To the last drop of her blood

NONSENSE 『B』 6



「オーナーはいるかな・・・」

「黒川さん。実はその・・・」

 男は俺をにらむように目を向けたまま、話が聞こえないよう黒川に耳打ちをした。

「大崎が! っち、奴らの方が早かったか。雪奈さんは今どこにいる」

「奥の部屋におられますが・・・失礼ながら後ろの方はどちら様ですか」

 黒川は俺のほうを見て奇妙に笑い”1時間後にはそんな話し方が出来なくなる人物だ”と言った。バーテンダーの男は目を見開き驚きを隠せなかった。


 カウンターの右隅に黒川は立った。よく見ると壁と同化している”ドア”があった。”ドア”といってもドアノブはない。黒川は”ドア”の前でしゃがんで床に隠された何かに手を触れた。大方、静脈を読み取るセンサーが床に埋め込まれているのだろう。

 やがて、”ドア”が開いた。

 畳、一畳にも満たない空間が現れた。

そこには4つのインターホンらしきものがあり、黒川は左上のインターホンに指を触れる。

「識別確認・・・・・・確認いたしました。黒川殿、どうぞお入りください」

 二重の警備か。壁がまた動く。
 まだ上に部屋があるらしく黒川は階段を上っていった。俺は彼について行く。

 2階といえる場所には4つの部屋があった。左側の二つの部屋には”不在”の所に点灯が、右側の奥の部屋には”在室”の点灯が付いていた。しかし、手前の部屋には何も表されてなかった。

 この4つの部屋にもインターホンがあるようだ。黒川は右奥の部屋へと足を進めた。ボタンを押す。

「黒川です」

 応答はない。
 だが、オートロック式のドアがガチャリと開く音がした。

「お入りなさい、黒川」

 黒川は重そうなドアを引いて中に入るのに俺も続いた。

「連れて来ましたよ。上層部の『生け贄』を」

 小さめの眼鏡をかけた女性が振り返る。黒々と光る長い髪が背中まで伸びている。服装はまるで彼女のために作られたかのような白いチャイナ服だ。見た目的にもそんなに年はいってない。俺の母親であってもおかしくないほどだ。

「彼がですか!?こんなに若いのに・・・」

”もったいない”といって女性は客人を招く用のソファーに座った。彼女は俺にソファーに座れと言っている様な仕草をとった。

 どう見ても黒川の方が年上だ。・・・だが、感覚的に黒川の方が立場は低い。黒川は奥から3人分のコーヒーを入れ小さめの長机に置いた。

「大崎が来たらしいですね」

「ええ、貴方が来るほんの2.3分前に帰りましたよ。『昴』を連れてね」

「あいつが?よく任意同行に応じたな」

「ええ、なんだか楽しそうでしたよ。ですから引き止めませんでした」

 話が見えない。『昴』って誰だ?というかまずこの人は誰?
俺がしどろもどろしているのに気が付いたのか黒川は話題を変えた。

「あーすまん。紹介がまだだったな。彼女はこの”alexandrite”の経営者の『筧 雪奈』さんだ。表向きにはな」

「表向きですか??」

「黒川!!!」

 『筧 雪奈』と言うらしい女性がいきなり怒鳴った。眼鏡の鼻の部分を指で持ち上げ黒川を睨む。

「また貴方は・・・詳細を話していないのですか?」

「大崎が来た。だから致し方なく強制的に連れてきたわけです」

「何にせよ同じです。だが、私に情を持つ隙間はない。この部屋に入ってきた以上帰すわけには行きません。残念でしたね・・」

「はい?えっと、じゃあ僕はどこに行けばいいんですか?」

 女が立ち上がる。両腕を左右逆の袖に通して頭を下げた。

「ようこそ、国家公安委員会公認 指定暴力団 『黒栖会』へ。貴方を幹部として迎え入れます」






NONSENSE 『B』 7


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