辻村深月の第147回直木三十五賞(2012年)作品。「夜と霧」関連で読んでみました。現代の5つの犯罪を心の内面を「迷い、妄想、疑い」等の生々しい襞を赤裸々に描いている。
辻村深月ワールドは満喫できるが、ストーカー事件、幼児虐待、デートDV等否応もなく日頃のニュースで聞くような内容であり、現実の事件の方がもっと凄惨を極めていてインパクトに欠ける。敢えて言えば「芹葉大学の夢と殺人」で主人公二木の言う、
「夢見る力は、才能なのだ。夢を見るのは無条件に正しさを信じることができる者だけに許された特権だ。疑いなく、正しさを信じること。その正しさを自分に強いることだ。」
あたりがこの短編集の愁眉。自分の捨てた夢を追い続ける男を「どうしようも優柔不断で駄目な男」と心の芯から分かりつつも切れない、「だーめんず好きな女(メス)」二木。どの話も主人公の女が、どうもひがみっぽいというか、視野が狭い。身近な同性と自分を比較ばかりして、それで優位に立つとか、認められることにのみ専心している。これは本居宣長が「源氏物語」の光源氏の心の弱さ、身勝手さを「本物の人の心の機微を描いている」と評した、辻村深月の思う「現代女性の心の機微」なのか?お薦めではないが、リアルな女(メス)を描いた短編集。
辻村作品を全部読んだ訳では無いが、作品とのしての質は『ツナグ』、 『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』の方が高く、「終りに救いがある」ので読後感がはるかに良い。本作は『オーダーメイド殺人クラブ』に近く、その世代(10代、20代、30代の女性で学生、働く女子、子供を持つ主婦)独特の心の揺らぎを描いているがちょっと重すぎで終わりに救いがない。『オーダーメイド殺人クラブ』も何か賞をもらったが正直どこが良いのか私には分からなかった。直木賞としては『ツナグ』または『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』の方が相応しいと思った。
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