魂の叫び~響け、届け。~

パピヨン PHASE-7


「―――で?
 貴様の言い分を、『一応は』聞いといてやろう」


厳戒態勢が解除となり和やかな空気が戻ったヴォルテール艦内の談話室。


ジュール隊の面々が少し遠巻きに見守る中、
藍色の青年は苦く笑うと“相変わらずだな”と嘆息した。


「・・・キラがザフトに入ったとラクスから聞いて、
 俺にも何かプラントの為に出来る事があるんじゃないかと思ったんだ」


「なるほど。
 それで連絡のひとつも無しにオーブから単身のこのこと出て来て、
 テロリスト共の縄張りを踏み荒らしたあげく、
 こちらの防衛ラインまでわざわざ引き連れて来て下さったと、
 そーゆーワケかっ!!」

まぁまぁ、と隣で宥めるディアッカに、イザークはふんと鼻をならす事で応える。

「こんな・・・条約締結直前の慌ただしい時に、
 アスハ代表のもとを離れるのは正気の策とは思えん!違うか?」

「ああ・・・そうだな、その通りだ」


イザークはアレックスの左後方に視線を向けて目元を緩めると、
話は終わりだとばかりに立ち上がった。

「まぁいい。補給を終わらせたらオーブに戻れ。
 シャトルは見なかった事にしてやる」

つられるようにして振り返れば、
ココア色の髪を揺らした幼なじみがイザークに応えるように微笑を返していた。


「なんだか・・・アイツ変わったな」

「アイツって?イザークが?それともキラ?」

「イザークが、さ。傷を消したせいかな?
 いや、キラも・・・変わった、か?」

あんな風に笑うキラを見たのは初めてな気がした。

「あ、やっぱそう思う?イザークのヤツ、上手くやったってコトかな」

「―――それはどういう意味だ?!」

「えぇ?!いや、あいつら、その・・なんだ?ほら、え~・・と・・・」

予想以上に強い反応を返した元戦友にどう答えたらいいものかと、
脳内に浮かぶ言葉をディアッカが必死で検索していると、


「お付き合い、されてるんですよね?」


サラリとした声で言い放ったのは、
漆黒の髪の少女だった。


「やっぱりね~」

「ぉええぇぅえぇ~?」

「シン、みっともない声を出すな。
 職務に支障がないのなら俺は気にしない」


両腕を組んで頷くのは赤服にミニスカートの出で立ちのルナマリア。

踏みつけられた鶏のような声を出して目をひん剥いているのはシン。

そんなシンを横目で制するのはレイだ。




シホの分析は尚も止まらない。


「以前から女子クルーの間では2人の噂で持ちきりでしたよ!
 ね?ルナ」

そう小首を傾げて尋ねられては、
すっとぼける訳にもいかなかったのだろう。

「両者ともに・・・目立ちますからねぇ。
 まぁ恋愛は個人の自由ですし、
 レイの言うように任務に支障がないのならいいんじゃないですか?」

ルナマリアはそう答えると、
これ以上の尋問から逃げるようにそそくさとその場から立ち去った。


「隠そうとしてもわかるものですよね~
 毎日あれだけお互いハデに見つめあ合ってればね~」


シホは爆弾宣言を次々とぶちかましながら、
夢を見るようにうっとりとした瞳で熱く語り続けた。



「うっわ・・・
 知らぬは本人ばかりなりってコトぉ?
 女は怖いね~・・・って、おい?
 アス・・・じゃなかったアレックス?」


目を見開いたまま一点を見つめるただならぬ様子に、
ディアッカは肩を掴んで軽く揺すった。


「おい!―――どうした?」

「あ?あぁ・・・」

「あ~・・真面目なお前には同性とか、やっぱりキツイ?
 しかも幼なじみと元同僚の色恋だもんなぁ・・・」


「いや、ああ、うん、そう・・・だな・・・」





―――キラが、イザークと?







「だよな~俺も最初はビックリしたぜホント!」




周囲から一切の音が消えた。

まるで無音の映画を見ているような気分だ。



両脇におろされたアスランの拳が白くなるまで握りしめられ、
小さく震えている事に、ディアッカとシホが気付く事はなかった。







*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  



来訪者を告げる電子音に、キラとシンは同時に顔を上げた。



「アレックスだ。少し、話をしないか?久し振りだろ?」

「う・・・ん」

モニター越しに気まずく黙り込んでしまった同室者に、シンはそっと囁いた。

「・・・・キラ?どうかした?」


チラリと横目でモニターを伺うと、藍色の長身が佇んでいる。
さっき拾った、オーブのあいつだ。


「会いたくないの?あ、俺が追い返してやろうか?!」

「いいんだ。大丈夫、・・・幼なじみ、なんだ、彼は」

「えっ・・・?」


キラはエア音をたてて開かれた扉をくぐると、
振り返って「すぐ戻るよ」と儚げに微笑んだ。



アレックスはそんな様子を冷たく見下し、
キラの背中を押すようにして迅速な同行を促す。

「すまないが、キラを借りるよ」


口調はどこまでも穏やかではあるが、
背筋が冷えるようなその視線に思わず足が竦む。



二人が通路を曲がるまで見送ると、
シンはベッドに腰を掛けてゴロリと仰向けに転がった。


白い天井が今日はやけに眩しく感じられる。



「アレックス・・・。
 アイツ、俺の事・・・害虫でもみるような目で見やがった」





*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  






いちばん小さなミーティングルームの扉をくぐると、
僕とアスランは向かい合うようにしてソファへ腰を下ろした。


「カガリは元気?あれからオーブはどう?」

「ああ・・・元気でやってるよ。相変わらず忙しそうだがな」

「そう」

「4ヶ月振り、か?思ったより元気そうで良かったよ」

「うん。規則正しい生活のせいかな?少し太ったかも」


“ちゃんとメシを食え!”

後見人の声が聞こえた気がして、無意識に笑みがこぼれる。


「随分と楽しそうじゃないか。プラントはそんなに居心地が良い?」

「ラクスも、ザフトのみんなも本当によくしてくれて、感謝してる」



「―――キラ、このまま一緒に帰ろう。
 オーブがいやならプラントでもいい、俺と、2人だけで暮らすんだ」

「何・・言ってるのアスラン。カガリはどうするの?
 君はカガリと、僕の姉と結婚するんだろう!だから僕はっ・・・」


「身を引いたって?馬鹿だな・・・
 オーブは内側も外側もガタガタだ。
 落ち着くまでの数年間、
 あいつは首脳官邸に缶詰めでそれどころじゃないさ」


「―――それで?アスランは僕にどうして欲しいって言うの?」

「お前は何もしなくていい。
 もう戦わなくていい、ザフトになんか・・・
 無理していることないんだ!」


熱にうかされたような瞳の中に、狂気の色が滲む。


「何処へも出掛けず、誰にも会わず、
 君が帰って来るのを籠の中でただひたすら待てって?君はそう言うの?
 それが僕にとっての幸せだと、アスランは本気で思ってるの?」

紫玉を眇めて強く睨みつけて来るキラを一瞥すると、
アスランは愉悦に満ちた笑みを唇の端に刻んだ。



*  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

■PHASE-8■へ続く


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