安西水丸さんの本を読んだので、「相棒」村上春樹さんの本も読んでみた。春樹さんの久々の短編集。随分春樹さんの短編を読まないなと思っていたが、「まえがき」によれば9年振りらしい。なかなか良い短編集。アマゾンのレビューにある、プロットが「性的なもの」に傾き過ぎるのは事実だが、それは「 ノルウェイの森 」の頃からのことで今に始まった話ではない。「 中国行きのスロウ・ボート 」、「 螢・納屋を焼く・その他の短編 」に相当する短編集の快作。★★★★。個人的にはライトに笑える、「 カンガルー日和 」の「 4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて 」や「 スパゲティーの年に 」のような短編を読みたいが、今の春樹さんには無理なのかも。「1Q84」とか近年の長編小説はあまりに難解、かつ、面白味に欠ける。
(1) ドライブ・マイ・カー
(2) イエスタデイ
(3) 独立器官
(4) シェエラザード
(5) 木野
(6) 女のいない男たち
短編は上記の6作。どの作品も「奇妙な性癖?」を持った男が主人公。「(2) イエスタデイ」の栗谷えりかは、エアコンの風にちらちらと揺れるキャンドルの炎を無言で眺めていた。それから言った。「私は同じ夢をよく見るの。私とアキくんは船に乗っている。長い航海をする大きな船。私たちは二人だけで小さな船室にいて、それは夜遅くで、丸い窓の外には満月が見えるの。でもその月は透明なきれいな氷でできてる。そして下の半分は海に沈んでいる。『あれは月に見えるけど、実は氷でできていて、厚さはたぶん二十センチくらいのものなんだ』とアキくんは私に教えてくれる。『だから朝になって太陽が出てきたら、溶けてしまう。こうして見られるうちによく見ておくといいよ』 つて。その夢を何度も繰り返し見た。とても美しい夢なの。いつも同じ月。厚さはいつも二十センチ。下半分は海に沈んでいる。私はアキくんにもたれかかっていて、月は美しく光っていて、私たちは二人きりで、波の音が優しい。でも目が覚めると、いつもとても悲しい気持ちになる。もうどこにも永の月は見えない」 栗谷えりかはしばらく黙っていた。それから言った。「私とアキくんと二人だけでそういう航海を続けていられたら、どんなに素敵だろうと思う。私たちは毎晩二人で寄り添って、丸い窓から氷でできた月を見るの。月は朝になったら溶けてしまうけれど、夜にはまたそこに姿を見せる。でもそうじゃないかもしれない。ある夜、月はもう出てこないかもしれない。そのことを思うとひどく怖い。明日自分がどんな夢を見るのか、それを考えると、身体が音を立てて縮んでいくくらい怖い」(p.99-p.100)の「氷でできた月の夢」の一節が特に「僕(パパ)」を強くグリップした。多分、「1Q84」の青豆と天吾が月を眺めるのもこのコンテクストであろうと想像している。
切なさ一番は「(3) 独立器官」の渡会氏の「純愛」。「逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり」(権中納言敦忠(43番) 『拾遺集』恋二・710)「彼女より容姿の優れた女性や、彼女より見事な身体を持った女性や、彼女より趣味の良い女性や、彼女より頭の切れる女性とつきあったことは何度かあります。でもそんな比較は何の意味も持ちません。なぜなら彼女は私にとって特別な存在だからです。総合的な存在とでも言えばいいのでしょうか。彼女の持っているすべての素質が、ひとつの中心にむけてぎゅっと繋がっているんです。そのひとつひとつを抜き出して、これは誰より劣っているとか、勝っているとか、計測したり分析したりすることはできません。そしてその中心にあるものが私を強く惹きつけるのです。強力な磁石のように。それは理屈を超えたものです」 (p137)。「今の生活からある日突然引きずりおろされ、すべての特権を剥奪され、ただの番号だけの存在に成り下がってしまったら、私はいったいなにものになるのだろう?」(p141)。「すべての女には、嘘をつくための特別な独立器官のようなものが生まれつき具わっている、というのが渡会の個人的な意見だった」 (p164)。 F. Scott Fitzgeraldが「The Rich Boy」で自らの悲劇的な未来を予見したように、渡会氏は悲劇的な結末を迎える。文学の薀蓄のある方によると、「(3) 独立器官」と同趣旨の筋書きの作品に芥川龍之介作:「好色」があるそうだ。 青空文庫の「好色」 を読むと、「純愛」の渡会が平中で、渡会を「独立器官」で意のままに操る、夫と子供さえも捨てる「専業主婦」が侍従。恐ろしい話。
<< 5th/Oct 2014 (Sun) -セッション2014 -ランディ・ブレッカー&マイク・スターンBAND - NHK FM>>
「C Jam Blues」(2分11秒)
「Out of the Blue」(15分44秒)
「KT」(10分31秒)
「The Dipshit」(7分18秒)
「Some Skunk Funk」(7分32秒)
「Big Neighborhood」(6分53秒)
(トランペット)ランディ・ブレッカー
(ギター)マイク・スターン
(ベース)トム・ケネディ
(ドラムス)ライオネル・コーデュー
<< Oct 8th 2014 (Wed) - 'Pars Orpheus' DJ: 佐藤竹善 <満月の夜のムーン・ソング> >>
21:04 "FULL MOON" KAREN SOUZA
21:07 "AUTUMN MOON" KEZIAH JONES
21:14 "THE SKY'S THE LIMIT" NIK KERSHAW
21:18 "SHADOW ON THE HARVEST MOON" EVERY THING BUT THE GIRL
21:23 "IN THE DARK" KLEE
21:28 "眠りに就くまで" SING LIKE TALKING
21:36 "I LOVE YOUR SMILE" SHANICE & FRIENDS
21:41 "WHAT A LITTLE MOONLIGHT CAN DO" CECILE MCLORIN SALVANT
21:51 "SUCH A NIGHT" VOORMANN & FRIENDS FEAT. DR.JOHN
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