トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2006/09/10
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カテゴリ: 読書
ufo

■正真正銘の御手洗ものである。決して彼が電話で石岡君に指示するだけの御手洗ものではない。時は昭和56年、「山高帽のイカロス」の後くらいと言うから、まさにホームズ・ワトソンコンビ全開の頃の事件じゃないか。案の定、石岡君と彼は馬車道のフラットに住んでいて、そこに小学生くらいの女の子が訪ねてくるのがこの事件の発端である。

鎌倉の極楽寺に住んでいるおばあちゃんがUFOと宇宙人を見たんだって。

■なんてたって帯の惹句は「御手洗潔疾走(はし)る!」である。その足で鎌倉に直行したふたりはそのおばあちゃんに会いに行き、驚くべき事件の全貌を知る。曰く、早朝裏山で宇宙人が戦争をしていた。銀色の宇宙服とヘルメットを被った彼らはなにやら光線銃のようなもので撃ち合いをしていた。裏の通りを彼らを乗せたUFOが走っていくのを見た。

■ちょうどその頃、お婆さんの2軒隣に住む男がフルフェイスのヘルメットを被って白いシーツに身を包み、密室状態の部屋の中で謎の死をとげる。完璧な密室、外傷は一切無し。どう、とんでもなく魅力的な謎でしょ。

■つくづく島田荘司ファンはおおらかである。冗談ギリギリのお話を摩訶不思議な奇想と呼び、こじつけと強引な謎解きを論理のアクロバット的展開と賞賛する。御大は常に左うちわで蘊蓄を垂れる。そこには常に社会派の面目躍如たる作者の現代社会の病理に対するありがたい警告が含まれるわけだ。

「傘を折る女」

■それは石岡君が聞いていたラジオのDJ番組の1通の投稿から始まる。雨の夜白いワンピース姿の女性が傘を自動車にひかせているのを見た。

なぜ雨の中、女はそれをささずに、わざわざ車道の真ん中にそれを置いてわざと車にひかせなければならなかったのか。



■だからいかにして、御手洗の論理展開についていけるか、つまり石岡君の心情にどれくらい感情移入できるのかがこのシリーズの生命線であったわけで、彼まで一緒になって三段跳びみたいな強引な帰結に頷いてしまうようなお話にはついていけない。

■何年か前に実際にあった少年によるバスジャック事件、その話を聞いた島田荘司がこんな物語を発想したということは容易に想像できる。ただ、それをこんな風に展開していけるこの作者の誇大妄想に感心しきり。

■今年は全力疾走の島田荘司だそうだ。先の「帝都衛星軌道」、「溺れる人魚」、本作、「光る鶴」、「犬坊里美の冒険」、「最後の一球」と6月から月刊島田荘司状態。なかでも御手洗出ずっぱりの本作は嬉しかった。もうひとつはあの里美ちゃんが司法修習生として活躍する新シリーズにちょっと期待。

■物語が面白くてもそうでなくても御手洗潔事件簿を時系列に整理する楽しみは大きい。過去の彼の活躍の見事さを回想させてくれた意味でも本作の意義は大きい。って結局最後までこの本について肯定的なことが書けなかった私だ。でも私が今日ミステリー好きでいられるのはひとえにこの御大のおかげなのである。





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Last updated  2006/09/10 06:27:16 PM
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ミリオン@ Re:「北の国から」を友達にすすめてみる(01/02) こんばんは。 嬉しいです。頑張って下さい…
Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…

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