魂の叫び~響け、届け。~

パピヨン PHASE-4




ジュール隊ヴォルテール艦は、
プラントの防衛ライン監視の任に就くためアーモリーワンを出航した。








艦では居住空間が限られる為、
個室を与えられるのは指揮官、副官、艦長、副艦長、隊長。
それ以外の兵士は数名で1室を与えられている。

キラもまた例外ではなく、
同じ赤を纏うオーブ出身のシン・アスカと同室生活を送っていた。


人懐っこくてまっすぐで、喜怒哀楽を常に顔中に書いて歩いているシンは、
自称“キラのボディガード”である。


「だからアンタは、ポーッとしてて危ないんだよ!」

「そうかな?」


年少者にアンタ呼ばわりされてもエヘヘなんて笑っているキラを見たら、
銀の髪の後見人は頭から湯気を出して叫んだに違いない。



「そーだよ!食堂でまで居眠りしてさ・・・
 そこいらで寝るのやめろって言ってるだろ!」


どこでもコテンと眠ってしまう同室者に、
シンは幾度も苦労させられていた。


周囲の男共から見たら、こんな無防備なカワイコチャンは“狼の中の羊”なのだ。


裏では『姫』と呼ばれているのも、
隠し撮りのピンボケ写真が法外な値段で飛ぶように売れているのも、

この羊は知らない。


タチの悪い事に、
この羊には自分が羊だという自覚がまるでないのだ。




「さっきだってヨウランのやつに妙なイタズラされそうになっててさ!」

「わかったわかった、次から気をつけるよ・・・わっ・・・」



なーんて言ってるそばから、
通路を曲がり損ねてつんのめってたりする。



一時も目が離せない。

これでもホントに成績優秀者の“赤”か?




「―――おっと、大丈夫か?って、キラ?」

勢い余ったキラは、
通路の向こうから来た人影に突進する形になってしまった。



「ディアッカ!」

「・・・まったく、相変わらずドン臭いやつだな」

「イザーク!?」

「上官に向かって突撃してくるやつがいるか!?」


「ご、ごめん・・・」


華奢な身体を更に縮こめるキラを見かね、
ディアッカが助け舟を出そうとしたその時、


「っ・・・ジュール隊長、エルスマン大尉、申し訳ありません!」

シンはキラを背に庇う様にして、
やんわりと間に身体を滑り込ませる。




「ほら、キラも、ちゃんと謝罪しろよ」


シンに頭をグイグイ押されると、
「申し訳ありませんでした」とキラは素直に頭を下げた。


ゆっくりと頭を戻しつつチラリと見やると、
肩を震わせて笑いを堪えているディアッカの姿が目に入ったが、
イザークの方は・・・


何だか恐ろしくて見る勇気が持てなかった。



ホントすいませんでしたーーーとパタパタ去って行く後ろ姿は、
子犬が2匹じゃれているようでなんとも微笑ましい。


が・・・・・・



「なんつーカオしてんですか、ジュール隊長?」



「―――俺の顔に何か文句あるか?」





「オレのキラに触るなーーーーって? 

 そんな、、、、
 顔一面に不機嫌ですって書かれたら部下がビビるぜ?」



「うるさいっ!」

「シンは大丈夫だろ、ありゃ血統書付きの安全牌だ、うん」

「安全だろうが健全だろうが、俺は気に食わん!」






「やれやれ・・・・
 まぁ、確かに最近のキラを見れば、
 『姫、姫』って野郎共が騒ぎ立てるのもわかるけどねー」


そう、なのだ。


ここ、ヴォルテールに来てからのキラの変化。
いや、『進化』と言った方がしっくりくるかもしれない。



しなやかに、薫り立つように、内側から輝くように周囲を惹きつける。





まるで蛹から羽化する蝶のように・・・



魅せられた者はもう、



―――目が離せない。





「あいつの立場を考慮して、
 俺達は極力人前ではキラに話し掛けない関わらない・・・、
 そう決めたのはお前だろう?イザーク!?」



「わかっているっ!!」



わかってはいるのだ、

頭では。




だが身体は思うようにいかない。





飛び込んできた軽やかな甘い匂いのする身体を、
抱き締めたくてたまらない。


あいつに触れていいのは俺だけだと湧き上がる感情の渦。




「・・・・イザークっ!!!」




焦りを孕んだ親友の声も、
イザークの足を縫いとめる力にはならなかった。











*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  





オフの予定を立てているグループもあれば、
コーヒーを晩酌代わりに未来を語る者、
報告書と格闘してる者、


間近に控えたプラントへの帰投を前に、
夕食後の食堂は心地良いざわめきに満ちていた。




「よっ三人組、君ら相変わらず仲良いね~・・・『姫』と隊長、見なかった?」


『姫』が誰の事なのか、言わずもがな・・・である。


ディアッカは、
いちばん的確に説明してくれそうなレイに視線を投げた。



「キラさんなら先程・・・」



『晩飯はきっちり食ったな?
 ならばちょっと来い。・・・話しがある。』



ドリンクを片手に談笑に参加していた紫玉の瞳を持つ少年が、
嵐のように現れた銀髪の指揮官に、
半ば引きずられるようにして連れ去られてしまったのは少し前の事だった。


「・・・大丈夫かなぁ、キラのやつ」


ぽっかりと空いた向かいの席を眺めると、
シンはしおれてしまった花のようにしょんぼりと肩を落とした。


「シン・アスカのシンは心配性の“シン”か~?」

「エルスマン大尉は心配にならないんですか?
 あんな・・・今にも射殺しそうな顔でキラ連れてかれたんですよっ!」

「やめなさいよシン、上官に向かってそんな口の利き方・・・」

ディアッカは“あー大丈夫”と、
ルナマリアに向かって片手をヒラヒラ動かすと天井を仰いで嘆息した。



「ま、なるようにしかならないってね」



おどけてウインクなんぞしたものの、
勿論内心は穏やかではなかった。



この展開って・・・や~っぱオレのせい?




上手く行けば許されるだろう。うん。




―――頑張れよ、イザーク!






「さぁさぁ、辛気臭い顔してないで、パーッと騒ごうぜ。ほらほら乾杯!」



気まずい空気の中でもあえて空気を読まない暢気発言な上官を前に、
3人は渋々とグラスを掲げた。








*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  


■PHASE-5■へ続く


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