ここの話で最初のほうに取りあげた「Don't you tell ME」なのですが、例の中間部のところ、ギターとベースの対話が強く印象に残ります。しかしよく聴いていると、この間、背景放射のように漂っているシンセサイザーの持続音と、時を刻むかのようなドラムの打撃音が、きわめてスリリングな音の空間を創り出しているでしょう。これらはその前のMVにはなかったものであり、ライヴを重ねるごとに、メンバー内で出てきたアイディアだと思うのです。これがあることによって、ここのギターとベースソロが突出せずに、曲全体にうまく溶け込んでいる。聴き終わったあとのゴージャスな印象というのは(かなり満腹感もともないますが)、こういう細部に対するアイディアとか、仕上げへの「こだわり」から生み出されてくるのだと思う。 これって、やはり一種の職人的な「こだわり」だと思うのです。で、そうした空気感をバンド仲間に作り出していったのは、やはりミクさんとみて間違いないでしょう。彼女は自らリードヴォーカルを捨てることによって、より「大いなるもの」を祀り上げていく、巫女のようなポジションを見出したと言っていいのではないか?それかあらぬか、「thrill」のころセカンドヴォーカル的な位置にいたミクさんは、次第にバックコーラスに退いて、むしろそこからバンド全体の「サウンドを眺める」ことに面白味を感じていたようですね。
とはいえ、進化を求めてやまないミクさんは、昨年ソロプロジェクトcluppo(くるっぽ、鳩語で「こんにちわ」という意味らしい) を始めたり、最近の作品ではバックコーラスとリズムギターというポジションは変わらないものの、音楽的には以前と比べて、より前にせり出してきた感じがします。それのよく出た曲を聴いてみましょう。「Manners, BLACK HOLE」