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■ジャズの歴史(その30)■



■History of Jazz ジャズの歴史(その30)■

●ジャズの新しい方向を示した『カインド・オブ・ブルー』




【アルバム】

カインド・オブ・ブルー / マイルス・デイヴィス
Kind 0f Blue / Miles Davis

録音日:1959年3月2日(1~3)1959年4月22日(4、5)
録音場所:アメリカ、ニューヨーク
レーベル:Columbia(コロンビア)

[収録曲] 

1.So What ソー・ホワット
2.Freddie Freeloader フレディ・フリーローダー
3.Blue In Green ブルー・イン・グリーン
4.All Blues オール・ブルース
5.Flamenco Sketches フラメンコ・スケッチ

[パーソネル]

マイルス・デイヴィス(tp)
ジョン・コルトレーン(ts)
キャノンボール・アダレイ(as)[3]以外
ビル・エヴァンス(p)[2]以外
ウイントン・ケリー(p)[2]
ポール・チェンバース(b)
ジミー・コブ(ds)




1950年代末、それまでジャズの中心的な演奏スタイルだったハード・バップから、
トランペット奏者のマイルス・デイヴィスなどの手によって新しいジャズの演奏スタイルが試みられるようになり、
1959年に発表されたマイルス・デイヴィスのアルバム『カインド・オブ・ブルー(Kind 0f Blue)』が、
それを確立したものとされました。
そして、この革新的スタイルのジャズは『モード・ジャズ(Mode Jazz)』と呼ばれるようになります。

これは、マイルス・デイヴィスが『モード・ジャズ』を具体的に提示したアルバムということで、
1960年代以降のジャズの行方を決定するほどの大きな影響を及ぼすことになる、
ジャズ史上に起こった「モード革命」を記録した重要な歴史的アルバムです。

これにより、マイルス・デイヴィスは完全にジャズ界におけるリーダーに君臨することになります。

それまでのジャズは、
「すべてルイ・アームストロングに始まって、レスター・ヤング、コールマン・ホーキンスを経て、
そしてチャーリー・パーカーとディジー・ガレスピーにつながる一本の線の上から生まれたものだった。」
と、マイルスは自伝で語っています。
当然、マイルス自身のそれまでの名作と言われるアルバム、『クールの誕生』や『バグズ・グルーヴ』も、
それらと同じ線上のもので、もとにあったものをマイルス流に発展させたものでした。

マイルス・デイヴィスは、それまでの演奏スタイルからの脱出を考えていたところ、
それを実現するアイディアとしてモードという概念に着目したのでした。
それを最初にアルバムの中で試みたのが、
このアルバムのちょうど1年前の1958年の春にレコーディングされた『マイルストーンズ』でした。
そして、それをさらに発展させて、より高いレベルで作り上げたのが、
1959年春にレコーディングされたアルバム『カオンド・オブ・ブルー』で、
ここに『モード・ジャズ』のスタイルが完成したというわけです。

しかし、これはマイルス一人だけでは音楽として完成させることはできなかったでしょう。
そこには、このアイディアを理解して発展させることのできるメンバーが必要でした。
このアルバムでは、テナー・サックスのジョン・コルトレーン、
アルト・サックスのキャノンボール・アダレイ、
そして、ピアノにはビル・エヴァンスという有能な人材を得たために、
モード・ジャズの誕生に成功したと言えるでしょう。

このアルバムの制作にあたって、ビル・エヴァンスの存在は大きいもので、
ここではマイルスの作曲になっていますが、
実質的にはエヴァンスが作曲した曲、「ブルー・イン・グリーン」を提供し、
「フラメンコ・スケッチ」ではエヴァンスのアルバム『エヴリバディ・ディグズ・ビル・エヴァンス』に収録の曲、
「ピース・ピース」を発展させたものだと思われるなど、
多分にビル・エヴァンスのアイディアが表現されているということが伺われます。

マイルスはもうひとつ、このアルバムで試みた新しい方法がありました。
それは、曲のテーマを全部譜面にすることをしないで、
5小節程度のスケッチだけ書いてスタジオに入ったと言います。
メンバーそれぞれのスポンティニアス(自然発生的)な、
完全なインプロヴィゼーション(即興)がほしかったからというもので、
たとえば、「オール・ブルース」という曲は、
マイルスが子供のころに聴いたゴスペルのサウンドが耳によみがえってきたものを元に、
スケッチしたモチーフを全員でインプロヴァイズした結果誕生した曲だと言います。
それに、一曲目の「ソー・ホワット」は、
「だからどうなんだ」というマイルスの口癖がそのままタイトルになった曲ですが、
これも、ベースが先にメロディー・ラインを弾き、それに対してマイルスたちが答えるということで、
インプロヴィゼーションを行って完成した曲です。

それから、特筆すべきことは、このアルバムは別格の名盤だということです。
どこででも、このアルバムはジャズの名盤中の名盤と称されているので、
ジャズを初めて聴く人が最初の1枚に選ぶということが圧倒的に多いものでしょう。
それは、名盤だからということの安心感も大いにありますが、
それと共に、なにしろ主役のマイルス・デイヴィスは超有名ミュージシャンであり、
しかもジョン・コルトレーンやビル・エヴァンスという、
マイルスと同じくらい有名なミュージシャンがクレジットされていれば、
ジャズを聴きたいと思っている人にとっては最大の魅力になるでしょう。
普通であれば、何枚ものCDを買わなければならないところ、
このアルバム1枚で、コルトレーン、エヴァンス、キャノンボール、ケリーまでついてくるというのですから。

そのため、この『カオンド・オブ・ブルー』は、現在まで全世界で数百万枚のセールスを記録し、
ジャズ史上最も売り上げ枚数が多く、いまなお売れ続けているアルバムとされています。

しかし、このアルバムでジャズと初めてふれた人は、これを聴いて、はたして感動するでしょうか?
感動しないまでも「ジャズはいい!」と思えるでしょうか?
それには大いに疑問があります。
このアルバムは、難解とまではいかなくても、
それまでのビバップやハード・バップと言われる、
ジャズらしい熱いエモーションとはちょっと違ったところに魅力があるものだからです。
要するに、極端な言い方をすれば、このアルバムは、
初めてジャズを聴く人が期待するようなジャズ的要素を、
真っ向より否定したところから生まれたアルバムだということです。
ですから、初心者のジャズ入門に思われがちなこのアルバムですが、
本当はジャズを聴きこんだ人にこそわかる奥深さがある名盤と言えるでしょう。

それゆえに、時間がいくら経とうとも、このアルバムは輝きを失うことは全くないのです。

Last updated December 20, 2008

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