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2003.12.13
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カテゴリ: 通常
 G計画の関係者とは会わない。そう誓ったはずだった。

 会いたくて。
 たまらなく、会いたくて。
 身を切るような冬の風が吹く中、サンダルダッシュの前で立ち止まった。
 窓から中を覗きこむ。
(透は、いない……)
 店主であるおやっさんのほかには、誰もいない。
(誰もいないなら……)


「いらっしゃ……おや、ひさしぶり」
 店内に入ると、暖かな空気が流れていた。
「おやっさん、暖房つけたの?」
「寒さが厳しくなってきたからねぇ」
 薄手のコートを脱いでマフラーを取ると、カウンター席に腰かける。
 メニューに伸ばしかけた手を制して、おやっさんがマイセンのティーカップを目の前に置いた。
「最近見なかったけど、どうしてたんだい?」
 立ちのぼるダージリンの湯気が、寒さで固くなっていた身体を解きほぐす。
 カップを両手で包みこむと、冷えた掌に心地よい熱が伝わってきた。
「ちょっと、いろいろとあって……」
 ほのかな温かみが、手を通して体全体にじんわりと伝わってくる。

「そう……ですね」
 ティーカップをのぞきこむようにして、うつむいた。
「透くんたちも安心するだろうし」
 とたんに、身体が固くなる。
 ティーカップを割りそうなほど、手に力が入っていた。

 おやっさんは火にかけたポットから出る蒸気で、グラスを磨いている。
 顔を見られてはいない。
「おや、どうしたんだい?」
 うつむいたまま口角を上げてみた。
 大丈夫、なんとか笑顔を作ることができる。
「いえ、」
 笑顔を作って顔をあげると、おやっさんは案の定、心配そうな顔をしていた。
「なんでもないです」
「そうかい、私はてっきり、透くんたちとケンカでもしたんじゃないかと思ったけど……」
 笑顔を見て安心したのか、おやっさんは再びグラスを磨きはじめた。
 気づかれないように、小さく安堵の溜息をつく。
「おやっさん、ひとつお願いがあるんですけど、いいですか?」
「なんだい?」
 グラスを磨く手を止め、おやっさんが真剣にみつめてくる。
「今日、僕がここに来たことは、透たちには黙っていてほしいんです」
「理由は、聞かせてもらえるのかな?」
「いえ、それは……」
 再び、ティーカップをみつめる。
 たとえおやっさんといえど、気軽に話せる内容ではない。
 桃香の父親代わりだったおやっさんだからこそ、言うのはためらわれた。
「わかったよ」
「え?」
 顔を上げると、おやっさんはいつもの柔和な笑みを浮かべていた。
「困ったときは、いつでもおいで。役に立てることがあるかもしれないからね」
「おやっさん……」
 別の温かみが、心に広がっていく。
 とっさに、言葉が出てこない。
「まあ、私にできることなんて、たかがしれてるがね」
 何かこみあげてくる気がして、コートとマフラーを手にとった。
「帰るのかい?」
「いえ……でも、もう行きます」
「またおいでよ?」
「はい。ごちそうさまでした」
 ゆっくり扉を開けると、カウベルの音とともに冷たい空気が流れこんでくる。
「おやっさん、ありがとう」
 そうつぶやくと、サンダルダッシュを出て歩きだした。
 風の音が強かったから、最後の言葉がおやっさんに届いたかどうかは、わからない。





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Last updated  2003.12.13 21:23:12


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