『詳説・アクアビットについて』
■Aquavit(ノルウェー)Akvavit(デンマーク)アクアビット
■ラテン語"命の水"(Aqua:水‐Vitae:生命)の意味の変型で、
「ウイスキー」「オー・ド・ヴィー」などと同じ考えからきている。
アクアビットの最古の記録は、1467年から1476年に至る間のストックホルム市財政報告書に見られる。
それによると、当時のアクアビットは、
ドイツから輸入したワインを蒸留したもので、いわばブランデーみたいなものだったようである。
今日、スェーデン産のアクアビットの一種に、
ブレンビン(Brannvin,焼いたワイン)というタイプのものがあるのは、その名残といってよい。
■16世紀になると、ヨーロッパの寒冷化の影響でドイツのワインの生産量が減り、
アクアビットの原料入手が困難になってきたので、原料を穀物に切り替えるようになった。
18世紀には、寒冷地に適した新大陸産の馬鈴薯が北欧に普及して、
再度それが原料にするように変わり、今日に至っている。
古くから、スカンジナビア諸国民の体を心から温めるスピリッツとして愛飲されてきた。
アクアビットは色々な種類のスピリッツを呼ぶ用語に用いられている。
現在でこそ殆ど品質に差はなくなったが、
10年以上前までは、アクアビットはノルウェー、スウェーデン産よりもスカンジナビア諸国民は一致して、
デンマーク産が最高級品だとされていた。
なかんずくデンマークの首都コペンハーゲンのSANISCO蒸留所製
「オールボー・アクアビット」
が現在でも著名である。
同名はデンマーク北部のユトランド(Jutland)にある小都市アルボア(Alborg)の名からきている。
■デンマークにおける蒸溜の工業化は1840年に始まった。
いわゆる蒸気蒸留所が導入されたのであった。
その前1800年には都会地および農村を合わせ、2500あまりの小蒸溜所があった。
1881年に「ダニッシュ蒸溜株式会社」(D.D.S.F)が創立された。
最初の目的は、コペンハーゲンに新設した新式設備によって外国産粗製スピリッツを精製して、
地中海沿岸のワイン地域に輸出することにあった。
然るに、いろいろな制限や値段の関係で、
それを断念して内地向けのスピリッツの生産に主力を注ぐことに切り替えた。
一方、国内の蒸留所数は1900年ごろにはわずか52に減っていた。
第1次世界大戦(1914~18年)に、政府の都合上、
同国蒸溜業を根本的に集中化することが実行された。
1934年にD.D.S.Fは政府との協定に基づいて、
スピリッツ、イースト、蒸留酒飲料の生産のデンマーク国内における独占権を与えられた。
オールボー蒸留所(1845年創立)も1881年にD.D.S.Fに買収されている。
■デンマークで政府の専売法の下でアクアビットを作る方法は
馬鈴薯から極めて精製(精溜)された中性アルコールをまず造り、
さらにもう一度、着香料と一緒に蒸留する。
主要な着香料はキャラウェイ・シード(ウイキョウ)であり、
それに次ぐものがコリアンダー・シーズ、フェンネルなどが用いられている。
従ってキュンメル(Kummel)の一種とも考えられる。
英語のキャラウェイは、ドイツ語のキュンメルである。
しかし、キュンメルよりは少しドライであり、
アクアビットのアルコール度数45度に対し、キュンメルは30~40度の違いがある。
無色透明の酒であるから、元はカクテル向きのようであるが、ウォッカほど万能ではない。
■アクアビットは貯蔵熟成させない。
蒸留から出てきたままをフィルター(濾過機)にかけ、
水でアルコールを下げた後、内部のガラス張りタンクに詰めて瓶詰めするときまでおく。
あるいはタンクに入れないで直接瓶詰めすることもある。
■かつてこの酒は、樽詰にして船積みし南方を一航海して帰ると、ぐっと質が向上するといわれていた。
そんな熟製法を得たものを
「リンニア・アクアビット(Linja Akvavit)」という。
リンニアとは線もしくは赤道の意味で、
この場合、赤道を越えて来た酒というわけである。
酒を船に積んで南方(オーストラリアなど)に旅行させて熟成させる方法は、
その昔、スペインのシェリーには盛んに使われた方法で、
"East India"
という酒銘にその名をとどめている。
しかし、この慣行はすっかり廃れており、
昔の帆船時代には船の重心を下げる場合に酒樽が船のバラストとして絶好であったということもある。
■アクアビットの一般的な製法について、もう少し詳しく説明すると、
主原料の馬鈴薯のでんぷん質を糖化酵素(エンザイム)によって、
糖化、発酵させる場合と麦芽を使って糖化、発酵させる場合の2つの方法がある。
前者の場合は馬鈴薯100%のアクアビットになる。
■発酵後、連続式蒸留機でアルコール分95%以上のニュートラルスピリッツを採る。
これを加水して、アルコール度数を調整して、香草、薬草類を加えてもう一度蒸留する。
こういった方法は、原料の違いを考慮しなければ極めてジンに似ているといってよい。
■香り付けに何を使うかは、国やメーカーによって異なるが、
殆どのアクアビットに共通して使われるのが、キャラウェイである。
他に、アニス、クミン、カーダモン、フェンネル、ディルなども使われている。
ジンに比べるとハーブ由来の香りが主体なので、
人によってはこのアクアビットのことを、
ハーブ・スピリッツということもある。
■アクアビットは一般的に樽熟成せずに、無色透明のままで製品化されている。
しかし、上記で説明したように18世紀の歴史ある伝統を守って、
樽熟成したものもあり、淡い黄色、ないしは黄褐色を呈しているものを、
リニエ・アクアビット(Linie Aquavit)と一般的に呼ぶ。
(上記はデンマーク語に由来している)現在はその故事にちなんで、
ゆっくりと樽熟成し、樽由来の色と香りを持つに至ったアクアビットの商品名となっている。
■スカンジナビア諸国では、アクアビットを冷凍庫もしくは冷蔵庫で強く冷やし、
ストレートで飲むのが一般的な飲み方で、
体の芯からあったまった感じになり、食欲も湧いてくる。
また、ビールを飲むときに、冷えた胃をアクアビットによって温めながら交互に飲む習慣もある。
■以前、アクアビットはいつでも氷と一緒に供され、
口当たりにつられて、うっかり度を過ごし、腰を抜かす人が多いので(?)
“世界一の利きのよい酒(ハイ・ポテンシャル・リカー)”
だとの悪名 (?) もあった。