どれもこれもでないかも知れないが、窪 美澄の描き出す世界は途方もなく暗く救い難い。映画になった「ふがいない僕は空を見た」は、最初の10Pで吐き気がして読むのを止めた。しかし、本作と「ふがいない僕は空を見た」の次の「晴天の迷いクジラ」は辛い話だが、何故か「人生って辛いこともあるけど、自分を支えてくれる人も必ずいるから前向きに生きてみよう」と何故か肯定的な気持ちを持たせてくれる。爽やかな読後感。世知辛い現実を描きつつも、人との関わり(本作での悪人である阪口絵莉花と岸本との関わりも含め)って素晴らしいという窪 美澄の信念めいたところが「アニバーサリー」の読ませる力。
真菜が自分の娘に絵莉花と真菜の名前から文字を合わせて「絵莉菜」と付けたのは「どうして」と思うが、真菜の自分勝手に生きる絵莉花への憧憬、友情なのか。晶子と千代子の間の生涯変わらぬ、明るい友情とは対比的な「ダークサイド」の友情なのか。絵莉花は<鵜匠>で<鵜>である真菜を弄んだ、愚劣な輩で友情の対象であり得ない。「お金はもう要らない」と口では言いながら、実際は拝金主義者の絵莉花。父と母に捨てられた真菜にとってはそんな金に汚い、蔑むべき絵莉花であっても<孤独な青春の日々で疲れた、羽根を休める宿り木>たり得たのか。肉親よりも真菜と絵莉菜を支える、晶子と千代子の血を超えた人間の連帯。<絆>という人口に膾炙する具体性の欠けた言葉でなく、3.11以降の日本人のあるべき姿を具体的に指し示している。これが爽やかな読後感の源に思えた。
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