『風立ちぬ』については、まず主題は物語序盤でカプロー二が言う「飛行機作りは夢だ」の通り、飛行機作りの美しい夢と男女の恋の美しい夢の両方を描いた作品だと考えます。あえて序盤に明言しているのは、戦争との関連が強くなる題材を扱うので、最初に主題を明確化して戦争が主題にないことを示す狙いがあったと考えています。
飛行機作りの夢については、二郎の飛行機作りにかける生き方がそのまま主題を描いています。男女の恋については物語中盤以降特に描かれていますが、二郎が飛行機作りと菜穂子との恋愛の両立をしようとしていることから読み取れます。
そして、扱う題材の性格上戦争を描くことになっているものの、主題は戦争とは関係ないことを示そうとする監督の意図も見られます。まずは先述挙げた冒頭のカプロー二の発言です。ここまで早く主題を明言した同監督の作品はほとんどなく、これは意図的に序盤に明示しているものと考えられます。また、本庄との会話など随所に戦争との距離感を示す会話が示されてもいます。加えて、「美しい」夢を描いているということも、戦争と距離をとっていることを表しています。最も顕著に表現されているのは、物語序盤のいじめをしている悪ガキたちのセリフと、終盤の海軍たちのセリフの表現です。これらだけ何を言っているかわからないようになっていますが、「美しい」夢を扱う作品であり、汚い言葉をわざと消している表現となっています。
これらの戦争作品と扱われないような配慮をしながら、飛行機作りと男女の恋両方の美しい夢を描いたのが本作品だと考えます。ただ、個人的には両方を同時に扱うなら、倍くらいの上映時間があったらなおよかったと感じる部分もあります。
風立ちぬ [ 宮崎駿 ]