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2014.03.22
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城壁の前の男



人・言葉・人『西の文人・画人抄』 秋山敬 84頁
人間をえぐる 平野遼
アトリエに案内されたら、のっけから香月泰男論。
『私には香月さんのように絵を描いて年間1億円近くも稼ぐなんて、とても・・・』
そんな芸当は物理的にできないし、そんな自分なら、とっくに自己嫌悪を感じて自殺してしまっている。
香月さんの葬儀に列席したある画商が『外国の砂漠の中で死ななくてよかった』といったそうだが、私はそれを耳にしてヘドの出る思いがした。
なるほど、香月芸術の“琳派”に近い美意識で描かれた初期の装飾性の強い作品は後世に残る立派なものだと思う。
しかし、シベリアシリーズも真に抑留生活の実感がにじみ出た『埋葬』を除いては、堅固なマチェールに物を言わせた彫刻のレリーフを見るようで、純粋な絵画としての持ち味とはいえない。

そのショックが尾をひくなかで、これほどきっぱりと、手きびしく批判できるのは、この人以外にないだろう。
やはり“香月後”の画壇を背負って立つ実力派の自信か。
しかも、その批評は、ずばり真髄を衝いていたし、痛烈な中に、亡き先輩への哀悼もこめられていた。
北九州市小倉北区の足立山のふもと。
新興住宅地にふくれあがった高台の黒住公園近く。
すぐ裏の霧ヶ丘中学校の校庭から子供達の歓声が、ときおりアトリエまで伝わってくる。
平野さんは黒のセーターに、絵の具でドロンコになった仕事着を無造作にはおり、誰はばかることもない。
約60平米、40畳分もあるアトリエには、使い切った絵の具や筆が無数に散乱して足の踏み場もないほどだ。
5月の主体美術展に『解体される人間像』を出品する。
顔の部分を残して、九分通り出来あがっているその絵をのぞいて驚いた。
それは、現代社会のさまざまな不条理、公害、気象異変などを、深層心理の面から根源的に追求していこうという新しいシリーズの第1作だったからだ。

しかし、いったん降りると自分も加害者の立場にあったことに気づく。
公害をたれ流す工場で働いている労働者も、そこを一歩出ると一市民にかえる。
つまり人間誰しも被害者意識と同時に加害者意識を持ち合わせている。
それを機械化が進み、管理化されていく社会の中での人間像としてとらえようとすると“人間解体”。
つまり、こんなタブローでしか表現できないんですよ。

平野さんは、かつてカネミ油症患者の痛ましい募金風景に、いい知れぬショックを受け、公害告発の連作を発表、ついで駅前の選挙演説を群衆の“人間ドラマ”をモチーフに群像シリーズを手がけてきた。
新シリーズは、4、5年がかりで、20点くらいの連作にしたいという。
いつの間にか“公害告発画家”のレッテルを背中に張りつけられたことに『人間として、照れくささと、複雑な思いを痛切に感じている』平野さん。
香月批判も、その死を乗り越えて、未知の世界に踏み込んでいく自分自身への励ましの言葉だったのかも知れない。
師を持たず、全国チェーンのフォルム画廊と契約するまでは、東京、北九州で職業を転々。
清子夫人とともに、独学で苦難の生活を送った。
今年も安井賞は逃したが、すでに中央でも不動の地位を築き上げたこの人には、さして気にならない。
(49.4.10『郷土作家訪問』)





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最終更新日  2014.03.22 22:49:59
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