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2005年12月23日
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カテゴリ: 廃線探訪の旅.







ただ、思考を通したとしても左の道は単純に「あやしい」と思った。地形図はよく見たし、まあそのとき持ってもいるが、二瀬尾根ルートとして反射板まではまだ距離があるはずだったので、水平方向に進む道があるというのは考えられなかったのだ。標高でいうと秩父湖はだいたい600m、反射板位置は1,330m。このルートで山に入る前に、必ず渡る吊り橋から見える反射板までの高度差はかなりのものだ。ちょっと見ると、まあ確実に見えるものだから「ああ、あそこか」としか思えないが、山のなかというのはうねうねうねうね進むものなので結構時間が掛かる。高度差というのも下から上を見た場合と上から下を見た場合、下から見た上というほうが勘違いをするものだ。



まあそういった理由も含めて、左の水平方向に見えるルートとリボンは無視し、右のやや登っている方向を進んだ。



やはりこのルートで正解のようで、そこから先も道筋らしきものが続いており、尾根の鞍部を辿ってどんどん高度を稼いでいく感じに私は安心した。それにしても雪がどんどん増えていく。こういったリボンの罠は他にも数箇所あったのだが、この「左水平・右やや登り」地点以外は殆ど悩むことはなかった。おそらくこのリボンは登山ルートとしての目印も兼ねているが、やはりそもそも仕事用のものである可能性が高い。人は誰もいないが保安林として手入れがされているのは間違いないので、オジャマしまーすという気分だ。



雪の下は秋を過ぎて落ちた葉が積もっており、その上に雪も積もっているものだからかなり滑る。鞍部にはやや水平に近い部分もあったりするが、やはり基本的にはどんどん登るという姿勢を崩さないので、急登になるととにかく滑る。軽アイゼンを装備したとしても雪の下の地面ごと滑るのであまり役には立たないだろう。ところどころは四つん這いになって登っていくような急登もあったし、とにかく似たようなコブ状の尾根を登っていくので次第に不安になってきた。同じような地形が続くと、その先がわからないとき結構不安に感じるものだ。一体いつまで続くんだこの登りは!とやや怒りに近い気分も覚える。だが山は「わたしずっとこうなんですわ」と言っているので「そうだった、すまぬすまぬ」と詫びつつ黙って登る。



それにしてもノドが渇く。山に入るとき、「行けるところまで行ってみよう」という程度の判断だったので、来る途中コンビニで買っておいた500mlのペットボトル飲料水2本のうち、1本をクルマに置いてきてしまったのだ。しかしいくら冬山とはいえ、急登を繰り返しているので汗の量はかなりのものである。立ったまま休憩するとき、ひとくちずつ大切に飲んでいたのだが、それにしてもあまりにも不安な量である。そこで周囲にいくらでもある水分をまずはペットボトルに入れることにした。雪を詰め込むんである。



しかしペットボトルの口というのは結構小さいもので、なかなかうまく雪が入ってくれない。ある程度入れて面倒になってきたので今度は雪を直接食ってしまうことにした。



これがまた実に爽快なんである。口に入れるとジワーと冷たさがひろがり、シャッキリとした気分にさせてくれる。カラダのなかはかなり熱くなっているので本当に気持ちいい。更に口に含み、水分として飲んでしまう。いやはや冬だからこその醍醐味だよなあこれは!と1人で実に気分爽快のクロレッツ状態になると同時に、何かこう、人生のタソガレのような気分にもなってきた。うーむ。オレホントにこれでいいんだろうか…という気分にもなりつつどんどん進む。



と、突然笹が出始めた。







だがそういう気分のときにこそ罠は効くというもので、笹の上に雪が積もっているものだから正確な道幅というのがわかりにくい。「あっここはかなり狭そうだな」とわかってはいたものの、左足をズッポリと斜面下方向に持っていかれた。その下には木があるというものの、斜面そのものが急なので落ちていけば良くて骨折だなと思いつつなんとか笹を掴み、再び道に戻った。実際に足を置けるのは人の足1つぶん程度の幅しかなかったのだ。



「うーむ」と唸りつつ、ホントにここ登るのかよと思わせる笹のなかに切り開かれたルートを進んでいくと、反射板地点に突然辿り着いた。



これは本当に突然反射板が見えたのだ。視界が開けてきたからもうすぐだな・・・とは思っていたけれど、その直前まであの巨大な反射板が視界に入らなかった。これだから山は怖いのだ。だがとにかく反射板地点まで辿り着いたので私は「おーしやったぞとりあえずやったぞ!」と素直に喜んだ。



反射板はたぶん横5m、縦3.5mか4mというものだった。下の吊り橋からみえた通り、やはり広告を貼っていない看板という感じがする。ここに「広告募集中 連絡先・・・」などと書かれていたらかなり面白いのにな、などとどうしようもなくくだらないことを考えた。反対側に三峰山の山頂まで、遠くはおそらく秩父市街と思われる町並みまで見通せる。快晴のなか本当に素晴らしい景色であった。



反射板から和名倉山方向には、明確な1本のわりと幅のある道が伸びている。高度は殆ど稼ぐ様子がない。間違いないだろう、これこそが森林軌道跡であると思われる。



これでも一応鉄道員をやっているので、トロッコを通すのに必要そうな幅や運行できそうな勾配などとというのは感覚でわかる。その道の入り口が反射板地点で、ここが何で「地点」とかなり特定のポイントのように表現されるのかもわかった。ちょっとした広場になっているんである。それこそ家一軒建てられるくらいの広さだ。急斜面が多いこの奥秩父の山で、このような地形はどう考えても人工的なものであるが、ここが森林軌道の起点(終点)で麓に降りるものではない、となればこの広場の意味もわかってくる。



つまり、ここから索道を使って今の秩父湖まで木材を降ろしていたのではないか。



秩父湖(二瀬ダム)は人造湖であり、昭和30年より以前はなかった。それまでは田畑であったり集落があったりしていた。そこまで索道を使って木材を降ろすというのは、この視界の開けっぷり、人工的にしたって結構広いその土地を考えると、一番納得できる姿である。反射板の立っている下はしっかりと盛り土がなされていて、どうもこの部分があやしい。林鉄跡の方向を向いて、その入り口左側にはテントくらいはれるスペースというのもある。ここには何か小屋くらいあったのかもしれない。とにかくいろんな事が想像できる広場であった。



さて、その林鉄跡と思われる方向を眺めて、私は「やはりな」と半ば落胆した。探索には雪が積もり過ぎているのだ。



雪が積もっていると、その下にあるはずのものが全く確認できない。ひょっとするとまだ残っているかもしれない犬釘1本でもわからないのだ。しかしここまで来て全く歩かないというのも、なんとももったいない話である。少なくともここまでの道程より遥かに歩きやすい道であり、しかも水平方向である。まだ残っているという造林小屋跡まではかなりの距離があるので予め断念を決意しておくが、ちょっと行けるところまで簡単に行ってみようと思い進んだ。



向かって左側が秩父湖側となるので、そっちがつまり斜面の下方向ということになる。それでも途中広場状の地形なんかがあって、ここは木材を置いておくところかな、などということを思わせる地点もあった。しかしところどころ倒木があり、それを避けるのにいささか難儀する。かなり急な沢状のところに、たぶん架かっていたであろう木橋などはもちろんなかった。入川の上部軌道ではまだその一部が残っていたが、そこよりも遥かに急で、下をみるとどこまで落ちてしまうのかわからないくらいのところなので、ちょっとした落石でも簡単に崩れてしまうのだろう。







先に笹が生い茂り、倒木もあってというかなり難儀しそうなところに辿り着いた。ふと腕時計を眺めると12時半を過ぎている。



反射板からここまでだいたい15分、戻って12時45分、降る時間は多くみて1時間30分、そうすると2時15分。秩父市街から先の渋滞を考えるとこのへんがタイムリミットだな、と戻ることにした。かなり中途半端なところでの戻りであるが、だからといって「スケさんカクさん、もういいでしょう」という気分になれる明確な地点がどの程度先になるのか見当もつかない。1人であるからこのへんの決断というのは実に簡単である。ちょっと名残惜しいが退散することにした。



反射板地点まで戻って、リュックのなかに入れておいたおむすびを食らう。食っているということは止まっているということで、これがまた実に寒い。しかし景色はとてもいいのでいいぞいいぞさびーの繰り返しだ。



降りは登りよりも遥かに怖かった。とにかく滑る滑る滑る。スキー板を履いていたほうがよっぽどラクだなと思ったくらいだ。何度か転倒して手と手首を痛めてしまった。スバヤク思いつき手袋を脱いで雪を手にたっぷりと着け、そのまま手袋をまた穿く。ちょうどよく冷やしてくれるようでなかなかいい具合のようだ。だが今度は足にキた。まるでスキーをやり過ぎたあとのような筋肉の悲鳴というものが聞こえてくる。しかし降りないとどうしようもないのでどんどん進む。



帰りは来たルートを辿るだけ、だからまあラクなものだと思ったらとんでもない過ちだと気付いた。それはその急降下もそうだが、ルートがまたよくわからなくなってしまうのだ。雪が積もっているところは、自分の歩いた跡がまだ残っているからいい。下に雪が殆ど積もっていない高度まで降りてくると、あれどっちだったっけ・・・とやや呆然としつつ、慎重に思い出し進んだ。いやはや、最後まで全く気が抜けない。あーれどーこまで降りるんだっけかなーと不安になってきた頃、最初の分岐点に突然着いた。上から見てもよくわからなかったのだ。山はやはり怖いところである。







家に帰ったら妻が「あなた!心配してたのよ!あたしもう寂しくて寂しくて・・・」となると実にこれはいいではないかと思っていたのだが、帰宅して妻はひとこと「はやく洗濯物を脱いで風呂にとっとと入って!」と信じられないことをいうのだった。うーしかし家の風呂は実に温かくて気分がすこぶる安らぐのだなあ。



<終わり>


写真はまた後日載せます。







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最終更新日  2005年12月23日 11時49分09秒
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