「無私の日本人」の作者、磯田 道史さんは堺雅人主演の映画「武士の家計簿」の原作を書いた人。その彼が江戸時代を生きた3人の人物の評伝を書いた。仙台藩吉岡宿の困窮を救うために武士にお金を貸して利子を得る事業を実現させた穀田屋十三郎、ひたすらに書を読み、自ら掴んだ儒学の核心を説いて、庶民の心を震わせた中根東里、幕末の歌人にして、「蓮月焼」を創始した尼僧・大田垣蓮月。
磯田 道史さんがこの3人(穀田屋十三郎の編では彼を含む9人だが)の評伝を書く気になったのは自分の子供が生まれたことが契機になったという。、彼らに共通する魅力は、「濁ったものを清らかなものに浄化させる力」。3人は世俗的な名利を求めず、ただ、自ら正しいと思うことを行い、多くの人々に感銘を与えながら、それを誇ることを固く戒めて、あくまで一人の普通の人間として生きようとした人。その純な無私な姿は多くの周りの人を巻き込み、ウネリとなって一つの胎動になっていく。欧米や大陸の行動規範である「競争主義」、「弱肉強食」とは対極にある、仲間を助けるために利他的、自己犠牲を払う、「日本が誇るべき美観」があり、磯田 道史さんが子供達へ伝えるべきものとして記した。「本当に大きな人間というのは、世間的に偉くならずとも金を儲けずとも、ほんの少しでもいい、濁ったものを清らかな方に変える浄化の力を宿らせた人である。この国の歴史のなかで、わたしは、そういう大きな人間を確かに目撃した。その確信をもって、わたしは、この本を書いた。」とあとがきにあり、このことを子供たちにしっかりと伝えたかったのだ。史実ものなので読み易いとは言えないが、痛快な作品。小曽根真のコンサート前の1時間(当日券をゲットしてから始まるまで)で一気に半分読ませる力があった。
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