 ヘスス・パストールはけだるいため息をついて、優しくつぶやいた。「ラ--ブ」。スペイン訛りの砕けたものいいで必要以上に音節を長くのばしてしゃべる。
 そして信じられないほど白い歯をひらめかせて、ビターチョコレート色の目に押さえきれない感情をくすぶらせて、こういう。「僕は愛することが好き。ロマンティックで、とても情熱的なんだ。」その言葉を説明するように、自分の派手な野球のシャツの下の心臓がどきどきする様子を優雅に真似てみせる。


"I love to love I am so romantic. Very, very, very passionate."



スコティッシュ・バレエが新しく獲得した、ロックスターのようなカリスマ性のある浅黒いハンサムなパストールは、周囲の過度な期待どおりに答えれば、同じようなキャリアの階段を上っていく見込みで、この24歳の青年を入団させようとイングリッシュ・ナショナル・バレエも熱心だった。スコティッシュバレエの芸術監督、ロバート・ノースはこの若いスペイン人に輝かしき未来を見ている。

 現在、このマドリッド生まれのダンサーは 7年ぶりにこのバレエ団で踊られる全幕物のバレエの彼が演じるヒーロー、アラジンといかに共通点があるか語ってくれる。「アラジンには僕に似てる点が多いよ」と銀のイアリングの片方をいじりながら言う。「彼はおもしろくて、冗談がうまくて、優雅で、勇敢だ。そして愛することが好きだ。僕?僕はいつも恋してるよ。100%情熱的に。アラジンのようにね。」でも彼はまだスコットランドでは恋はしてないという、数週間前にグラスゴーについたばかりで。まだ2回しか夜遊びしてないし。でも恋をするつもりだよ、と魅力的にウインクする。

 彼はスコットランドがハリウッド映画のイメージのようでなかったことに安堵したそうだ。彼は「ブレイブハート」を見て以来、みんなが神話のような格好をして剣を持っていると思っていた。でも「昼間暗いんだ」と憂鬱そうに言う。「太陽の光がないよ、ぼくは太陽が好きなのに」

 インタビューのために通訳を用意していた、パストールが着いたときドラマティックに胸を押さえてやたらに英語力のなさを弁解するので。こうしたかれのふざけたような仕種で意図を伝える技術があるので、我々は楽々と意思疎通が出来た。いづれにせよ、彼の言うとおり、すぐ学ぶだろうし、ヘスス・パストール相手に、そもそも言葉が必要なのか?

 スペインでは主なクラシックバレエの役どころは全て踊り、好意的な評論を得た。同じようにウィリアム・フォーサイスやイリ・キリアンのようなモダンな振付家のレパートリーもこなした。彼のために作られたアラジンという役どころは、75歳のブルックリン生まれの振付家、ロバート・コーハンによるもので、彼の経歴はモダンダンスの歴史を網羅している。「これは贈り物なんだ。」コーハンが彼のために作り上げたアラジンの役についてパストールはこう語り、うれしそうにまるでほんとの紙とリボンで贈り物を包むようにしてみせた。

 音楽はエミー賞受賞者のカール・デイビスに依頼され、美術はアドベンチャーインモーションピクチャーズで有名な、レズ・ブラザーストン、衣装はコリン・ファルコナー、そしてびっくりする視覚効果、魔法のジニーの壺や、魔法のじゅうたんはマジシャンのポール・キエーブの手によるもので、彼はあのウエストエンドでヒットしたミュージカル「イーストウィックの魔女」の桜がこぼれるシーンで有名な人だ。

 しかしながら全ての目はパストールに、ソリストになって1年にも満たずに、スコティッシュバレエに加わった彼に、注がれるであろう。彼は次の年はカンパニーの英国プレミア公演でカルメンを踊るし、ロミオとジュリエットも踊るだろう。これではもっと愛が必要になるようだ。「もちろんさ、すばらしいことだよ」と、またからかうようなウインク。でも、今は彼の頭にあるのはランプの精のジニーだけだ。

 カルロス・アコスタがロイヤル・バレエですばらしいデビューを遂げて以来の、熱望されたデビューだったのだ、イングリッシュ・ナショナル・バレエも熱心に今シーズン彼を入団させようと口説いた、とパストールが何気なく語ったことを考えると。ほとんど信じられないことに、スコティッシュバレエのロバートノースは彼のダンスを見た瞬間、スターが今まさに生まれつつあるのを感じた。

 「ヘススがどっかの興行主にさらわれて連れ去られてお金をしこたま(自分のためにも)稼ぐようになるのは時間の問題だった。私たちは絶対彼を失いたくなかった。」たとえばアメリカンバレエシアターだってこの才能あふれた若きスペイン人を入団させるために躍起になるだろう。マスクがいいだけでなく、彼はノースが見たほかの誰よりも高く飛び、誰よりも優雅に着地するのだ。

パストールの人生は、彼の作品と同じく、信じがたい大躍進の繰り返しだった。彼は弟と共に、マドリッドの労働者階級の家庭で育った。彼の父親もヘススという名だが、ガラス吹き職人だった。パストールは美しくこの卓越した技巧をやってみせてくれ、私のために花瓶を吹くまねをして見せてくれた。しかし工場が閉鎖になり、今は父親は警備員として働いている。彼の母のアンヘレスも工場で働いている。両親はヘススのために全てを犠牲にした。「全てをだよ」ヘススは筋肉質の腕を大きく広げて繰り返す。「両親を尊敬している」と空中にキスを投げる。「両親はたくさんのものをぼくに与えてくれた。両親はあまりお金がないのに、はるばるマドリッドからエジンバラの初日に来てくれるんだ。」ヘススの母の人生はヘスス自身だ。「僕の人生は母のものだ。だって母が僕に生命をくれたんだから。」

 ヘススは歩けるようになるとすぐに、踊り始めた。テレビから音楽が流れると、すぐにリビングを飛び回って、自分流に踊っていた。「僕は音楽を聴くとじっとしてられなかったんだ。今でもそうだけど。」と言いながら、白い靴下とぼろぼろのダンスシューズをはいた足を動かしている。8歳でヘススはマドリッドの名門、ビクトル・ウラテ・スクールに入り、電車でスペインのコンセルバトワール(芸術学校)に通った。

 ヘススの両親は彼の才能に驚き、ショックを受けた。バレエは彼ら工場労働者にとっては、風変わりな職業だった。学校ではようしゃなくいじめられた。サッカー選手ではなく、ダンサーになりたかったというだけで。これは間違いなく、「ビリーエリオット」のスペインバージョンだよというと、彼はまだ英語が上達してないのでその映画を見ていなかったが、通訳のオスカーが簡単に映画の筋を説明してくれた。「でも」パストールはつぶやいた。映画との一番の違いは両親が彼をサポートしてくれたということだ、と。「いつもね。」

 ヘススは子供のころどんなにいびられたかを思い出して笑った。「ときどき、傷ついたりもしたけど、気にしなかったんだ。」とトンネルのように手を丸めて目に当てて見せた。その努力は報われた。ヘススはすばらしいタマラ・ロッホと ジゼル を踊った。タマラは前にいたバレエ団のトップスターだった。「レ・シルフィード」も「ドン・キホーテ」も「くるみ割り人形」も「眠りの森の美女」も踊った。ヘススは伝説的振付家のジョージ・バランシンの作品を苦もなく演じ、ハンス・ファン・マーネンやナチョ・ドゥアトのようなモダンも踊った。彼に言わせると、こういったことは肉体的にと同じく精神的にも飛躍になった。

 いつかはクラシック・バレエに戻りたい。「モダン・ダンスをやるとこうなる」と太ももの筋肉がふくれあがる振りをしてみせる。「クラシックバレエはこれだ」と立ち上がり、星に手を伸ばすような仕種をする。

 「アラジン」はグラスゴーのフェスティバル・シアターで12月20~30の公演。


 slur --不明瞭に発音する
 fracture--砕く 壊す
 smolder=smolder--押さえきれない感情がくすぶっている
 hype--誇大妄想
 acquisition--獲得
 flirtatious--いちゃいちゃしている、浮気な、軽薄な
 give one’s eye teeth=give one’s ears =どんな犠牲でも払う


 ※このサンデーヘラルドの記事はジーザス・パスターMLおよび、JESUS PASTOR UNOFFICIAL WEBSITEに参加されているSalamanderさまが発見したものです。


 ヘススの「アラジン」のレビューがThe Guardianに掲載されています。
 The Guardian review of Jesus’ Aladdin     
"Magic rubs off for Edinburgh Aladdin "
     Aladdin Edinburgh Festival Theatre
     Rating: ***
     Alice Bain
     Friday December 22, 2000
 ttp://www.guardian.co.uk/reviews/story/0,3604,414656,00.html


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