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ふるっぴ@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) もうすぐ2016年の夏です。みんな元気…
ヤンスカ @ Re[1]:時は流れても、私は流れず(08/26) furuさん ふるっぴ、お久しぶりです! よ…
ヤンスカ @ Re[1]:時は流れても、私は流れず(08/26) gate*M handmadeさん うお~!お久しぶり…
furu@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) 勝手に匿名コメントを残し、怪訝にさせて…
furu@ Re:時は流れても、私は流れず(08/26) やっぱり元気やったな!? 良かった。
2012.08.03
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カテゴリ: カテゴリ未分類
「ねえ、カーステアーズ。今は夜の終わりなの?それとも、朝の初め?」

私のオーナーは、長椅子に寝そべって、車内にかけられているショパール製の
掛け時計を見つめている。
私は、この方にお仕えしていつも驚かされるのだが、
わがオーナーが持っていないものなど存在しないのではないのか。

しかし、古きよき重厚なものを愛する英国人の血を引く私には、
このような、ダイヤモンドで飾られたきらびやかな掛け時計など、
申し訳ないが、称賛に値するものではないのだ。

長針は、エメラルドでできていて、短針はルビーである。


その針は、午前4時を示している。

「あなた、また、この時計を呪っていたわね」と、
目を細めて、ヤンスカ様がおっしゃる。

この時計は、ラスベガスで出会った、テキサス男のハリーから
ヤンスカ様に、恋の思い出として贈られたものだ。
あれは、ひどかった、あのイエローのポルシェ、
明るすぎるブルーの目に、砂色の髪。
虚飾に満ちた、あの街にはお似合いだったが。

わがオーナーは、宝石などには興味はない。
あの方が欲しいのは、常にそのお相手の心である。

当然のことながら、つかの間の出来事として、私は淡々と業務をこなし、



さて、スミノフ(イワンから贈られたものであろう)に、
絶対、メキシコのライムを入れて飲みたいのと我がままをいうこの方のために、
ベラクルースに行き、リモン・ペルサを仕入れてきた。
私は、酸味の強いメヒカーノ種が好みだが、
あの方は、種が嫌だとかおっしゃるし、まだ収穫には早いので、


「カーステアーズ、まだ、答えてないわ。今は夜?それとも」
「ヤンスカ様。何があったのです」

「あなたには、強い面影を残した人っているの?」

そういうことか。
夜なんてこなければよいと、この仕事をしていると感じることがある。
太陽に満ちた時間帯の、この方は、はつらつとしていて、
悩みなど何もなさそうに見えるのだが、
夜の闇が支配する頃には、たいてい、物思いにふけっておられるから。

妄想列車は、わがオーナーの影から出発し、
日の当たる場所を探し続ける宿命なのである。

「まさか、ハリー様のことでは、ございませんね。今だから申しますが、
 あれは、不適格なお方でございましたね」

「カーステアーズ。質問に質問で返すことで、私をはぐらかしたつもり?」

ドキ。

「ええ、おりますとも。誰にだって心の小部屋の中に、
 忘れえぬ方の肖像画をかけているものでしょう」
「その絵を外すことは、ないの?」
「男というものの多くは、何枚かの絵を飾るものかと思われますよ。
 まあ、私は、一枚の絵のみですが」
「なぜ、外さないの?」
「それは、今現在、私にこれだという女性が存在しないから、
 自分の記憶の中の最高の方を、拠り所にしているような感じでしょうか」

オーナーは、窓の外の薄れゆく月光をしばらく見つめて、
両足を床におろし、立ち上がる。
私がスリッパをお持ちする前に、すたすたと窓辺へ向かわれ、
あろうことか絶叫する。

「私は、永遠の絶対になりたいの~」と。

何でも叶えてさしあげたいと、私は常に思っている。
お好みの場所になら、どこにだってお連れできるが、
お相手さまの気持ちまで、私にはどうこうできないのだ。
ヤンスカ様を見守ることしか、できないのだ。

「私はね、私と出会ったことで、そんなあなたのいう、
心の小部屋なんて破壊してもいいというほどの、強い存在になりたいの」

充分すぎるほど、強いあなた様ですがと、
もちろん言葉にだしはしないが、わがオーナーの欠点について考える。
白か黒か。ゼロか100か。
極端なんである。二つしか、選択肢がないからこそ、
あの方の苦悩は尽きないのだ。

大体、夜と朝の狭間など、どうでもいいではないか。
その時々で、夜だと思えばいいし、
朝を感じてもいいのではないか。

私ほど、ヤンスカ様の本質を知りつくし、
それでも、健気に尽くす者もいないであろう。

「思い出を大切にすることは、悪でしょうか?」私は訊ねる。
「大事なのは、今と未来でしょう?」
「当然です。しかし、誰が何を大切にしようと、
 あなた様が口をお出しになる権利はないかと存じます」

「私は、肖像画なんて掛けたりしないもの。
 いつだって、目の前の人が最上ですもの」
「ヤンスカ様。私たちは、同じ話題について語り合っているとは、
 とうてい思えませんね。
 よろしいでしょうか?心に小部屋を持つことと、
 現実のその方を愛することは、同時にできるのですよ」
「嘘。そういうのって、私には耐えられない」

まだ、ライムが残っていたので、私はキャビネットから自分用のウォッカと
コアントローを取り出し、カミカゼを、わがオーナーに処方する。

「おあがりなさいませ、ヤンスカ様」

「考えてみるのですね。あなた様は、経験も積まれている方でございます。
 これまでに愛した方から、あなたは何も受け止めなかったということでしょうか?」
「どういう、意味?」
「持って生まれたあなた様の感性に彩りを添えたり、
 新しいあなた様を付け加えてくださったり、自信を与えてくれたこともあったはず。
 もちろん、苦しみや、憎しみもあったかと存じますが、そんなことも全て、
 過去からの贈り物ではないでしょうか」
「……」
「あなたが、好きになった方も、そのようにして過去から育まれて輝いていらっしゃるのだと
 考えてみてはいかがでしょうか?」

ヤンスカ様は赤面されて、顔をおおう。
やはり。

「カーステアーズ、私は、別に好きな人なんかできていません」

いえ、お顔にそうかかれていますから。
おお、グラスを一息に傾けた。

「あなた様に、思いつめるなとは申しません。でも、追いつめてもなりませんよ」

「いつもと、違うの。カーステアーズ。私はいつだって、欲しいものは手に入れたのに、
 今度はね、大切すぎて、そっと眺めていたいのよ」

新しいパターンだ。
後の乗務員会議でも、さっそく報告せねば。
しかし、眺めているだけで、この方が満足なさるわけがあるまい。

そして、秘めた思いこそ、我らが妄想鉄道の最高の燃料となる。
なんと、まだまだ未知の世界へとわが線路網が広がるらしい。

運転スタッフとの緊急ミーティングが必要だ。
さて、行かなくては。

「ヤンスカ様、せめて、あなた様のお相手が、小部屋の存在を気づかせないような
 聡明な方でありますよう、お祈りしていますよ」

本当は、こう言いたいのだ。
正しいと思う数なんて、人の数と同じだけ存在するのですよと。
無数の思惑の中から、たったひとつ繋がる奇跡を考えれば、
ごちゃごちゃ言うなと。
ヤンスカ様、ぶつけてみればいいのですよ。
なぜ、あなたは、そう考えるのかと?
見ているものが違っていても、魅かれてしまう、それが恋というものでしょうと。





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Last updated  2012.08.03 07:17:06
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