月の旅人

月の旅人

観光初日の午後編

観光初日の午後編


待っていた観光バスに乗って昼食場所に向かう。
着いた所は、龍の形に刈り込まれた植木があったり、手入れされた花が訪れる人を出迎えてくれる涼しげなレストランである。レストランと言ってもとても開放的で、長く連ねられた2列のテーブルと川に沿って置かれた長テーブルを覆うように屋根が作られ、窓もドアもない素朴な所だった。
私たちの一行は川沿いのテーブルに案内され、ガイドさんがみんなを見渡して訊いた。
「皆サン、飲ミ物ハ何シマスカ?」
何、と言われても何があるというのだろう。
それに「お金いるの?」と囁き交わしている私たちを見ても何も言わないガイドさん。そこで、きちんと訊くべきだったかもしれない。
「ツアーに含まれてるんとちゃう?」と言った私の意見に誰もが納得したのか、ツアーの全員がペットボトルのミネラルウォーターを1本ずつ頼んだ。

象耳魚姿揚げ
ベトナム名物の魚『エレファント・フィッシュ(象耳魚)』の姿揚げが運ばれてきて、真っ白なアオザイ姿の店員さんがその身をほぐし取り、ライスペーパーに香菜と共に乗せて手際よく巻いていった。本場の生春巻きである。
本場も何も、私は生春巻き自体をこのとき初めて食した。ヌックマムだかニョクマムだか、ベトナムの調味料をつけて。
「おいしい~♪」
初めて食べたため「さすが本場は違うなぁ」とかいう感想は抱けなかったけれど、そのおいしさには感動した。ただ、ひとり1巻き、多くて2巻き分しかなかったのがとってもとっても悲しかった……。
このときに出て来た中で一番珍しく一番気に入ったのは、直径15~20cm程の球状に膨らんだ揚げ餅のような料理である。それはそれは見事にまんまるで、店員さんがハサミを差し入れて切ると中は空洞になっていた。適度な大きさに切り取っては三つ折りにして皿に盛ってゆく。まずそれをお箸で持ち上げたときの粘り具合で「お餅かな?」と思い、食べてみてそれを確信した。
シンプルなおこげと油とお餅の味が見事に調和したおいしさだった。自分たちの前に置かれた皿を瞬く間に空にしてしまい、両サイドから分けてもらったくらい気に入った料理だった。
ああ、できることならもう一度食べたい!!
でもお餅だとするならどうやって球状に膨らませているだろうかと、ひたすら気になった料理でもあった。思い出すたびに、こうしてまた疑問が浮上する。(^^;)
食べ終わった後、「皆サン、飲ミ物1ドルデス」とガイドさんが言った。
そう、結局飲み物は昼食に含まれてはいなかったのだ。それにしても事後承諾で請求するとはひどい話である。それも1ドルなんて高過ぎる。散々ブツブツと言ってみても、すでに飲んでしまったものはどうしようもなかった。また友達にドルを借りる羽目に。
せっかくおいしかった食事も、最後にはなんだか不愉快な気分で終わってしまった。
ちなみにそのとき出された300mlくらいのミネラルウォーターは、ホーチミン市内でも7400ドンで売られていた。1ドルはその約倍である。
『気をつけよう 思わぬ所で ぼったくり』
以上、またしても教訓であった。( -_-)フッ


昼食後、漆塗り工場へ。
こじんまりとした工場内では、絵を描く人、絵に合わせて貝殻を切る人、貝殻を板に埋め込む人、漆を塗る人など、分担作業で幾人もの人が長机に向かっていた。
例によってアオザイ姿の女の人が日本語で作業の工程を説明してくれる。綺麗な深紅のアオザイが薄暗い工場内に一際映えていた。
長机で作業する人たちの横を説明を受けながら通り過ぎ、作品が所狭しと並ぶ部屋へと案内された。ベトナムの風景や鳥や馬、水墨画を思わせる山並みや仏など貝殻で描かれた美しい絵が壁にかかり、その下にはコースターや小物入れ、ペンケースに仏像や龍の置物など、黒く艶やかなそれらの漆製品はそこで買うこともできるのだ。たいそう立派なテーブルと椅子も売っていたりして、高級感が漂っている場所だった。
それでも日本で見る漆製品とは比べ物にならない安さだったけれど。それゆえに欲しいと思う物は幾つかあったけれど、何しろ手持ちのお金がない。それに欲しいと思ったそれは決して小さい物でもなかったので、荷物にもなるし、とあっさり諦めた。
友達は長く迷った末、小物入れをお土産に1つ買っていた。もらった人はきっと、それを一生使い込んでくれることだろう。その価値のある、良い品だった。


バスはホーチミン市内に戻り、アオザイがオーダーできるお店へ。
ガラス張りのドアを開けて迎えてくれた店員さんに木の皮で編まれたうちわをもらい、とても綺麗で明るい店内に入った。西洋風の食器や刺繍入りのコースター、クッションカバーにタオルにスリッパと、日用雑貨も陳列棚に整然と並べられていた。
「アオザイ作ル方、コチラデス」
クリーム色のアオザイを着た女性店員さんが何人もいた。最初からアオザイを作ると決めていた友達は招かれるままに奥へ入り、生地選びに取り掛かった。他のツアー客も何人か生地を体にあててもらっては姿見でチェックをしている。私たちは物珍しそうにその様子を眺めたり、友達に「これは?」と生地を勧めたりしていた。すると、「オ姉サン、コレ似合ウ」だとか「オ姉サン、スタイルイイ。アオザイ似合ウ」だとか、「オ姉サン」「オ姉サン」としつこいほどに(←現にしつこかったわけだけど)声をかけられ、アオザイ作って攻撃が始まった。頼んでもいないのに「コノ色似合ウ。キレイ」などと言って肩から生地をかけてくる。「私はいらない」と何度言ってみても、相当長く諦めてもらえなかった。(;^_^A アセアセ…
その間にも友達は生地を決め採寸をしてもらっていて、私たちは男の店員さんが傍にあった天然の木の幹を磨いてそのまま使っているような立派なテーブルに用意してくれたお菓子をつまんで、お茶を楽しんだりした。
ベトナムは料理だけじゃなくお菓子やお茶もなかなかいける、と知ることのできた有意義な時間だった。
だって、何も買ってないのにサービスだったし。ラッキー♪(笑)


REXホテル系列のベトナム<br>料理店
夜はREXホテル系列のベトナム料理店でベトナムの伝統的な踊りだというショーを見ながら食べた。REXホテルは国営だから、おそらくこのお店も国営だったの
だろうか。店内は中国風の笠がついた昭明が下がり、天井や梁に金細工が施され、飴色の重厚感あるインテリアに観葉植物などが飾られた高級そうな料理店だった。
そういえば、店内には日本人はもちろん西洋人などの観光客しか見当たらなかったような……。
出された料理はコース料理で、円形に揚げられたエビせんのようなものが添えられたサラダや刳り貫かれたパイナップルに火が灯され竹串で突き刺された一口サイズの揚げ春巻きネムザン、コムセンというハスの葉で包まれたハスの実入りチャーハン、野菜たっぷりのスープ、どう見てもバーベキューの肉と野菜を串刺しにしたようにしか見えないものやエビチリ風の料理、そしてデザートにニャーン、別名竜眼と呼ばれる果物が出た。
もう1つ1つの量が多くて、頑張って食べてはみたもののたくさん残してしまった。
どう頑張っても無理だった。なんてもったいない……。半分の量で充分だったのになぁ。
でもニャーンだけは綺麗に平らげた。ほとんど、2人の友達が。(笑)
フルーツ園でも食べたはずだけれど、ここで食べたニャーンはとてもさっぱりとした甘みがおいしくて、山と盛られたそれは次々と殻だけになっていったのだ。
苦しいほどに満腹になり、ホテルへと帰って、観光第一日目のプランが終了した。




© Rakuten Group, Inc.
X
Mobilize your Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: