トカトントン 2.1

トカトントン 2.1

2007/07/31
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カテゴリ: 音楽
long vacation01. 君は天然色
02. Velvet Motel
03. カナリア諸島にて
04. Pap-Pi-Doo-Bi-Doo-Ba物語
05. 我が心のピンボール
06. 雨のウェンズデイ
07. スピーチ・バルーン
08. 恋するカレン
09. FUN×4


■81年の夏といえば、テクノポップが隆盛を極めていた頃だ。YMOをはじめとするシンセサイザーを駆使した音楽が世間に溢れ、モダンで単色な近未来の風景が当時のバンドのめざす色彩だったように思う。そんな中でこの御大の時代遅れのニューアルバムに食指が動いたのは、どういうきっかけだったか、今では思い出すことはできない。

■ロンバケの前にロンバケ無し、ロンバケの後にロンバケ無し。結局このアルバムはそれが発表された時代背景や音楽状況などを一切飛び越えた次元で語られる名作となった。その原因はポップスというアメリカンカルチャーが日本の歌謡曲文化と見事に溶け合い、何の違和感もなく、日本語で歌われたことにあるのではないか。そう、今になってみれば一風堂やヒカシューの方が時代遅れだったように思えてしまう。

■松本隆の書いた詞は切り取られた10個の場面の情景であって、そこには聴く者ひとりひとりが、任意に登場人物を設定する余地を残している。おそらくそれは自分を含めた特定の個人であって、人から見れば無色透明に見える女の子も彼からすれば、それこそ天然色に輝き出すのだ。

■ロンバケの成功はこの松本隆の詩作を抜きにして語れない。南佳孝の「摩天楼のヒロイン」と共に彼の残した2大アルバムのひとつだと思う。大滝詠一のソロアルバムには違いないが、心に残る言いようのない叙情性は彼のこの歌詞あってこそのものだと思う。(M4だけは大滝作詞。この流れるような言葉選びは彼独特のセンスを感じる。妙案、奇案、思案、胸に♪ なんて言い回しは専業作詞家にはなかなかできないと思う)

■誰もが口ずさめるサビを持ちながら、M1を全部通して歌いきることは意外に難しい。メロディは緩急を極め、リズムは複雑に変化する。それを支えるバック・ミュージシャンの凄腕ぶりも見事。実はこの曲、ピアノの単音で始まっていたんだって、さっき聴き直してあらためて思い出した。

■それにしても捨て曲無し。M6~M8の一連の流れは普遍的ですらある。M4,M9も軽く聞こえるがすごくよく考えられてできていて、余分なものが何もないポップスになっている。M5の強さと弱さが共存するようなタッチもすごく好みだな。1曲だけ季節感を逸脱したように見えるM10もうまくアンコールという形式で添えられているのがまた巧い。

■全体のポップさゆえ、見逃してしまいがちだが、このアルバムには青春の喜怒哀楽が全部詰まっているように思える。それがなにげなくこの作品に愛着を感じてしまう隠し味でもある。「A Long Vacation」とは、いくつになっても、長い夏休みが始まるウキウキした感じを思いださせてくれるもののことであり、また、長い長い休暇を取り続けている、あるアーティストのことを示す言葉でもある。





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Last updated  2007/07/31 10:37:29 PM
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何度聴いたかわかりません。  
elsur さん
1曲目に針を落とす(!)瞬間から、一瞬にしてあの時代のあの熱い夏の日を思い出させるこのアルバムの力というのはやっぱり凄いです。ほんとに捨て曲なし。敢えて言えば「さらばシベリア鉄道」が妙に歌謡曲っぽくて当時は好みではなかったんですが。

このジャケットを担当した永井博、山下達郎の「For You」のジャケットで有名な鈴木英人、わたせせいぞうや江口寿史やペーター佐藤…あの時代の空気とイラストたちがなぜかこのアルバムを聴くと思い出されます。
わたしにとっていろんな意味で「トリップ」してしまう名盤です。
(2007/08/01 02:06:49 AM)

くちびるツンと尖らせて♪  
elsurさん

最初にLPがCD(コンパクトディスク)化されたラインアップのひとつがこの「ロンバケ」だったと思います。アナログLPに愛を捧げ続けていた彼にとっては皮肉な結果となったわけです。
永井博のイラストの他にもヤシの木とペンギンのカットは湯村輝彦でしたね。

>わたしにとっていろんな意味で「トリップ」してしまう名盤です。

そうそう、しちゃいます「トリップ」。いつもながらナイスな表現です! (2007/08/01 09:23:29 PM)

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Dehe@ Re[1]:カルトQ 2005 北の国から(10/18) adventさんへ ご指摘の通りです。例によ…
advent@ Re:カルトQ 2005 北の国から(10/18) 五郎が読んだ大江健三郎> 開口健ではなく…
しょうゆ@ Re:家庭教師 / 岡村靖幸(09/09) …最後まで岡村靖幸はわからなかったのでは…
背番号のないエース0829 @ Re:ヒトラー 映画〈ジョジョ・ラビット〉に上記の内容…
Dehe @ Re[1]:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) Mr.Zokuさんへ 情報ありがとうございまし…
Mr.Zoku@ Re:センチメンタル通り / はちみつぱい(04/17) 今年出た[Deluxe Edition]は聴かれました…

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