ユウ君パパのJAZZ三昧日記

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syoukopapa

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2006.11.01
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カテゴリ: 私の小説集
  不安さえ思わせる漆黒の闇に、その黄金の光が流れ込み、群青に変化する瞬間(とき)。一日が最も美しくきらめく。早春の気配をたたえた風を感じた、その朝僕は仕事前のジョギングをしていた。若葉の息吹が徐々に広がる。この季節のジョギングはまた格別。かすかではあるがとてもいい香り。体の緊張がゆっくりと取れていく。

  僕はいつもの海の見える公園を走る。今、群青になったばかりの空があっという間に水色に飲み込まれていく。鮮やかなマジック。公園の朝露で湿った芝生に一人の少女。スクラップブックの上で鉛筆が軽やかに走る。早朝のデッサン。とても柔らかそうな白いタートルネックのセーターにスリムジーンズ。朝の風景にぴったり馴染んでいる。目安としている時間を走り終って、軽くcool downをする。かなり入念に。あまり適当にやると、その日何度も後悔することになるからだ。cooldownをそろそろ終えて帰ろうとする僕。

  大きな深呼吸を一つ。少女の前を軽く会釈して通り過ぎようとすると、彼女がさわやかな挨拶をしてくれた。穏やかだけれど、とてもきれいに微笑む彼女はso cute。セミロングのストレートヘアが微かに風に揺れている。「おはようございます。いつもこの公園を走っているんですか?」20才(はたち)前後の特有のはずんだ快活さ。その明るい雰囲気と彼女の澄んだ瞳は僕を強烈にグリップする。ジョギングでのものはまた別の胸の高鳴り。悪くない感じだ。「おはようございます。そう、朝のこの時間が好きだから。」「私も同じです。この時間にここでデッサンすれば、いいモチーフが湧いてきそうで。」少女の傍らにはターナーの画集。ターナーは波を生命感溢れるタッチで描く画家で、僕の好きな画家の一人でもあった。彼の油絵も勿論素晴らしいが、銅版画も僕のお気に入りだ。ブラックの中に暴風に揺らめく帆船と狂ったように蠢く波がきりりと描かれた彼の銅版画は僕の数少ない宝物。初めてのボーナスでかなり無理して求めたものだ。「ターナーが好きなの?」「ええ。波の動きと空の色のバランスがとても好きなんです。解説とか見ると、現実をモチーフにして描いたのではなくて彼の想像の中の自然みたいですけど。私が絵を描くようになったのも、彼の絵の持つ生命感の虜になってからです。今、美大で勉強しているんです。」「僕もターナーは好きなんだ。去年の秋にNYのメトロポリタン美術館で見た3枚のターナーはとても良かった。メトロポリタン美術館ではターナーよりもセザンヌやルノワールの方がずっと人気があったみたいだけれど。僕はあの美術館にターナーがあるなんて知らないで行ったから、驚いたけれど、すごく嬉しかったな。」「本物を見たんですか?いいなー。私も今アルバイトをして、メトロポリタン美術館にターナーを見に行こうと思ってるんです。」自分で目標をしっかり立てて、確実に実行する。

  他人にべったり依存することはない。毎日を惰性で生きないで、その日、その日を一生懸命に生きている。自分自身の足で立って生きているたくましさが、体中から溢れる。その真っ直ぐに見つめる視線。彼女のしっかりとした意志が表れている。透明な水色を走り抜けた朝陽の強い光が僕らの背中に刺さる。ターナー好きの少女-彩奈とこんな美しい朝に出会えたことを、僕は神様に感謝した。ターナー自身が僕たちの出会いの神であったかも知れない。





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最終更新日  2006.12.25 13:11:41


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